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連載

#11 平成B面史

店内ぜんぶ「ガロスペ」名古屋のゲーセンで見つけた「格ゲー」の原点

「名古屋ガロスペスタジアム」でゲームをする人たち
「名古屋ガロスペスタジアム」でゲームをする人たち

目次

【#平成B面】ゲーム店が集まる名古屋・大須に、一風変わったゲームセンターが生まれました。6台の筐体はすべて同じゲーム。26年前にデビューした格闘ゲーム「餓狼(がろう)伝説スペシャル」(ガロスペ)だけしかプレーできません。会社員として働きながらゲーム店を作ってしまった店長。世界的に盛り上がる「eスポーツ」の原点のような手作り感あふれるお店に行ってきました。

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「好き、がぶっ飛んでオープン」

大須商店街の雑居ビルの2階、20平方メートルに満たない1室が、毎週3回、夜だけ営業する「名古屋ガロスペスタジアム」です。

灰皿なし。白いビデオゲーム筐体6台と両替機が置かれています。オープン日の2月1日夜、東京都の会社員、岡部大輔さん(39)は、ツイッターで情報を見つけ「いてもたってもいられなくて」駆けつけたと言います。久しぶりのプレーは「面白い」と満足顔です。

店を営むのは「『好き』が、ぶっ飛んで、オープンしてしまいました」と笑う愛知県在住の会社員、磯山友信さん(40)。

会社員をしながら、趣味のガロスペが今後もプレーできる場所を作りたくて、始めました。

「餓狼伝説スペシャル」だけが遊べるビデオゲーム筐体が並ぶ店内=名古屋市中区大須3丁目
「餓狼伝説スペシャル」だけが遊べるビデオゲーム筐体が並ぶ店内=名古屋市中区大須3丁目

「結婚式に呼んだ友人の8割はゲーセンで出会った」

磯山さんによると、昨年夏、大須にあったゲームセンターが縮小にともなってガロスペの筐体を撤去。週末に集まって大会をしていた仲間の間で、プレー環境がなくなると心配する声があったそうです。

磯山さんは「自分の結婚式に呼んだ友人の8割はゲーセンで出会った」というほどのガロスペ好き。

開店にあたり、友人らの人脈で、当時の古いガロスペが動く筐体やソフトをかき集めました。

すべて中古品のため、コントローラーやスティックの修理や保全も仲間で担当。「古いんですが、意外に壊れにくい。ゲームの修理に詳しい仲間もいて、ゲーセンでの出会いが、今、生きていますね」

「餓狼伝説スペシャル」をプレーする人たち。スティックを手のひらで包むように握る「ワイン持ち」でプレーしている=名古屋市中区大須3丁目の「名古屋ガロスペスタジアム」
「餓狼伝説スペシャル」をプレーする人たち。スティックを手のひらで包むように握る「ワイン持ち」でプレーしている=名古屋市中区大須3丁目の「名古屋ガロスペスタジアム」

ガロスペの灯火を守るため立ち上がる

磯山さんを、ガロスペファンらで作る愛好家団体「名古屋餓狼会」が支えています。

普段は「堅い職業」の会長、公明さん(38)によると、10年ほど前、「熱心なファンが集まる筐体があるのは、東京や名古屋に1、2店舗ほど」と言われるまでに筐体が減ったガロスペの灯火を消さないようにと、同会を結成。

ガロスペのあるゲームセンターに週末に出かけ、店の理解を得て、定額制で対戦する大会を開くなどの活動をしています。

愛知県在住の公明さんは、東京・高田馬場のゲーセン「ミカド」で開かれるガロスペ世界大会で2015年~17年に3連覇したチャンピオンです。

技を磨き、人のふれあいも

それにしても、他にもたくさんある格ゲーの中で、なぜガロスペなんでしょうか。

公明さんは、20年以上たった今も攻撃技の新たな返し方が見つかるほど「奥が深い」と指摘します。

さらに、自分の体力ゲージが4分の1になった時に繰り出せる「超必殺技」で一発形勢逆転が可能なことも魅力で、「最後まであきらめない」ことを実感できる面白さがあるそうです。

「ゲーセンは『不良のたまり場』という古いイメージもあるけど、見ず知らずの人と対戦者と『うまいね』『強いね』と声をかけあい、技を磨き、人のふれあいもあります」と説きます。

オンラインもいいけれど……

磯山さんも、この店が「人とのリアルなつながりを感じる場所になってほしい」と語ります。

ガロスペを通じ、普段の仕事ではほとんど会えない様々な職業の人と知りあってきたからです。

最近のゲームはインターネット回線を使ったオンライン対戦が主流ですが、「ゲーセンで昔ながらに人と出会う」ことの貴重さを感じて欲しいと考えています。

「格ゲー」の原点を見た

画面上の仮想のキャラクターをピコピコと操作するだけの行為に見えますが、そこには、ゲームを愛する人たちの多くの思いが重ねられています。

学校や会社での人付き合いは苦手だったとしても、コントローラーを握ると輝き出し、他人とも有意義に会話できる。ゲームとは、人の意外な魅力を引き出せるコミュニケーションツールだと、あらためて思いました。

私は、今も古いレトロゲームを楽しみますが、家族と最新ゲームもプレーします。大自然の中でモンスターを協力して倒す「モンスターハンター:ワールド」では、オンラインで探した仲間と一緒にプレーすることもあります。全世界のプレーヤーと一緒にプレーできるのは、オンラインゲームならではの面白さです。

一方、プレーヤーの姿が実際に見えるゲーセンでは、相手の息づかいなども伝わってくるゲームの奥深さを感じることができます。

ガロスペスタジアムに来ていた人たちは、ガロスペという共通の舞台で得意技を出し合うことを通じて「したたかに」わかり合っていました。

名古屋の街角にある小さなゲーセンには、ゲーム上の対戦者という距離感を軽々と超える、リアルなつながりの魅力があふれていました。

    ◇

名古屋ガロスペスタジアムは入場料400円。協力している磯田園(愛知県田原市)のペットボトルのお茶が当面つく。1プレー(2クレジット)100円。禁煙で、毎週水曜、金曜、土曜の午後7時半から12時まで。

 

withnewsでは、平成が終わりを迎えるにあたって、平成を象徴しているのに普段は忘れられがちなアイテムや出来事を「平成B面史」と名付けました。みなさんの中で「そういえば……」とひらめいたものをハッシュタグ「#平成B面」をつけてツイートしてくれませんか? 編集部が保存に向けた取材にかかります。

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