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お金と仕事

スター級人材ばかりの組織が内輪モメで崩壊後、再「集合」できたワケ

アベンジャーズの初期メンバーたち。
アベンジャーズの初期メンバーたち。 出典: 『アベンジャーズ』MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL

目次

スター級の人材ばかりを集めた組織が華々しく立ち上がり、瞬く間に業界を席巻――近年、そんな組織を「アベンジャーズ型」と呼ぶことも増えました。アベンジャーズはアイアンマンやスパイダーマンなどの人気ヒーローが一同に会し、強敵と戦う「チーム戦」が魅力の大人気映画シリーズです。

一方で、このような組織が数年で失速……というのも「業界あるある」ではないでしょうか。たしかに、アベンジャーズでも戦いを重ねるごとに内輪モメが激化。チームは崩壊し、大ピンチに陥っていました。一人でも活躍できるヒーローたちなのに、どうしてチームになるとうまくいかないのでしょうか。
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※以下、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』までのシリーズのあらすじ程度のネタバレと、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の予告編程度のネタバレが含まれます。鑑賞前の方は十分に注意してください。
※以下、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』までのシリーズのあらすじ程度のネタバレと、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の予告編程度のネタバレが含まれます。鑑賞前の方は十分に注意してください。 出典: ©Marvel Studios 2019 All rights reserved.
現在公開中の最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、前作でシリーズ最強の敵・サノスに大敗し、大きすぎる犠牲を払ったヒーローたちがもう一度立ち上がり“assemble(集合)”へ。ばらばらだったチームがついに機能する、シリーズの集大成にふさわしい作品になっています。

ある意味で、スター級人材でチームを組むときの失敗から成功までを描いた教科書でもある同シリーズ。過去最速で世界興行収入20億ドルを突破し、世界中から注目されるアベンジャーズの作品中の軌跡と、現実にありそうなケースを照らしながら、チームマネジメントのポイントを考えます。

ヒーローが「集合」する夢のチームだったが……

ロバート・ダウニー・Jr演じるアイアンマン/トニー・スターク。
ロバート・ダウニー・Jr演じるアイアンマン/トニー・スターク。 出典: 『アイアンマン2』MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL
本論に入る前に、そもそもアベンジャーズとはどんなチームなのでしょうか。この“人類を守るため、最強ヒーローたちが集まった究極のチーム”の名前が映画史に刻まれたのは10年以上前、2008年公開の『アイアンマン』のラストでのこと。コミックスの同名人気ヒーローをロバート・ダウニー・Jr主演で映像化したもので、世界的に大ヒットしました。

以降、マーベル・スタジオは10年以上をかけ22本の映画を同じ世界観・時系列の中で描く映画群「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」を作り上げてきました。MCU内に複数のシリーズが存在し、例えばアイアンマンやキャプテン・アメリカ、ソーらのヒーローについては、それぞれの活躍が三部作になっています。

また、2017年公開の『スパイダーマン:ホームカミング』では、高校生ヒーロー・スパイダーマンのメンターとしてアイアンマンが重要な役どころを果たすように、相互にキャラクターが乗り入れています。このキャラクターの乗り入れが大規模におこなわれるのが、2012年に第一作が公開された『アベンジャーズ』のシリーズです。

つまり、おのおの単独作やシリーズを持つような大人気ヒーローがチームを組んで、日常生活の中で雑談したり、戦いの中で連携したりする、夢のようなシリーズというわけです。近年はスパイダーマン以外にもガーディアンズ・オブ・ギャラクシーやドクター・ストレンジ、ブラックパンサーといったヒーローが参加、大所帯になっていました。

「スカウト」「共同リーダー制」のデメリット

クリス・エヴァンス演じるキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース。
クリス・エヴァンス演じるキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース。 出典: 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL

【ケース1】スター選手ばかり獲得したのに……
オーナー肝いりで他球団の主力選手を多額の年俸で引き抜きドリームチームとなった、とあるプロ野球団。ところがシーズンが始まると連敗、選手の不祥事も続発します。チームの年俸を合計すればダントツでリーグトップなのに……いったいなぜ?

ヒーローが集合すれば自然とチームができる、なんてことはありません。むしろ、スカウトにより見ず知らずのメンバーが集まった組織は崩れやすいというのが、アベンジャーズの教訓です。初期メンバーたちも、もともと仲間だったわけではなく、ある意味では寄せ集めのチームとしてスタートしました。

アベンジャーズ計画は国家組織「戦略国土調停補強配備局(S.H.I.E.L.D.)」のプロジェクトとして開始。MCU内で人類は他銀河や異世界などを含む、さまざまな「外敵」の脅威にさらされていました。そんな人類を守るためにS.H.I.E.L.D.からスカウトされたヒーローたち。しかし「一人でも活躍できるヒーロー」が集まれば当然、衝突も起こります

理念に共感してヒーローが集まったわけではなく、必要に迫られて組まされたチームですから、優先するべき大義がなく、さっそく個人の利害が対立して内輪モメが勃発するのは無理もありません。『アベンジャーズ』でも人気ヴィラン(敵)・ロキや宇宙からの軍勢・チタウリそっちのけでヒーロー同士が衝突、収拾がつかなくなります。

天才発明家で大富豪のトニー・スターク/アイアンマン、血清で超人化した元兵士のスティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ、オーディンの息子で神の国アスガルドの次期国王である雷神・ソー、事故で大量のガンマ線を浴びたことで緑色の巨人に変身してしまうブルース・バナー/ハルクと、ヒーローたちは経歴も能力もさまざまです。

思えばアイアンマンもキャプテン・アメリカも、他のヒーローたちも、個々の単独作ストーリーにおいては挫折を経験し、乗り越えたことがそれぞれをヒーローたらしめています。一方、この成功体験により、ヒーローはスタンドプレーに走りがちで、チームにはネガティブに作用してしまいます。
『アベンジャーズ』MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL
『アベンジャーズ』MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL
ドリームチーム球団の事例のように、機能不全に陥ったアベンジャーズでしたが、S.H.I.E.L.D.長官のニック・フューリーの働きかけにより、ひとまずチタウリに目を向けさせることに成功。ヒーローたちはようやく団結し、チームワークが芽を出します。それがアイアンマンとキャプテン・アメリカによる実質的な「共同代表制」でした。

二人に共通するのは強固なリーダーシップがあること。もともとトニーはワンマンではあるものの巨大企業の社長であり、スティーブは第二次世界大戦中に精鋭部隊を指揮した部隊長です。チーム内が混乱する中、ひとまずキャプテン経験がある選手が二人、ツートップでチームマネジメントをすることになった、という経緯です。

「最強アベンジャーズ」の座を争うソーやハルクの能力は飛び抜けていますが、基本的に自分のことしか考えていません。コントロールしづらい人材を率いるためには、マネジメントに長けていることも不可欠です(アベンジャーズでは往々にして「殴って黙らせる」ことがあるため、同等の能力があることも重要ですが)。

しかし、徹底的なリアリストであるトニーと、ある意味ロマンチストなスティーブの人物像は正反対です。トニーは「衝動的で、ナルシストで、他人とうまくやれない」ことを自他ともに認めるエゴイスト。一方のスティーブは品行方正を絵に描いたような人物で自己犠牲をいとわず、ピンチのときの名台詞が“I can do this all day.(まだまだやれる)”。

消去法的にトニーとスティーブがアベンジャーズを引っ張ることになったものの、共同代表制は二人の意思決定者の仲が悪くなればチームが崩壊する危険性をはらんでいます。『アベンジャーズ』エンドロール後、全員で黙々とシャワルマを食べる名シーンは、アベンジャーズがまだチームとして成熟していないことを象徴するものでもありました。

「サポートメンバー」こそがチームを機能させる

(右)スカーレット・ヨハンソン演じるナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ。(左)ジェレミー・レナー演じるクリント・バートン/ホークアイ。
(右)スカーレット・ヨハンソン演じるナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ。(左)ジェレミー・レナー演じるクリント・バートン/ホークアイ。 出典: 『アベンジャーズ』 MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL

【ケース2】共同代表制で起業したのに、社長派と副社長派が分裂……
著名なクリエイター同士が共同代表として起業し、注目されたとあるベンチャー企業。数年後、二人の方針が食い違い、社長派と副社長派に分裂……どうしてこうなった?

その後、いくつかのミッションを経て、少しずつチームとして機能するようになるアベンジャーズ。「共同代表」のトニーとスティーブの関係が円滑だったこともありますが、チームワークの形成に貢献したのはアイアンマンやキャプテン・アメリカ、ソー、ハルク「ではない」アベンジャーズのメンバーたちでした。

主なヒーローたちはテクノロジーや科学、魔法、神の力により人間を超えた“超人”。しかし、中には格闘のプロで敏腕スパイのブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ、弓矢と近接武器で敵を倒すホークアイ/クリント・バートンのように、より“人間らしい”メンバーも。そして、このようなサポートメンバーこそ、チームの要なのです。

戦闘力では及ばなくても、我の強いヒーロー間で利害の調整をしながら働くナターシャとクリントの存在なくしては、第二作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で相対した機械の体を持つ人工知能・ウルトロンのような強敵に勝つことはできなかったでしょう。

なお、この時点で、アベンジャーズに影響力を発揮できたS.H.I.E.L.D.はすでに崩壊。アベンジャーズは独自の、実質的にはトニーとスティーブの判断で動く組織になっていました。元S.H.I.E.L.D.であるナターシャとクリントは、アベンジャーズがただの「自警団」に陥らないように、トップの暴走を防ぐ抑止力でもあったと言えます。

ヒーローには特化型の能力を持つ者が多く、全体としていびつなスキルセットになりがちです。欠けた部分を埋めることができる二人のような万能型のメンバーの存在があって初めて、持続的なチーム運営が可能になることがわかります。とはいえ、トップがあからさまに対立すれば、彼ら彼女らもどちらかに引き裂かれてしまうわけですが……。
出典: 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』 MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2017 MARVEL
トニーとスティーブの考え方に決定的な違いがあることがあらためて浮き彫りになったのが、ウルトロンとの戦いでした。総じて「目的達成のためには多少の妥協を容認するべき」という意見のトニーと「自分が信じることは世界を敵に回しても貫くべき」というスティーブ。実際のチーム運営でもしばしばポイントになるところでしょう。

アベンジャーズは国家権力による発足の経緯、住む世界すら異なるメンバー構成もあり、脅威から“人類を守る”という目的以外、具体的にはチームの理念を定めることはしていませんでした。仕方がないにしろ、このようなリーダーの考え方の違いをすり合わせてこなかったのは、後のチーム崩壊の一因だと言えるでしょう。

そして、ついにトニーとスティーブが対立、チームの崩壊が現実になったのが2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。アベンジャーズの活動で都市が壊され、人命が失われていることが国際社会で問題になり、アベンジャーズを国連の管理下に置く「ソコヴィア協定」への署名を迫られたときでした。

アベンジャーズとして正式に活動を続けるために、真っ先にこれに同意したトニーと、「自分たちで判断して行動する権利と責任が奪われる」として反対したスティーブ。これまで国家とアベンジャーズの調整をしてきたニック・フューリーはS.H.I.E.L.D.崩壊後は公式には不在であり、対立は不可避だったとも言えます。

ヒーローたちはトニー派とスティーブ派にわかれたまま、スティーブ派は指名手配され潜伏。この事件は尾を引き『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)に始まるサノスとの戦いには、チームが分裂したままで臨むことになってしまったのです。円滑なチーム運営には早め早めの調整がいかに重要かがわかるエピソードと言えるでしょう。
 

カギは「目的の自分ごと化」と「適切な世代交代」

最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』のシーン。
最新作『アベンジャーズ/エンドゲーム』のシーン。 出典: ©Marvel Studios 2019 All rights reserved.

【ケース3】順調に販売部数が伸びているのに、女性誌の編集長が突然の交代……
部数低下をきっかけに編集部の意識を改革、以降は着実にファンを増やした女性誌。しかし、カリスマ編集長が会社の定期人事で若手に交代へ。「これまでのイメージと違う」と離れてしまう読者も……狙いはどこ?

アベンジャーズとは、世界の危機に発足する「プロジェクト型組織」のようなものです。短期的には目的さえ達成すれば解散でいいので、寄せ集めでも、極端には少しくらい仲が悪くても構わないとも言えます。しかし、長期的な視点に立つと、コミュニケーションが円滑でないチームでは、大事なときにその実力が最大限、発揮できないのです。

分裂したチームは同じ方法でメンバーを増やそうとしますが、これも落とし穴です。『インフィニティ・ウォー』では、トニーのチーム、スティーブのチームがそれぞれ新メンバーを獲得して、サノスと戦います。スパイダーマンやドクター・ストレンジ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、ブラック・パンサー……たしかに強力なヒーローです。

しかし、サノスはあまりにも強かった。両チームとも大敗、サノスは野望を遂げ、全宇宙の生命の半分を消滅させます。前述したヒーローたちも、負けただけでなくその半分が塵となって空中に消えていくという、衝撃のエンディング。チーム分裂の代償はあまりにも大きかったのです。

そして今作『エンドゲーム』の時を迎えます。苦い経験を乗り越えたアベンジャーズの転機は、今回の“avenge(逆襲)”という目的が全員にとって「自分ごと化」されたことでしょう。全員が自分の大切な人を失った、だからこそ“人類を守る”ことに対して“Whatever it takes.(どんな手段でも)”と言えるようになったのです。

逆に言えば、このようなメンバーの意識改革こそ、アベンジャーズのようなチームには必要だったことがわかります。優秀な人材ほど多くを望まれるのは現実もヒーローも同じですが、“人類を守る”のような大きな目標だけでは、人は感情や利害を超えては動けないのでしょう。
出典: 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2019 MARVEL
さて、いかにヒーローと言えども、永遠に戦い続けることができるわけではありません。戦いを重ねるごとに犠牲は増え、その責任は背中に重くのしかかります。ソコヴィア協定やサノス戦の敗北は、まさにそのことが各ヒーローに問われた出来事でもありました。

『エンドゲーム』はそんなアベンジャーズの戦いの集大成です。予告編にはインフィニティ・ウォーに登場しなかったアントマンやキャプテン・マーベルの姿もあり、さらなる盛り上がりが期待されます。しかし、“アベンジャーズの終わり”と謳われているように、中にはその物語が完結するヒーローもいるかもしれません

では、MCUの世界はこれから衰退してしまうのでしょうか。私はそうは思いません。その理由が次作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』。『シビル・ウォー』で才能を発見され、『ホームカミング』『インフィニティ・ウォー』で活躍したピーター・パーカー/スパイダーマンを育成してきたのが、他ならぬトニーだからです。

アベンジャーズが衝突を繰り返し、分裂する中で、トニーはコツコツと次世代を育成してきました。ヒーローの継承は同様に、他のキャラクターについてもおこなわれていくでしょう。スター人材を集めただけでは終わらず、好調のうちに次世代のスター人材を輩出していくこと。これはチームの持続可能性を担保するためにも必要なことです。

世界的にアベンジャーズ旋風が吹き荒れる今だからこそ、長寿のエンターテイメント作品としてだけではなく、「ヒーロー」という存在をもとに私たちの組織を見つめ直すきっかけとして、最新作『エンドゲーム』を鑑賞してみるのはいかがでしょうか。

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