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連載

#105 #withyou ~きみとともに~

「ちょっと悪い方がかっこいい」 やんちゃな少年を変えた異色の学校

メイクアップアーティストをめざしている鈴木聖生さん
メイクアップアーティストをめざしている鈴木聖生さん 出典: 青山ビューティ学院提供

目次

 給食の時間に登校して授業中は居眠りーー。中学生のころ、「男はちょっと悪い方がかっこいい」と思って荒れていた少年はいま、美容の学校へ進み夢に向かって勉強しています。勉強への意欲がわかず、学校から遠ざかっていたかつての生活がうそのように変わりました。少年を前向きにさせたのは、「遅刻してもとがめない」異色の学校での生活でした。

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夜更かしや遅刻は当たり前の日々

 神奈川県川崎市に住む鈴木聖生(しょう)さん(16)は、2018年の春、JR原宿駅から近い通信制高校サポート校「青山ビューティ学院高等部」(東京都渋谷区)に入学しました。「メイクアップアーティストになりたい」という夢に向かって勉強し、先生からも評価されています。

 学生生活を楽しんでいる鈴木さんですが、中学生のころはほとんど学校に行っていなかったそうです。

 苦手な勉強への意欲がわかず、友人と遊ぶ毎日。夜更かしで生活リズムは逆転し、遅刻は当たり前。「朝から行けたのは体育祭期間と卒業式だけ」と振り返ります。真面目に勉強するクラスメイトを横目に、「『男はちょっと悪い方がかっこいい』と思っていた」と話します。

 「勉強についていけなくなる不安は一切なかったです。『バカでも人生楽しめるでしょ』という考えで。嫌いな先生の授業は避けて、その授業が終わってから行くみたいな感じでした」

「勉強についていけなくなる不安は一切なかった」と語る鈴木さん
「勉強についていけなくなる不安は一切なかった」と語る鈴木さん

担任から勧められた美容の学校

 美容への興味は、幼い頃からあったといいます。

 「地元に小2から通っている美容院があります。ご夫婦で経営し、楽しそうにやっていたので、美容師に興味がありました」

 小学校の頃から髪の毛をセットすることが好きでしたが、中学校はワックス禁止。茶髪にすると教師に注意され、保健室で黒染めスプレーをかけられたこともあったといいます。そんな規制を窮屈に感じ、学校との距離はさらに遠くなりました。卒業したら自由になれる、そう思っていたそうです。

 青山ビューティ学院に入るきっかけは、中3のときの担任教師からの紹介でした。普通科高校の進学はほぼ選択肢になく、とび職の道を考えていたとき、教師が持ってきた資料の中に青山ビューティ学院のものがありました。

 入学の決め手は、「生徒と先生の距離が近いこと」。学校見学で先生と話をしたとき、「友達のように軽く接してくれて話しやすかった」と感じました。ほかにも美容系の学校を2、3校見学しましたが、雰囲気が一番自分に合っていたといいます。

「これまで無理だと思ったら途中で投げ出しちゃってた。でも、ダメもとでも思いっきりやろうと考えるようになりました」
「これまで無理だと思ったら途中で投げ出しちゃってた。でも、ダメもとでも思いっきりやろうと考えるようになりました」

同級生や先生のおかげでできた目標

 これまで明確な目標がなかった鈴木さんですが、青山ビューティ学院に入学して将来の夢ができました。「メイクアップアーティスト」になることです。

 「学校に入るときは美容師しか美容に関係する職業は知らなかったけど、勉強するうちにメイクの楽しさを知りました。いまはテーマを課せられてメイクしますが、いずれは自分でテーマを決めて、自分の考えるメイクをしたいです」

 やりたいことが固まったのは、美容という共通の関心を持つ同級生・先輩たちとの出会いやざっくばらんに接してくれる先生と、その授業のおかげでした。

鈴木さんが学校で使っているメイク道具
鈴木さんが学校で使っているメイク道具

「中学校からは考えられない」

 中学時代は遅刻・サボりの常習者でしたが、いまは片道1時間ほどの道のりをほとんど遅刻・欠席せず通っています。最初は心配していた母親も、三者面談の時に「中学時代と比べると、考えられないくらい遅刻が少ない」と話したそうです。

 鈴木さんは「先生も褒めてくれてたんで、少し安心してくれたかなと思います」とはにかみます。金銭面でも自立を考え、飲食店でバイトをして、欲しい服は自分で買うようになりました。

 その変化は、地元の友達からも驚かれるほど。「バスで中学の友達に会ったとき、いまは遅刻してないと言ったら『うそつくな』って言われたんですよ(笑)。『変わったね』ってびっくりされます」

 ものごとの捉え方にも変化がありました。バスに乗っていても、見向きもしなかった外の景色。雨の日に、ガラス越しに見える車のライトや景色が、心にしみました。今まで見ようとしてこなかった世界に触れ、「心に余裕ができたのかもしれません」。

 「男はちょっと悪い方がかっこいい」、いまもそう思っているのでしょうか。すると、鈴木さんは断言します。

 「いま、『悪いこと』はダサいとしか思わないっす」

スタッフと話をする鈴木さん
スタッフと話をする鈴木さん

不登校の子どもを受け入れていた学校

 鈴木さんが通う青山ビューティ学院高等部は、開校した2010年は不登校の子どもの受け皿になることを意識していました。

 学長の関野里美さんは「外見の変化や自分がどういう風になりたいかをリアルに知ることで、自分の内面と向き合うことにつながります」と話します。

 1クラス10人程度。先生も、生徒一人一人との距離を意識します。「生徒の多くは1年生の頃は心も外見も鎧(よろい)をかぶっているイメージです。外見が完璧にならないと学校にきません。普通だったら遅刻は注意されますが、うちの場合は『自分が整うことが大事』なので受け入れます」

 その代わり、学校への連絡は徹底しているといいます。
 
 「電話、メール、LINEという3つの連絡手段があります。第1優先は電話。でも、ほとんどの人はLINEです。連絡しないことはNG。心配をかけるし、信頼を裏切るからです。学校で出席を取るのは朝1回だけ。遅れたら、着いた時間や理由を書く。それを書かないと出席扱いにしないとしています。届け出は社会性への一歩だと思います。成績はその分しか評価されないので自己責任になりますが、遅れてきたことをとがめることはしません」

青山ビューティ学院高等部の学長・関野里美さん
青山ビューティ学院高等部の学長・関野里美さん


 学校の方針や先生の接し方から、生徒は1年目の後半や2年目から、心を開いてくるそうです。

 「こっちが聞こうとしなくても、恋愛、家族、バイト先のことを『聞いてよ、聞いてよ』としゃべってきます。お父さんお母さんに言えないようなことを相談できる場所でもありたいです」

 当初は不登校の子どもが中心でしたが、不登校でなくても美容に興味を持つ子が多いことや、不登校の子どもを受け入れるとうたうことでかえって「不登校が悪いこと」のように映ってしまうのではないかと考えました。いまでは不登校の子どもを受け入れているという発信はしていません。それでも学校のビジョンは明確です。

 「自分自身の言葉で考えを伝えられて、行動でも示せる。やりたいことが明確であれば、自分の人生をちゃんと作れる。子どもたちが自分でちゃんと踏み出していけるのが一番の目標です」

 

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