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ktakaさんからの取材リクエスト
国連安保理の南スーダンへの武器禁輸決議、賛成しない国の理由は?
国連安保理で激論 南スーダンへの武器禁輸、世界はなぜ割れる?
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国連安保理の南スーダンへの武器禁輸決議、賛成しない国の理由は?
昨年、国連安全保障理事会で米国が南スーダンへの武器禁輸を提案したものの不採択となりました。「日本賛成せず、現地政府に忖度か?」といったかたちで報道されていましたが、日本以外の国は、どういう理由で反対ないし棄権をしたのでしょうか?(理事国交代後に、米国の再提が採択されましたが、このときも不賛成が多くありました。) ktaka
うーん、鋭いですね。内戦が続く南スーダンへの武器輸出を禁じる国連安全保障理事会(安保理)の決議は、2018年にぎりぎりで採択されました。その前に提案された時は、日本も含め棄権が多く不採択でした。内戦の当事者たちがにらみ合う国への武器売却を国際社会が控えれば、その国は平和になるのかという深いテーマです。しかも国際社会の縮図である安保理とくれば一筋縄ではいきません。その議論を振り返ってみましょう。(朝日新聞政治部専門記者・藤田直央)
南スーダンへの武器禁輸決議が安保理で採択されたのは2018年7月13日。その様子が詳しい英語の議事録は、この安保理HPで見られます。
議事録によると、15理事国の投票結果はこうでした。
賛成=9カ国 コートジボアール、フランス、クウェート、オランダ、ペルー、ポーランド、スウェーデン、英国、米国
反対=なし
棄権=6カ国 ボリビア、中国、赤道ギニア、エチオピア、カザフスタン、ロシア
安保理での決議採択には、9カ国が賛成し、かつ「拒否権」を持つ米英仏中ロの5常任理事国のうち1国も「反対」しないことが必要です。常任理事国が「棄権」なら9カ国の賛成でOKですが、安保理では結束を示そうと全会一致へ決議案の内容が調整されることが多いのです。その役割が国連憲章で「国際の平和と安全に主要な責任」を担うとされているからです。
そんな安保理で、この決議はぎりぎりで採択されたまれなケースとなりました。
決議の際の各国代表の演説には、各国の考え方がよく現れます。決議案を出した米国のヘイリー国連大使が最初に訴えました。
「南スーダンでの暴力に関する国連の報告書によると、今年の4~5月に武装勢力が40の村を襲った。120人の女性がレイプされ、子ども35人を含む民間人232人が殺された」
「昨年12月に合意された停戦協定は破られている。こうした狂気を引き起こした人々になぜ兵器を与えるのか」
スーダンでの半世紀以上にわたる南北間の内戦を経て、南スーダンは2011年に独立しました。米国はその独立を支えただけに、政府の機能不全による人道問題が目に余るようです。
他の賛成の国々も、ほぼこうした主張でした。武器禁輸をしなければ内戦が長引き、罪のない人々が苦しむばかりではないか――。そんな指摘はもっともに聞こえます。南スーダンでは13年からの内戦で、国民の3分の1にあたる約400万人が国内外で避難生活を強いられています。
それでも決議の採択に棄権、つまり賛成しなかった国々の理由はどんなものでしょうか。米国に続いて演説した、アフリカからの2国の代表の主張はこうです。
「南スーダンでは内戦当事者たちが和平へ歩んでいる。安保理がいま制裁すればそのプロセスが揺らぐ」(エチオピア)
「この決議はアフリカへの理解に欠ける。安保理との間で信頼関係を築いてきた努力に逆行するものだ」(赤道ギニア)
いま武器禁輸をするなど逆効果だ、アフリカの実情をわかっているのかと言わんばかりですが、その実情とは何でしょう。
各理事国の代表らの発言の後、出席を許された南スーダンの代表が最後に「棄権した国々に感謝する」と語り、続けました。
「この不幸な決議で安保理が味方になったと考える反政府勢力が、政府との和平交渉を続けるだろうか」
そう考える理由を、南スーダンの代表は以前の安保理で「武器禁輸は政府を弱くし、武装勢力を強くする。長い内戦で民間人に武器が行き渡り、穴だらけの国境からは違法な武器が流れ込んでくるからだ」と述べています。
混沌とする南スーダンで何かと目立つ政府だけが縛られかねない武器禁輸などとんでもない、武装勢力が割拠する国を安定させるにはむしろ武器が必要だ、というわけです。
内戦当事者の一方として都合のいい主張にも思えます。ただ、欧州列強の植民地当時に引かれた国境で民族が分断され、内戦や難民が絶えないアフリカのジレンマとも言えます。昔の日本のことも頭に浮かびます。幕府や薩長が主導権を握ろうと欧州列強から競って武器を買った、幕末の動乱です。
中国やロシアは、反対による「拒否権」で決議案を葬ることまではしませんでしたが、棄権して米国に異を唱えました。様々な国際問題で渡り合ってきた常任理事国同士ならではの火花が散ります。
中国の代表は「中国は常に、制裁は手段であって目的ではないと主張している。安保理は政治的な安定に資すべきで、逆であってはならない」と述べました。
国際平和のために働くべき安保理が安易な制裁によって事態をエスカレートさせてはならないというのは、中国が北朝鮮のミサイル問題でも言ってきたことです。
ロシアの代表は米国を「制裁の棒を振り回している」「安保理に分断をもたらしている」と批判しました。何かにつけて米国の「独善」を指摘するのは冷戦期のソ連からのお家芸と言えます。
では、日本はどうだったのでしょう。2018年から任期2年の非常任理事国を外れており、7月に武器禁輸決議が採択された場にはいませんでしたが、16年12月に不採択となった場にはいました。この時は米国提案の決議に賛成は7カ国、反対なし、棄権は日本を含む8カ国でした。
別所浩郎国連大使は、日本の棄権について「南スーダンでの暴力を深く懸念するが、対話は進んでおり、外交努力を続けるべきだ。日本は南スーダンの平和と安全に貢献を続ける」と説明しました。
当時、別所大使は深く語りませんでしたが、日本が「南スーダンの平和と安全」で腐心していたのは、外交努力よりも自衛隊派遣の方でした。国連平和維持活動(PKO)で首都ジュバに陸上自衛隊の部隊を送っており、しかもそこで数カ月前に大規模戦闘があったばかりだったのです。
自衛隊が戦闘に巻き込まれないように停戦が保たれることは、憲法との関係でも、隊員の安全のためにも必要でした。また、南スーダン政府がPKOを受け入れ続けることが自衛隊派遣の大前提でした。
そんな南スーダン政府と国連の関係を悪化させ、和平プロセスを不透明にしかねない武器禁輸決議には、たとえ同盟国・米国の提案でも賛成できないという背景がありました。
2017年3月、日本で「危険な南スーダン」に自衛隊派遣を続ける是非が議論となる中で、安倍晋三首相は「南スーダンの国造りが新たな段階を迎える中、自衛隊が担当する施設整備は一定の区切りをつけた」と撤収を表明しました。5年間に及んだ陸自の部隊派遣は17年5月で終わりました。
それでも南スーダンPKOには今も60数カ国が参加し、日本も司令部には数人を送り続けています。
18年に入り、南スーダンでは内戦当事者らが6月に恒久停戦に、8月に暫定政府づくりに合意しましたが、先行きは予断を許しません。安保理での7月の武器禁輸決議がどう影響するのか。どの国の言ったことが正しかったのか。そして、日本がどう「南スーダンの平和と安全に貢献を続ける」のかを見つめ続けます。
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