連載
懐かしい!バブル時代の観光地みやげ 「キツネ」モチーフが多い理由
感染症をもらたす条虫「エキノコックス」の宿主のイメージが強く、農作物を荒らす害獣扱いだったキタキツネが、なぜ?

「ファンシー絵みやげ」をご存じでしょうか。80~90年代に日本中の観光地で売られていた、子ども向けの雑貨みやげのことで、ローマ字日本語、二頭身デフォルメのイラストが特徴です。写真を見てピンときた人もいるかもしれませんが、今はもうほとんど売られていません。実はこの「ファンシー絵みやげ」、なぜか「キツネ」をモチーフにしたものが多いのです。その背景には、あるヒット作があったのですが……。全国の観光地で「ファンシー絵みやげ」を「保護」している山下メロさんの連載、第10回です。
記憶のどこかにある「ファンシー絵みやげ」
これまで私が全国で「ファンシー絵みやげ」を保護する過程のお話をしてまいりました。今回は番外編ということで、保護したファンシー絵みやげの源流について少しお話したいと思います。
「ファンシー絵みやげ」という言葉を知らない人でも、現物を見せると記憶の扉が開き、ほとんどの人がその存在を認識しています。

また、下の世代では「(自分の両親が子供時代を過ごした)おじいちゃん・おばあちゃんの家で見たことがある」という経験があるのです。なので、まず「まったく見たおぼえがない」という人に会うことはほとんどありません。
そんな中、多くの人が「こういうのでキツネのものとかあったよね」と言います。たくさんのファンシー絵みやげを見せた時には「そうそうこのキツネの見たことある」と、キツネモチーフのファンシー絵みやげを指さします。
記憶に強く残っているのが「キツネ」、そして一番に想起されるものも「キツネ」というわけです。

キタキツネが「ファンシー絵みやげ」の始祖?
私もファンシー絵みやげを集めていく中で、キツネのモチーフが多いことが気になっていました。始まりは何だったのか、そしてどうしてキツネだったのでしょうか。

そんな中で出会ったのが「North Fox in HOKKAIDO」というシリーズです。舌を出したキタキツネが、目をこすっているようなイラストが特徴的で、まるで泣いているようです。

一般的なファンシー絵みやげのキーホルダーは、「シーベル」と呼ばれる金具がついています。いわゆるねじれが起こりにくいチェーンなのですが、このシリーズには、それがありません。金属のツメを開くタイプのリングのものがいくつか存在しました。


なんとなく自分の中でこれは「ファンシー絵みやげ」と、それ以前のお土産キーホルダーとを繋ぐミッシングリンクなのではないかと仮説を立てていました。
私の仮説の真偽は…

その後、北海道で何度か調査を行ううちに、阿寒湖畔で「North Fox in HOKKAIDO」が多く売られている土産店を見つけました。せっかくなので、このシリーズについて、お店の方に質問してみました。
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
「Lovely North Fox」はバター飴のパッケージとして今も使われているイラストです。空港や物産展などでも販売されており、見たことがある人も多いのではないでしょうか。

山下メロ
お店の方
山下メロ
それからというもの、気が付くと私も「North Fox in HOKKAIDO」を「ナキギツネ」と呼んでいました。つい寿司屋で「おあいそ!」とか、吉野家で「ツユダクネギヌキギョク!」とか通ぶってしまう恥ずかしさもありますが、ついつい業界人風に「ナキギツネ」や「ラブちゃん」と言ってしまうようになりました。
「ナキギツネ 」が人気を集めたワケ
ファンシー絵みやげが生まれた80年代初期は、ちょうど団塊ジュニア世代が子どもだった時期です。つまり、子どもの数がとても多かったので、観光物産業界も子どもをターゲットにした商品需要があったと考えられます。
そんな中、1978年にキタキツネの生態を撮影した吹き替え実写映画『キタキツネ物語』(サンリオ)が公開されました。翌1979年にはテレビ放映され、動物映画の視聴率記録を打ち立てました。
感染症をもらたす条虫「エキノコックス」の宿主というイメージが強く、農作物を荒らす害獣扱いだったキタキツネの人気は高まり、そこに「North Fox in HOKKAIDO」が登場しヒットしたのです。
その後、ヒットを受けて「Lovely North Fox」など他社もキタキツネのキャラクターを生み出していき、イラストもだんだん洗練されていきました。そしてホンドギツネのいる本州でも、キツネキャラクターが広がっていったのです。

ファンシーグッズにおけるキツネモチーフはコクヨの 「Lonely Little Fox」 以外あまり存在しなかったキツネが、観光地で少しずつ注目を浴びるようになりました。
なぜ「キツネ」なのか
キツネが多い理由としては、まず観光地は自然の中にあります。湖や渓谷、峡谷、そして火山と温泉、スキー場。それらを象徴するイラストといえば山や森などの「風景」ですが、キャラクターイラストを配置するとなると、登山家やスキーヤー、入浴客といった「誰でもない人物」、または動物ということになります。
動物においてはキツネのほかにもウサギ、クマ、リス、サル、タヌキなどの日本の里山に登場する動物が定番です。ウマやウシ、シカ、カモシカなどの蹄を持つ動物はデフォルメが難しいためかあまり登場しません。

そんな中で、いち早くデフォルメイラストが作られていったキツネは洗練されていくスピードが速かったように思います。
あのファンシーグッズの象徴ともいえるクマやウサギをはるかに凌駕し、ファンシー絵みやげ界において頂点に立った百獣の王は、キツネなのです。

山があれば、森があれば「キツネくらいいるだろう」ということで、かなりの数が存在します。特に本土の山などで実際にキツネを見ることはなかなかありませんが、土産店に入ればキツネはとてもたくさん売られていたのです。
「キタキツネ」から全国展開

こうすれば地名だけ後から印刷して、他の観光地でもたくさん売ることができるというのも一つの理由です。それに、子どもは風景より動物のコミック風イラストのほうに興味があるということもあるでしょう。
このように同じイラストを各地で流用する例は非常に多いのですが、その土地固有のイラストとなった例もあります。海辺であればキツネが浜辺にいたり、スキーエリアなら擬人化したキツネがスキーをしていたり、といった具合です。

また、身近なペットであるはずのネコも、やはりキツネと合わさって「キツネコ」というキャラクターになったり、狼男ならぬ「きつねおとこ」がいたりと、いろんな形でキツネのモチーフが広まっていきました。

こんな風にキツネのキーホルダーは、ファンシー絵みやげの始まりであり、そして一番メジャーなモチーフだったのです。ファンシー絵みやげを見てキツネを想起するのは間違いではありませんでした。よければ観光地に行かれた際、土産店でキツネのモチーフを探してみてください。
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山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則週1回、山下さんのルポを紹介していきます。