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#21 #となりの外国人
「避難」が分からない外国人 災害の教訓が生んだ使えるアプリ
世界でも、自然災害が多い日本。異国の地で被災した外国人は不安が倍増します。避難を呼び掛けようとしても、実は日本人が「常識」だと思っている「地震」や「避難」が、伝わっていない可能性があります。日本人も外国人も互いにどんな心構えができるのか、使えるアプリやツールを紹介します。

山形県沖を震源とし、新潟県村上市で最大震度6強を観測した地震が、6月18日夜に発生しました。気象庁は今後1週間ほどは最大震度6強程度の地震が起きる可能性があるとして、警戒を呼び掛けています。
今回は津波注意報も出されたため、被災地域に暮らす外国人などに向けて、英語や中国語で避難を呼び掛けるツイートが拡散しました。
また、英語などが分からなくても、日本語がわかる外国人に対して「つなみ にげて」など簡潔な言葉で避難を呼び掛けるツイートも増えました。
「地震」がわからない
今回の地震が起きた時、思い出したのが、2016年の熊本地震で、被災したバングラデシュ人男性(当時36歳)の言葉です。
男性は、妊娠6カ月だった妻と夜、自宅アパートにいたとき、激しい揺れに襲われました。しかし母国で大地震の経験がなかった男性は、一瞬、何が起きたか理解ができなかったと言います。
「壁に頭をぶつけてようやく『これは地震だ』と気づいた」
日本にいる私たちは、揺れれば当たり前に「地震が起きた」と思っています。しかし、世界では地震が起きない国もあります。日本で初めて揺れを経験するという外国人も多いのです。
「地震」だと分かるから、身を守ったり、避難したりする、という行動に移れますが、揺れている理由が分からない外国人は、パニックに陥る可能性があります。

「避難所」がわからない
熊本地震で被災したバングラデシュ人の男性は、身重の妻を連れて物が散乱した自宅を飛び出しました。しかし、次にどんな行動をとればいいのか、見当がつきませんでした。
あてもなく車を走らせ、たどりついたのはスーパーの駐車場でした。カーラジオをつけても、情報は日本語だったため理解できません。
妻の体調とおなかの赤ちゃんが心配でした。途方に暮れながら、車内で不安な5時間を過ごしました。
この男性は、幸運にも偶然通りがかった住民が見つけてくれ、身ぶり手ぶりで、最寄りの「避難所」に案内してくれたそうです。このとき男性は、初めて、災害時には「避難所」が設けられ、食事や寝床が提供される、ということを知ったといいます。
避難所は学校に設置されることが多いですが、子どもがいなければ、学校がどこにあるかも知らず、学校がしばらく過ごせる避難場所になるとは、夢にも思わないという外国人もいます。

外国人が使えるアプリやツールは
訪日観光客向けに作られた日本政府観光局(JNTO)のアプリ「Safety tips」は、4言語(日・英・中(簡体字/繁体字)・韓)に対応しており、平時からアプリを入れておくことで、災害時にとるべき行動をフローチャートで確認しておけたり、災害時は緊急地震速報が受け取れたりします。
災害時の質問集もあり、周りの人に「これは地震ですか?」「安全な場所はどこですか?」など聞くのに役立ちます。
JNTOでは今年3月末に、コールセンター(050-3816-2787)での音声案内で、日本語、英語、中国語、韓国語で交通情報や空港情報、災害情報を伝える機能を整えました。24時間、365日対応しています。

「避難所〈逃げるところ〉」「外国人も日本人も誰でも行くことができます」「水、食べものをもらうことができます」といった情報や、避難時に持ち出す物のリストがあります。11言語の冊子をダウンロードできます。折りたたんで財布や手帳に入れやすいサイズになります。
近くの避難所も書き込めるため、「外国人と付き合いがある日本人には、日頃から近くの避難所を教えてあげてほしい」と呼び掛けます。

日本人が支援で使えるツールは
多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」は、日本語で話しかけると外国語に翻訳してくれます。言語によって翻訳精度に差はありますが、翻訳できる言語は31言語(音声で入力できるのはうち18言語)と、マイナーな言語にも対応しています。
東日本大震災の時に配布したもので、特に避難所で使われる会話を、英、中、韓のほか、ポルトガル語やインドネシア語など9言語とイラストで表現しました。
「毛布」「水」「食べ物」などの単語を指さして「~をください」「~時に配ります」といった文章を指さすと、会話が成り立ちます。 日本にある各国大使館の連絡先なども一覧できます。
「やさしい日本語」で話しかけて
「英語できないし、通じないかも」と不安になるかもしれませんが、ぜひ、わかりやすい日本語を使って伝えてください。日本で暮らしている外国人には、英語よりも日本語の方が通じる方も多くいるからです。
ただ、東日本大震災の時は「津波が来る。高台に避難して」と呼びかけても理解できない外国人がいたと言います。
「避難」など普段の会話で使わない言葉は、普段の会話でも使うやさしい言葉に言い変えることで、伝わりやすくなります。
「避難」ではなく「高いところに、逃げて」。
文字にする場合は、「災害用語」にルビをふり、説明を添えると、伝わりやすいです。
「余震(よしん)〈後(あと)で 来(く)る 地震(じしん)〉」
「津波(つなみ)〈とても 高(たか)い 波(なみ)〉」
やさしい日本語や、絵を使って伝える方法は、外国人だけでなく、子どもや、何らかの障害がある人などにも、分かりやすくなります。
過去の被災地では、お年寄りが多い地域で、外国人の若者が日本人を助ける側として活躍したなどの例もあります。少し意識を変えたり、準備をしていることで、いざというときに互いに支え合える関係になれると、過去の被災地の教訓が教えてくれています。

日本で働き、学ぶ「外国人」は増えています。でも、その暮らしぶりや本音はなかなか見えません。近くにいるのに、よくわからない。そんな思いに応えたくて、この企画は始まりました。あなたの「#となりの外国人」のこと、教えて下さい。
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