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兼七園?加賀22世紀美術館? 「捨て身の動画」が伝える地元愛

加賀と小松の温泉対決が終わり、お互いの健闘をたたえ九谷焼の「STOP皿」に注いだ酒を飲む加賀停太郎(左)と小松停太郎=石川県加賀市提供
加賀と小松の温泉対決が終わり、お互いの健闘をたたえ九谷焼の「STOP皿」に注いだ酒を飲む加賀停太郎(左)と小松停太郎=石川県加賀市提供

目次

 地方都市にとって新幹線の停車駅になるかどうかは死活問題です。そんな切実な話題を直球でパロディにした市の公式動画があります。「市中央公園を『兼七園』に」「市美術館は『加賀22世紀美術館』に」。そう、その市の名前は……石川県加賀市。ってどんなところか知っていますか? 現地だからわかる「新幹線問題」について、市の魅力と共にお伝えします。(朝日新聞金沢総局記者・木佐貫将司)

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【加賀市自虐動画の裏側】
【前編】兼七園?加賀22世紀美術館? 「捨て身の動画」が伝える地元愛
【中編】わが町に止まれ!北陸新幹線「かがやき」 決死の”自虐動画”大作戦

金沢市への対抗心むき出し

 動画は加賀市がPR目的で制作した「東京2023加賀 加賀市新幹線対策室」。2022年度末に予定される北陸新幹線の敦賀延伸に際して市内のJR加賀温泉駅を「かがやき」など新幹線の停車駅にしようと奮闘するストーリーになっている。

 YouTubeでの再生回数は10月16日現在で「season1」(第1弾)は約13万回、「season2」(第2弾)は約19万回に達した。

 昨年8月に公開された第1弾は、2015年3月に北陸新幹線が開業しブームに沸く金沢市への対抗心むき出しの内容だ。

 「どんな手を使ってもいい。加賀に新幹線を止めるんだ」

 舞台は加賀市役所の「新幹線対策室」。そこに突如現れたのは、対策室室長「加賀停太郎」だった。俳優の横田栄司さん演じる顔の濃い室長を中心に加賀の新幹線誘致の挑戦がはじまる。

 「レディーガガ」ならぬ加賀美人「レディー・カガ」のおもてなし戦略を提案された停太郎は「面白くなってきたぞ」とにやり。

【レディー・カガ】石川県加賀市と小松市にまたがる加賀温泉郷の旅館や飲食店の女性たち約100人でつくるグループ。普段は、イベントやネット動画などで観光PRをしている。
さいたま市のJR大宮駅で観光パンフレットを配る「レディー・カガ」のメンバーら=2015年2月17日、筋野健太撮影
さいたま市のJR大宮駅で観光パンフレットを配る「レディー・カガ」のメンバーら=2015年2月17日、筋野健太撮影 出典: 朝日新聞

「調子に乗るな金沢!」と絶叫

 一行は有力な観光施設を発見しようと、加賀市中央公園に向かう。そこでの閑散とした様を見て、停太郎は部下に絶叫する。

 「金沢に全部持っていかれて悔しくないのか!」。職員たちも「悔しいです!」。

 兼六園や金沢21世紀美術館など数々の観光名所がある金沢。停太郎一行は「調子に乗るな金沢!」と絶叫し、結束を誓い合う。

加賀市中央公園を視察する新幹線対策室一行。その寂れようにショックを受ける=石川県加賀市提供
加賀市中央公園を視察する新幹線対策室一行。その寂れようにショックを受ける=石川県加賀市提供

 「子どもたちに新幹線の絵を描かせましょう」。「金沢に対抗して市中央公園を『兼七園』に、市美術館を『加賀22世紀美術館』にするのはどうでしょうか」。

 アイデアが煮詰まるなか、停太郎が思いついたのが県の名産・九谷焼で「STOP」と描いた皿を作ることだった。皿をかかげ「加賀に新幹線を止めるぞー!」。

【加賀市中央公園】加賀市の中央あたりに位置する公園。縄文時代の竪穴式住居や弥生時代の高床式倉庫などを復元した施設や、焼畑農耕が行われた白山麓の生活がわかる山村民家などもある。運動ゾーンには、プールや相撲場も備える。

「新幹線は…小松に止まるんだ!」

 「一体誰が…何のために!」。今年8月公開の第2弾では、加賀市新幹線対策室に不穏な空気が流れる。テレビに引っ張りだこになった加賀停太郎に「そっくりな」人物が各地で目撃されているとSNSで知る。

 「誰だこいつは」。対策室のメンバーの1人が「そういえばおととい、停太郎さんと加賀パフェを食べた時、やたらと加賀の取り組みを聞かれたんですよ」。

 停太郎はそのメンバーをにらみつけ「残念だが俺はおととい、君とパフェは食べていない!」。どうやら偽物が加賀を偵察しているらしい。

 するとそこに、颯爽(さっそう)と濃い面長の男が部屋に入ってきた。髪形や服装はうり二つ。そして言い放つ。「新幹線は…小松に止まるんだ!」。

 憤る停太郎に詰め寄り笑みを浮かべた男はこう名乗る。「小松市新幹線対策室室長……小松停太郎です」。「貴様あ……」。隣の小松との新幹線停車をかけ、俳優・伊藤明賢さん演じる小松停太郎との勝負が始まった。

【加賀パフェ】加賀市内の飲食店が考案した地元野菜を生かしたパフェ。ゼリー、はちみつ生クリーム、ブロッコリーや「味平かぼちゃ」を使ったアイスなどで5層に重ねる各店共通ルールを設定。その上にレンコンや赤ダイコンなどで華やかに彩ったり、中に温泉卵を潜ませ意外性を出したりして独自色を出している。
それぞれ工夫が凝らされている「加賀パフェ」=加賀市大聖寺地方町
それぞれ工夫が凝らされている「加賀パフェ」=加賀市大聖寺地方町 出典: 朝日新聞

「もう負けでいいや―」

 「グルメ対決」では、加賀はカニを使ったひつまぶしを、小松はカニの甲羅を使った料理をそれぞれ相手に食べさせた。

 「ひつまぶし風なんて大体おいしくない」「甲羅がおいしいわけが……」。だが食べた2人は「おいしいね~」とニンマリ。

 また、温泉と日本酒対決ではお互いの温泉に入りながら酒を飲む。小松は粟津温泉に、加賀は山代温泉にそれぞれ相手を招く。2人とも入浴したとたん「何これチョー気持ちいー」。

 お酒を飲むと「もう負けでいいや―」。お互いの魅力に気づいた2人の停太郎は九谷焼で作った「STOP皿」にお酒を入れて一緒に酌み交わし、手を取り合ってお互いの発展を祈るのであった。

【山代温泉】奈良時代の僧、行基が3本足のカラスに導かれて見つけたという開湯伝説が残る山代温泉。高度成長期以降、急速に旅館の大規模化が進み、1986年には年間約185万人が訪れた。バブル崩壊で団体客が激減するまでは、北陸の温泉地では首位、全国でも上位10位以内に入る集客数を誇る時期が続いた。
加賀市の「山代温泉通り商店街」。商店の一斉キャッシュレス化などICT(情報通信技術)を活用した取り組みで中小企業庁の「はばたく商店街30選」に選ばれた=2018年9月、石川県加賀市山代温泉
加賀市の「山代温泉通り商店街」。商店の一斉キャッシュレス化などICT(情報通信技術)を活用した取り組みで中小企業庁の「はばたく商店街30選」に選ばれた=2018年9月、石川県加賀市山代温泉 出典: 朝日新聞

動画に込められた切実な想い

 東京生まれ東京育ちの私にとって新幹線は「当たり前」の存在でした。石川県に赴任してから半年間、北陸新幹線延伸にかける加賀市と小松市の熱量に驚かされる日々です。

 少子高齢化や人口流出が止まらない地方都市から見れば、新幹線延伸は二度とない大チャンス。地元の人たちは口をそろえて「モノにしないとまずい」と言います。

 取材を進めると、一見すると面白おかしい加賀市のPR動画に込められた切実な想いを痛感させられました。

 金沢に住みながら加賀と小松を担当していますが、金沢で外国人観光客を見ない日はありません。一方で、加賀や小松はどこか人通りが少なく寂しい感じがあり、シャッター街になった商店街も目につきます。

 東京にいるだけではわからない地方都市の実情を、加賀市民と小松市民のまだまだ続くだろう戦いを、今後も追い続けたいと思います。

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