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#1 東日本大震災8年

「震災が起きたら、避難所」だけではない 東京のマンション防災

タワーマンションが立ち並ぶ東京の臨海部=2018年6月、東京都中央区、伊藤進之介撮影
タワーマンションが立ち並ぶ東京の臨海部=2018年6月、東京都中央区、伊藤進之介撮影 出典: 朝日新聞社

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 人口の約7割がマンションなどの共同住宅に住む東京。耐震・耐火化が進んでいるマンションは、震災が起きても倒壊や延焼のおそれが少ないですが、「災害があったら、避難所に行けばいい」という意識は根強いです。一方、都市部では避難所の数が限られていることや、被災後に体調を崩さないためにも、自宅に住み続けることが重要視されてきています。専門家は「生活パターンを維持できるような備えが大事」と指摘します。

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「きれいな防災訓練」をやめ、見えた課題

 東京都中央区の北東に位置し、隅田川に清洲橋がかかる日本橋中洲地区。2月にあった防災訓練で「異変」が起きました。これまで定刻で会場に集まっていたスタイルをやめ、訓練開始後の45分間をマンションごとの安否確認などにあてたのです。

 「ただ集まって、消火訓練や炊き出しをするだけの『きれいな防災訓練』はやめました」。訓練の中心を担った中洲町会の高木亮さん(43)は力を込めます。

 人口約2500人の中洲地区は、マンションに住んでいる人が大半です。中央区の地域防災計画は、10階建て以上の高層マンションであれば生活の自由度やプライバシーの問題などから、震災時でも「自宅での生活を維持することが最も好ましい」としています。高層住宅は構造的に耐震上の安全性は確保されているという考え方です。

2月に日本橋中洲地区であった防災訓練=高木亮さん提供
2月に日本橋中洲地区であった防災訓練=高木亮さん提供

 「避難所の収容人数も限られているので、この地区は自宅で生活を続けることが基本になる。安否確認も含め、自分たちで防災を考えてもらうきっかけにしたかった」と高木さん。訓練内容の変化は、今まで漠然としていた「当事者意識の低さ」を浮き彫りにしました。

 13階建てマンションの管理組合理事長(51)は、ポスターを掲示するなど訓練の参加を呼びかけました。しかし、集まったのは数人の組合理事だけ。「マンションの中でほとんど関心がなかった」と振り返ります。

 従来の訓練より増えたとはいえ、当日の参加者は約100人。30以上あるマンション単位でみると、約3分の1は不参加でした。

 それでも、高木さんは前向きです。「マンションごとに活動の濃淡が分かったし、参加した人たちは何かしらの問題意識が生まれたと思う。町会ができることは限られているが、いざという時に助け合える地区にしたい」

中洲町会で青年部長を務める高木さん
中洲町会で青年部長を務める高木さん

限りある避難所、負担を減らすための「在宅避難」

 東京都が2012年に出した首都直下地震の被害想定(冬18時)によると、自宅が倒壊や焼失などし避難所での生活を余儀なくされる人が23区内で約220万人です。これに対し、区内に約1600カ所ある避難所の収容人員は約223万人と大きく余裕があるわけではありません。

 東京都の防災ガイドブック「東京防災」も、「自宅で居住の継続ができる状況であれば、在宅避難をしましょう」と呼びかけています。東京都港区も、耐震・耐火化が進んだマンションは「ライフラインに多少の支障があっても、慣れ親しんだ自宅にとどまった方が被災者の負担は減らせる」という位置付けです。

東京防災では「可能なかぎり在宅避難できる準備を整えておくことが大切」としている
東京防災では「可能なかぎり在宅避難できる準備を整えておくことが大切」としている 出典:東京防災

 それでも、「報道などのイメージが強いせいか、『災害があったら、避難所』という考え方は根強い」と語るのは、地域防災支援協会の三平洵代表理事(36)。講師を務める都の防災学習セミナーなどで、避難生活をする場所を尋ねると今でも「避難所」と答えるマンションの住人は多いそうです。

 実際には、近隣への避難、マンションの敷地内にとどまる「軒先避難」、車での避難など様々な形があります。その中でも自宅は、「避難所に比べて生活の不便さやストレスを減らせる」と三平さん。被災後もマンションに住み続ける際、大切なのは「現在の生活パターンを維持しつづけること」と説明します。

マンションでの避難生活のポイントを話す三平洵さん
マンションでの避難生活のポイントを話す三平洵さん

見落とされやすい「トイレ」問題

 自宅での避難生活を考える上で大事なのはまず、地震発生時に身の安全を守ることです。東京消防庁の調査によると、2016年の熊本地震でけがをした原因のうち、家具類の転倒などによるものは、一般住宅で29.2%、高層マンションで40.0%でした。家具の固定や配置を工夫することは、命を守るだけでなく、マンションで生活を続けるためにも必要な備えになります。

 そして、家庭での備蓄です。東京防災では「ガス・電気・水道の代替」「食料品や日用品の備え」「下水道の使用方法」の点から準備をすすめていますが、三平さんは「マンションの場合、見落とされやすいのが『トイレ』問題」と指摘します。

 東日本大震災では断水のほか、下水管の損傷により上階の住人のトイレ使用で汚水が逆流し、下階のトイレなどからあふれる被害が相次ぎました。「排水管の損傷がないか確認できるまでは、生活排水やトイレの水は流さない方がいい」。代わりに簡易トイレや便袋をストックしておくことが必要になります。

東京防災で紹介されている「断水時のトイレの使い方」「簡易トイレの作り方」
東京防災で紹介されている「断水時のトイレの使い方」「簡易トイレの作り方」 出典:東京防災

自助と共助の線引きは明確に

 こうした備えや地震保険に加入することなどは、個人や家庭で準備する「自助」に当たります。一方、安否確認やゴミの保管などは、管理組合や自治会で備えたり、想定したりする『共助』です。三平さんは「自助と共助の線引きがあいまいになっているマンションは多いので、自分の住んでいるマンションの状況を確認することは重要」と話します。

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