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連載

#10 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

懐かしい!バブル時代の観光地みやげ 「キツネ」モチーフが多い理由

感染症をもらたす条虫「エキノコックス」の宿主のイメージが強く、農作物を荒らす害獣扱いだったキタキツネが、なぜ?

北海道の定番みやげ「バター飴」。ここにもキツネのファンシーなイラストが描かれています。
北海道の定番みやげ「バター飴」。ここにもキツネのファンシーなイラストが描かれています。

目次

「ファンシー絵みやげ」をご存じでしょうか。80~90年代に日本中の観光地で売られていた、子ども向けの雑貨みやげのことで、ローマ字日本語、二頭身デフォルメのイラストが特徴です。写真を見てピンときた人もいるかもしれませんが、今はもうほとんど売られていません。実はこの「ファンシー絵みやげ」、なぜか「キツネ」をモチーフにしたものが多いのです。その背景には、あるヒット作があったのですが……。全国の観光地で「ファンシー絵みやげ」を「保護」している山下メロさんの連載、第10回です。

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ファンシー絵みやげ紀行

記憶のどこかにある「ファンシー絵みやげ」

これまで私が全国で「ファンシー絵みやげ」を保護する過程のお話をしてまいりました。今回は番外編ということで、保護したファンシー絵みやげの源流について少しお話したいと思います。

「ファンシー絵みやげ」という言葉を知らない人でも、現物を見せると記憶の扉が開き、ほとんどの人がその存在を認識しています。

バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
「ファンシー絵みやげ」は子ども向けのお土産ですが、当時子どもだった人でなくても、上の世代では「子供や孫がお土産に買ってきてくれた」または「子供や孫にお土産で買って帰った」という経験があります。

また、下の世代では「(自分の両親が子供時代を過ごした)おじいちゃん・おばあちゃんの家で見たことがある」という経験があるのです。なので、まず「まったく見たおぼえがない」という人に会うことはほとんどありません。
 
そんな中、多くの人が「こういうのでキツネのものとかあったよね」と言います。たくさんのファンシー絵みやげを見せた時には「そうそうこのキツネの見たことある」と、キツネモチーフのファンシー絵みやげを指さします。

記憶に強く残っているのが「キツネ」、そして一番に想起されるものも「キツネ」というわけです。
どうして「キツネ」…?
どうして「キツネ」…? 出典: PIXTA

キタキツネが「ファンシー絵みやげ」の始祖?

私もファンシー絵みやげを集めていく中で、キツネのモチーフが多いことが気になっていました。始まりは何だったのか、そしてどうしてキツネだったのでしょうか。

「North Fox in HOKKAIDO」というシリーズのキツネ
「North Fox in HOKKAIDO」というシリーズのキツネ

そんな中で出会ったのが「North Fox in HOKKAIDO」というシリーズです。舌を出したキタキツネが、目をこすっているようなイラストが特徴的で、まるで泣いているようです。

「North Fox in HOKKAIDO」のキーホルダー
「North Fox in HOKKAIDO」のキーホルダー

一般的なファンシー絵みやげのキーホルダーは、「シーベル」と呼ばれる金具がついています。いわゆるねじれが起こりにくいチェーンなのですが、このシリーズには、それがありません。金属のツメを開くタイプのリングのものがいくつか存在しました。

「シーベル」と呼ばれる、一般的な「ファンシー絵みやげ」キーホルダーの金具
「シーベル」と呼ばれる、一般的な「ファンシー絵みやげ」キーホルダーの金具
「North Fox in HOKKAIDO」キーホルダーの金具。「シーベル」とは違う形をしている。
「North Fox in HOKKAIDO」キーホルダーの金具。「シーベル」とは違う形をしている。
しかも絵柄もやや古い感じで、ファンシー絵みやげの特徴である二頭身ではあるものの、多くのファンシー絵みやげで見られるゴマ目や頬を赤らめている表現もありません。

なんとなく自分の中でこれは「ファンシー絵みやげ」と、それ以前のお土産キーホルダーとを繋ぐミッシングリンクなのではないかと仮説を立てていました。

私の仮説の真偽は…

北海道釧路市にある「阿寒湖アイヌコタン」
北海道釧路市にある「阿寒湖アイヌコタン」

その後、北海道で何度か調査を行ううちに、阿寒湖畔で「North Fox in HOKKAIDO」が多く売られている土産店を見つけました。せっかくなので、このシリーズについて、お店の方に質問してみました。

 

山下メロ

この 『North Fox in HOKKAIDO』について聞きたいのですが

 

お店の方

ああ『ナキギツネ』

 

山下メロ

ナキギツネ!?

 

お店の方

私たちの間ではそう呼んでましたよ

 

山下メロ

このナキギツネはかなり昔からあるものなのですか?

 

お店の方

1979年ごろだったかしら、このナキギツネが出てきて、すごく売れました。それを見た他の会社が次に『ラブちゃん』を作ったんですよ

 

山下メロ

ラブちゃん?

 

お店の方

この『Lovely North Fox』

「Lovely North Fox」はバター飴のパッケージとして今も使われているイラストです。空港や物産展などでも販売されており、見たことがある人も多いのではないでしょうか。

「Lovely North Fox」イラストのバター飴
「Lovely North Fox」イラストのバター飴

 

山下メロ

『Lovely North Fox』が次なんですね

 

お店の方

これも人気になって、それから色んな会社がキタキツネのキャラクターを作るようになりましたね

 

山下メロ

やっぱり最初はナキギツネだったんですね!
私の仮説が当たっていたようで、テンションが上がり「そうじゃないかと思ってたんです!」と喜んでしまいました。

それからというもの、気が付くと私も「North Fox in HOKKAIDO」を「ナキギツネ」と呼んでいました。つい寿司屋で「おあいそ!」とか、吉野家で「ツユダクネギヌキギョク!」とか通ぶってしまう恥ずかしさもありますが、ついつい業界人風に「ナキギツネ」や「ラブちゃん」と言ってしまうようになりました。

「ナキギツネ 」が人気を集めたワケ

さて、簡単にナキギツネが生まれた背景を見ていきましょう。

ファンシー絵みやげが生まれた80年代初期は、ちょうど団塊ジュニア世代が子どもだった時期です。つまり、子どもの数がとても多かったので、観光物産業界も子どもをターゲットにした商品需要があったと考えられます。

そんな中、1978年にキタキツネの生態を撮影した吹き替え実写映画『キタキツネ物語』(サンリオ)が公開されました。翌1979年にはテレビ放映され、動物映画の視聴率記録を打ち立てました。

感染症をもらたす条虫「エキノコックス」の宿主というイメージが強く、農作物を荒らす害獣扱いだったキタキツネの人気は高まり、そこに「North Fox in HOKKAIDO」が登場しヒットしたのです。

その後、ヒットを受けて「Lovely North Fox」など他社もキタキツネのキャラクターを生み出していき、イラストもだんだん洗練されていきました。そしてホンドギツネのいる本州でも、キツネキャラクターが広がっていったのです。

増えていった「キツネ」モチーフの商品たち
増えていった「キツネ」モチーフの商品たち

ファンシーグッズにおけるキツネモチーフはコクヨの 「Lonely Little Fox」 以外あまり存在しなかったキツネが、観光地で少しずつ注目を浴びるようになりました。

なぜ「キツネ」なのか

キツネが多い理由としては、まず観光地は自然の中にあります。湖や渓谷、峡谷、そして火山と温泉、スキー場。それらを象徴するイラストといえば山や森などの「風景」ですが、キャラクターイラストを配置するとなると、登山家やスキーヤー、入浴客といった「誰でもない人物」、または動物ということになります。

動物においてはキツネのほかにもウサギ、クマ、リス、サル、タヌキなどの日本の里山に登場する動物が定番です。ウマやウシ、シカ、カモシカなどの蹄を持つ動物はデフォルメが難しいためかあまり登場しません。

「クマ」モチーフのファンシー絵みやげ。二頭身で、おでこは広くなりがち。
「クマ」モチーフのファンシー絵みやげ。二頭身で、おでこは広くなりがち。
そしてイヌやネコなどの身近な愛玩動物については、やはり非日常空間である観光地にはそぐわないようで、ほとんどモチーフとなっていないのです。特に家でイヌやネコを飼っている人にとっては、観光地らしさや特別感に欠けるのでしょう。
 
そんな中で、いち早くデフォルメイラストが作られていったキツネは洗練されていくスピードが速かったように思います。

あのファンシーグッズの象徴ともいえるクマやウサギをはるかに凌駕し、ファンシー絵みやげ界において頂点に立った百獣の王は、キツネなのです。
ファンシー絵みやげ界の「百獣の王」、それがキツネなのです
ファンシー絵みやげ界の「百獣の王」、それがキツネなのです

山があれば、森があれば「キツネくらいいるだろう」ということで、かなりの数が存在します。特に本土の山などで実際にキツネを見ることはなかなかありませんが、土産店に入ればキツネはとてもたくさん売られていたのです。

「キタキツネ」から全国展開

「Mt.FUJI」の文字が入ったキーホルダーがあります。こちらには「おコン」というキツネのキャラクターが描かれていますが、注目して欲しいところは「どこにも富士山が描かれていない」ということです。
「Mt.FUJI」と書いてあるけど……
「Mt.FUJI」と書いてあるけど……

こうすれば地名だけ後から印刷して、他の観光地でもたくさん売ることができるというのも一つの理由です。それに、子どもは風景より動物のコミック風イラストのほうに興味があるということもあるでしょう。

このように同じイラストを各地で流用する例は非常に多いのですが、その土地固有のイラストとなった例もあります。海辺であればキツネが浜辺にいたり、スキーエリアなら擬人化したキツネがスキーをしていたり、といった具合です。

海辺にスキーに、キツネは忙しい
海辺にスキーに、キツネは忙しい

また、身近なペットであるはずのネコも、やはりキツネと合わさって「キツネコ」というキャラクターになったり、狼男ならぬ「きつねおとこ」がいたりと、いろんな形でキツネのモチーフが広まっていきました。

「きつねおとこ」(左)とキツネコ
「きつねおとこ」(左)とキツネコ

こんな風にキツネのキーホルダーは、ファンシー絵みやげの始まりであり、そして一番メジャーなモチーフだったのです。ファンシー絵みやげを見てキツネを想起するのは間違いではありませんでした。よければ観光地に行かれた際、土産店でキツネのモチーフを探してみてください。

  ◇

山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則週1回、山下さんのルポを紹介していきます。

ファンシー絵みやげ紀行

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