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わが町に止まれ!北陸新幹線「かがやき」 決死の”自虐動画”大作戦

「どんな手をつかってもいい。加賀に新幹線を止めるんだ」と部下に詰め寄る加賀市新幹線対策室室長・加賀停太郎=石川県加賀市提供
「どんな手をつかってもいい。加賀に新幹線を止めるんだ」と部下に詰め寄る加賀市新幹線対策室室長・加賀停太郎=石川県加賀市提供

目次

 石川県加賀市が金沢市への嫉妬心むき出しの公式PR動画を作りました。「調子に乗るな金沢!」と絶叫したり、地元の公園のショボさに落胆したりと自虐の嵐。続く第2弾では、隣の小松市にライバル心を露わにする内容が大きな話題を呼びました。加賀市を突き動かしたのは新幹線です。北陸新幹線、なかでも「のぞみ」的な立ち位置の「かがやき」の停車駅に選ばれたい。なぜ、地方都市はそこまで新幹線の停車にこだわるのか?そのワケを取材しました。(朝日新聞金沢総局記者・木佐貫将司)

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【加賀市自虐動画の裏側】
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【中編】わが町に止まれ!北陸新幹線「かがやき」 決死の”自虐動画”大作戦

「消滅可能性都市」に指定

 加賀市のPR動画が作られた背景には、2015年の新幹線開業でブームに沸く金沢市との格差や、2022年度末に予定される北陸新幹線の敦賀延伸に向けた小松市との「誘致合戦」の構図がある。「金沢みたいになりたい、小松に負けたくない」。そんな思いがある。

 加賀市は「山代温泉」「山中温泉」「片山津温泉」の三つの温泉街や、「九谷焼」「山中漆器」といった伝統工芸品などが観光資源だ。

 自然豊かな山中温泉は俳人・松尾芭蕉が愛した名湯として知られる。山代温泉通り商店街の一斉キャッシュレス化を補助するなど、ICT(情報通信技術)に力を入れる。ただ、深刻な人口流出が課題で、日本創成会議が「消滅可能性都市」に指定。市は危機感を募らせている。

JR加賀温泉駅では、北陸新幹線延伸に向けて工事が進められている=2018年10月、石川県加賀市作見町
JR加賀温泉駅では、北陸新幹線延伸に向けて工事が進められている=2018年10月、石川県加賀市作見町 出典: 朝日新聞

 一方の小松市。源義経や武蔵坊弁慶などが登場する歌舞伎十八番「勧進帳」の舞台となった「安宅の関」跡があり、建設大手・コマツの創業地でも知られる工業都市だ。開湯1300年をむかえた「粟津温泉」もある。

 石川県の空の玄関口・小松空港を有する。今年4月に公立小松大学を開学するなど、教育をベースに新幹線開業を見据えた都市開発を進めている。

建設大手コマツの創業地跡「コマツの杜」。小松はコマツの企業城下町としても知られる。
建設大手コマツの創業地跡「コマツの杜」。小松はコマツの企業城下町としても知られる。

「かがやき」を止めたい

 石川県方面の北陸新幹線は現在、「かがやき」(速達タイプ)、「はくたか」(停車タイプ)、「つるぎ」(シャトルタイプ)の3つがある。

 「かがやき」は東京から金沢駅間を約2時間30分と最速で走る。「はくたか」は東京・金沢駅間を約3時間で走り、新幹線停車駅に順次止まる。「つるぎ」は金沢・富山駅間のみを走る。

JR金沢駅に停車する北陸新幹線「かがやき」。停車は加賀市と小松市の悲願だ=2018年10月、金沢市木ノ新保町
JR金沢駅に停車する北陸新幹線「かがやき」。停車は加賀市と小松市の悲願だ=2018年10月、金沢市木ノ新保町 出典: 朝日新聞

 JR西日本は「小松駅と加賀温泉駅に新幹線が止まるのは間違いない」とする一方、「どのタイプがどの時間帯に止まるかは利用状況などを総合的に判断して決める」。

 石川県によると、2015年の新幹線金沢開業以降、県外からの観光客数は増え続け、2017年には約1500万人と開業前より約320万人増加。海外からの宿泊者数も約60万人と開業前の2倍になった。

 観光客の急増で金沢では「ホテル戦争」が過熱。日本政策投資銀行北陸支店によると、2016年末の調査時点で、2020年までにホテルの客室数が1万室を超過して名古屋市を上回る勢いという。そんな金沢に続こうと、最速で東京とつながる「かがやき」を止めたいのが両市の本音だ。

北陸新幹線が開業し観光客らでにぎわう金沢駅=2018年10月、金沢市木ノ新保町
北陸新幹線が開業し観光客らでにぎわう金沢駅=2018年10月、金沢市木ノ新保町 出典: 朝日新聞

「どちらかしか止まらないか、両方止まらないか」

 現在、JR北陸線の「特急サンダーバード」が金沢駅、小松駅、加賀温泉駅をつなぎ、大阪駅まで約3時間。金沢駅から小松駅まで20分弱、加賀温泉駅まで30分弱と、小松・加賀温泉駅間は在来線特急で10分程度の短距離にある。

 加賀PR動画をプロデュースした電通・吉田翔彦さんは「『かがやき』はどちらかしか止まらないか、両方止まらないかでしょう」。これが「誘致合戦」を描いた第2弾のヒントの一つになったという。

動画をプロデュースした吉田翔彦さん
動画をプロデュースした吉田翔彦さん 出典: 朝日新聞

「関西の客が来なくなる」

 北陸新幹線の延伸に伴い、金沢・敦賀駅間のJR北陸線の部分は第三セクターに移譲される。サンダーバードは敦賀駅で切り離され、小松・加賀温泉両駅は大阪駅まで直通列車では行けなくなる。

 加賀と小松の4つの温泉でなる「加賀温泉郷」の旅館経営者からは「関西の客が来なくなる」と不安の声も上がる。

 2017年の調査で加賀は観光客の約25%を、小松は約15%を関西方面の客が占めている。JR西日本は敦賀駅の乗り換えを階段の上り降りで簡単にできるよう工事を進めている。

加賀の話題を全国に

 加賀市はPR動画などICTを使った観光都市化を模索し、新幹線停車を目指す。深刻な人口流出や少子高齢化のなか、加賀の女性たちによる温泉PRプロジェクト「レディー・カガ」などイメージ戦略が中心だ。

 PR動画で「加賀停太郎」の部下を熱演した市観光交流課の中野秀俊課長は「PR動画で人口流出の進む加賀の話題を全国に広げ、『かがやき』を含む全便停車を目指していく」と話す。

加賀市PR動画で「加賀停太郎」の部下を熱演した市観光交流課の中野課長。「第1弾での僕の悔しがる顔が監督にウケたみたいです」と苦笑い=2018年10月、石川県加賀市大聖寺南町
加賀市PR動画で「加賀停太郎」の部下を熱演した市観光交流課の中野課長。「第1弾での僕の悔しがる顔が監督にウケたみたいです」と苦笑い=2018年10月、石川県加賀市大聖寺南町 出典: 朝日新聞

「1本でも多くの新幹線を止めたい」

 小松市は駅周辺の整備を軸に、景観を損ねる「上り旗」を規制するなど都市開発に重きを置く。

 今年の7月、小松市は隣の能美市と協力し市民向けの「新幹線見学会」を開き、高架下の工事現場や新幹線の車両を公開した。

 市国際&経営政策課の藤井勝司課長は「駅前の整備などで利用者を増やし、『かがやき』など1本でも多くの新幹線を止めて地域の発展につなげたい」と話す。

 現時点では「かがやき」の停車計画は白紙。決定の時期すら未定だ。JR西日本金沢支社によると、金沢開業時は前年の2014年8月に「かがやき」の停車駅を、12月に臨時列車の運行と新高岡駅(富山県高岡市)の一部停車をそれぞれ発表している。

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