連載
#26 夜廻り猫
「パパ、絵本読んで」言わなくなった娘、夜廻り猫が描く思いやり
「子育てのために生きていたのに、子育てする余裕がなかった…」。妻が出て行った後に引きこもり状態になった娘の子育てを、男性が「何か大切なことを教えそびれたんだ」と振り返ります。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「思いやり」を描きました。
心の涙の匂いをかぎつける、猫の遠藤平蔵。お店の前で男性に声をかけました。「そこなおまいさん、泣いておるな? 心で」
店の片付けを終えて家に帰る道すがら、男性は娘について話し始めます。
妻が出て行ったあとは二人暮らし。自分の仕事を探すのに精いっぱいで、「パパ」とうれしそうに絵本を持ってきた娘は、何も言わずに「…げんき?」とだけ言います。
気づけば、大きくなった娘は学校を辞めて、ずっと家にいるようになりました。男性は「俺は何か大切なことを教えそびれたんだ」と悔やみます。
今は、仕事帰りに娘のスイーツを買って帰ります。
「娘にやるとね、半分わけてくれるんだ」。そう言ってほほえみながら、遠藤たちにも「ついでだ」とおにぎりを手渡す男性。遠藤は「誰だって笑って暮らせますように」と願うのでした。
作者の深谷かほるさんは「誰かを思いやること」を描いたといいます。
女の子は、一緒に絵本を読んでほしくて、お父さんのところにやって来ます。ただ、振り返ったお父さんは見るからに余裕がなさそうです。
深谷さんは「それに気づいて、同じ家の中にいる相手に言うには、ちょっとおかしな『げんき?』と言って去っていったんです」と話します。
「子どもでも、そんな風に『黙って我慢する』『黙って思いやる』ことがあると思います。子ども以外の人でも、もちろん。人のそういうところが、私はいとしいです」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。単行本4巻(講談社)が7月23日に発売。黒猫のマリとともに暮らす。
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