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「バラティエ」は本当にあったんだ……熊本で見つけた尾田さんの足跡

「薔薇亭」に寄贈されたイラスト入りのサイン。額縁に入れられ、大切にされていました
「薔薇亭」に寄贈されたイラスト入りのサイン。額縁に入れられ、大切にされていました

目次

そこには強いコックも片足のオーナーもいませんでしたが、「ルフィ」の面影を確かに見つけることができました。「ワンピース」作者の尾田栄一郎さんの故郷、熊本市にあるレストラン「薔薇亭」。ファンの間では、尾田さんが高校生の時にアルバイトをしていたとうわさされているお店です。「ここで尾田栄一郎さんが働いてたってほんとですか……?」。もう一つの「バラティエ」の物語を聞きました。(デジタル編集部・池上桃子)

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熊本市にある「薔薇亭」。
熊本市にある「薔薇亭」。

「ここで働いてたってほんとですか……?」

「薔薇亭」は熊本市で1番の繁華街の一角にあります。静かで高級感のある雰囲気。個室の中、目の前の鉄板でお肉や野菜を焼いてくれます。

マンガに登場する海上レストラン「バラティエ」と1文字違い。地元では「あそこでバイトしてたらしいよ」という話を色んな人がまことしやかに言っているものの、確認したことはありませんでした。

「バラティエ」のにぎやかな雰囲気と違ってきちんとしたしつらえ。実際、昔は接待などによく使われていたようです。

「ここで尾田栄一郎さんが働いてたってほんとですか……?」

店員さんに聞いてみると、にっこり笑って「そうですよ。昨日も同じ質問したお客さんがいました」。

尾田栄一郎さんが高校生の時にアルバイトをしていた熊本市の「薔薇亭」
尾田栄一郎さんが高校生の時にアルバイトをしていた熊本市の「薔薇亭」

「全国からファンの人たちが来て……」

「尾田が働いていたのはここじゃなくて、別のところにあった支店です。皿洗いやサラダづくりをやっていました。私はバイト時代の尾田を知る数少ない店員のうちのひとりです」

答えてくれたタサキさんは、「薔薇亭」で働き始めて28年というベテラン。今では大作家になった尾田さんですが、タサキさんが親しみを込めて「尾田」と呼ぶのを聞くと、「ああ、本当に働いていたんだ」と実感がわいてきます。

タサキさんは、尾田さんが店に寄贈したという色紙を持ってきて見せてくれました。

「お店には全国からファンの人たちが来て、色紙の写真撮って帰っていきます。大きなリュックを背負ってくる若い男の子は大体ワンピースファンですね」

「薔薇亭」で働くタサキさんはベテランの料理人。お客さんに色紙を快く見せてくれます。
「薔薇亭」で働くタサキさんはベテランの料理人。お客さんに色紙を快く見せてくれます。

「また割りよったか!」

当時、尾田さんに仕事の指導をしていたというタサキさんによると、尾田さんはよくお皿を割っていたそうです。

「また割りよったか! と、おしりをぺしっとね。コックのサンジは足技を使うと聞いて、苦笑したこともあります。それから、朝から仕込んだスープを尾田が捨ててしまった事件もありました。今は出していないコンソメスープなんですが、透き通っていて、水みたいに見えたからでしょうね」

マンガにも、海上レストラン「バラティエ」でルフィが皿を割るシーンや、コックたちがスープを捨てるシーンが出てきます。

店の中はこんな感じで、高級感のある落ち着いた雰囲気。
店の中はこんな感じで、高級感のある落ち着いた雰囲気。

急に取った休みの理由

18歳の時、バイト時代の尾田さんが急に10日ほど休みを取ったことがあったそうです。

「あとから聞いたら、投稿したマンガが掲載されることになって東京に行くと聞きました。自分はマンガ家として生きていこうと思うと言うので、マンガを描いていたこともその時に知りました」

店をやめたあと、尾田さんは1度だけ食事に訪れたそうです。その時に担当したのはタサキさん。

「8人くらいで来たから、汗だくになって焼きました。焼くのに忙しくて、本人とはそんなに話はしなかったです」

目の前で肉や野菜などを焼いてくれました。
目の前で肉や野菜などを焼いてくれました。

熊本地震では被害も

3年前の熊本地震では、「薔薇亭」がある熊本市中央区も大きな被害が出ました。ガスが来なくなったり、ワインが割れたりして、10日間は営業できなかったそうです。

タサキさんの住む地域はそれ以上に被害が大きく、「近所には全壊した家もたくさん。私の家も基礎に被害が出て、中もタンスが倒れて、エアコンが外れてぶらさがっていました。毛布一枚持って逃げて、家族で10日間くらい車中泊しました」

熊本地震では、熊本・大分両県で20万棟以上の建物が被害を受け、熊本県内では最大で4万7800人が仮設住宅などで暮らしました。今は6割以上が退去しましたが、まだ見通しが立たない人もいます。

タサキさんは「街中を歩いてたら、もう復興しているように見えるよね。でも、仮設住宅でまだ暮らしている人や、仮設でなくなった『孤独死』の話を聞くとまだまだなんだな、と思います」。

「薔薇亭」に寄贈されたイラスト入りのサイン。額縁に入れられ、大切にされていました。
「薔薇亭」に寄贈されたイラスト入りのサイン。額縁に入れられ、大切にされていました。

「内気な、おとなしい男の子」が8億円の寄付

お肉を焼いてくれた時、タサキさんに「料理に合うお酒はなんですか?」と聞くと、「なんでもいいですよ。ワインだけじゃなく焼酎を頼む人もいるし。お客さんが好きなものに合わせて食べてください!」。

高級感がある大人な雰囲気に慣れない私も、タサキさんの飾らない言葉でリラックスできました。そんな気取らない空気感は、尾田さんのマンガと通じます。

尾田さんは熊本地震後、8億円の寄付金や義援金を寄せてきました。キャラクターの銅像をつくる資金はそこから捻出され、海外も含めたファンが訪れることでインバウンド効果が期待されています。

「内気な、おとなしい男の子」という印象だった尾田さんが、多くの寄付をしたり、支援をしてくれたりしたことについて、タサキさんは「びっくり。でも、感謝しかないです」と言います。

「もちろん尾田だけじゃなくて、全国から義援金をくれたり、ボランティアをしてくれたりした人がいた。東日本大震災があった時でも、まさか自分が被災者になると思わなかった。全国の人たちにありがたい気持ちです」

像は被害が大きかった自治体に設置され、近くに震災遺構やミュージアムもつくられる予定です。地震について知ってもらうきっかけになるようにとの思いが込められています。

「実は、まんがとか全然読まないからよくわからんのですよ。キャラクターも3人くらいしか知らないから、このガイコツは何する人かね……。でも、キャラクターの像が全部できたら、見に行こうかなと思います」

薔薇亭のロゴ
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