連載
#3 #父親のモヤモヤ
1歳の娘、妻に任せ単身赴任 「取り返しのつかない時間失っている」
なぜ、父親は育児の主体としてみてもらえないのだろう。この「モヤモヤ」は、胸のなかに秘めたままにしておこうと思っていました。いまの社会で、仕事と育児のバランスで悩み、苦しんでいるのは圧倒的に女性です。そんななか、男性の自分がそれを言い出すことに、どこか遠慮してしまう気持ちがありました。
記者(44)は2017年1月、長女(2)の誕生にあわせて6カ月の育児休業をとりました。なのに、育休が明ければ、意識は長年染みついた「仕事モード」に逆戻り。知らず知らずの間に、妻(43)との意識のギャップも生まれ、半年後には転勤。1年間の単身赴任となりました。あのとき、どうすればよかったのだろう? 「父の日」があったこともあり、この間避け続けてきた自分のなかにくすぶり続ける「モヤモヤ」と、前後編にわたり、向きあってみました。
前編では、6カ月の育休取得後、「元通り」になってしまった記者が、妻に保活を任せっきりになってしまっていたことを回顧するところで終わりました。その後、保活は、家族はどうなったのでしょうか……。
6カ月の育休を終え、すっかり「仕事人間」に戻ってしまっていた頃、妻の頭を占めていたのは「保活」でした。私が仕事に気をとられている間も、妻は1人で保育園見学を続けました。
そのたびに保育園の情報を伝えられていたはずなのですが、正直、あまり記憶に残っていません。家からの距離など、希望する保育園の情報は共有していましたが、結局、妻がどの保育園に、何カ所に希望を出したのかは把握していませんでした。
当時のことをいま、妻に尋ねると、妻は「ものすごく不安だった」と言います。育休を一緒にとってずっと相談しながらやってきたところから、急に1人だけ取り残されたような感覚。そのときの妻の気持ちを考えると、胸が痛みます。
2018年2月、保育園の内定通知が届きました。最終的に妻は、認可と認証をあわせると20カ所以上の保育園に希望を出していました。そのなかでは最も家から遠い場所でしたが、妻は通知の紙を手に息をのみ、「決まった!」と声をあげました。その数日後、私の大阪転勤が決まりました。
苦労してつかんだ内定通知を前に、断る選択肢はありませんでした。私の単身赴任が決まりました。
単身赴任中は職場の理解もあり、月に2回は週末を利用して東京に帰宅することができました。ただ、職場復帰と同時にワンオペになった妻が、日々疲れ果てていく姿がみてとれました。
週末帰るときは、月曜日に長女を保育園に送ってから、新幹線に飛び乗ります。最初は寂しさとやるせなさでうちひしがれているのですが、新大阪駅に着くころには、気持ちが「仕事モード」に切り替わります。
仕事は楽しく、人間関係に恵まれていたこともあり、あっという間に「仕事だけ」の生活になじんでいきます。そんな自分自身に後ろめたさがありました。
どこかで、自分のなかで優先順位をつけなければいけない。ずっとそう思っていました。いつの間にかすべり台の階段をのぼれるようになったり、知らない歌を歌い始めたり。帰るたびに成長していく長女の姿を突きつけられるたびに、言葉にならない衝撃を受け、あるとき、思いました。「自分はいま、取り返しのつかない時間を失っている」
秋に椎間板ヘルニアを発病して入院。その治療が思ったよりも長引いたこともあり、単身赴任生活は1年で終わりました。
これを機に、自分のなかで優先順位を決めました。家庭と育児が一番で、仕事はその次。人生は長いようで、短くもある。子どもの成長は早い。いずれこの日々も、あっという間に過去のものになっていくのです。職場に私の代わりはいくらでもいるけれど、妻と長女にとっての夫と父は、私しかいないのです。
保育園の送りだけでなく、迎えも交代でできる体制にしました。保育園の連絡帳にその日の様子を記入したり、持って行くおむつに名前のスタンプを押したり。やることは限りなくあると、実感します。
まわりにちやほやされた育休中の時期。そして、仕事に追われ、思ったように育児にかかわれなかった時期。なんとなく抱き続けてきたモヤモヤがあります。
なぜ、父親は仕事をするのが当たり前で、育児をする主体としてみられないのだろう? 自分が母親だったらもっと堂々と育児にかかわれるのでは?
でも、いま、それは少し違ったかもしれないと思います。裏を返せば、女性は育児をするのが当たり前とまわりからみられ、堂々と仕事に打ち込めない、ということでもあるのです。
結局、自分自身が父親と母親の役割の意識にとらわれていて、そこから脱しようとしなかったのではないか。まだモヤモヤは残っています。
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父親と母親のメンタルヘルス対策などに詳しい、国立成育医療研究センター政策開発研究室長の竹原健二さん(39)に話を聞きました。
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(たけはら・けんじ) 2003年、筑波大学体育専門学群卒業。国立保健医療科学院専門課程、筑波大学人間総合科学研究科を経て、国立成育医療研究センターに着任。2016年より現職。専門は母子保健の疫学。妊産婦や父親のメンタルヘルスなど周産期や小児期の人々の健康に関する調査研究などを手がけている。
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