フリースクール「東京シューレ」の奥地圭子理事長と対談した、俳優の石田ひかりさん。芸能界で活躍する一方、中学生の娘2人を育てる母親でもあります。わが子と向き合う中で、勉強主体の学校教育のあり方に、疑問を持つ機会もあったそうです。対談を通じ胸に宿ったのは、「子どもと同じ目線で、その『生き心地』を大切にできる場に変わってほしい」という思いでした。(withnews編集部・神戸郁人)
登校しない選択は「あり」

――対談で、夏休み明けに子どもの自殺が増える「9月1日問題」への言及がありました
時代は変わっているんだな、と思いました。娘たちが終業式前「夏休みの宿題ができず、休むほど悩むなら、先生に相談を」と書かれた保健だよりをもらってきました。「先生たちは優しいな」と感じました。私の子どもの頃は、何が何でもやり切らないといけない空気がありましたから。
でも学校って、子どもにとっては一日のほとんどを過ごす場所。どの子にとっても自己肯定感が持て、楽しい場所であってほしいと心から思いました。
――「不登校児が全国に13万人以上いる」と奥地さんに言われたときも、驚いていましたね
学校になじめず、苦しんでいる子が、そんなにいるんだなと。ちょっと想像ができませんでした。奥地さんのお話だと、登校できている小中学生は、全体の97%~98%程度。でも、約2%~3%の子は違う。その事実から、目を背けてはいけないと思いました。
以前、「あえて学校に子どもを行かせない」という親御さんの新聞記事を読んだことがあります。その人は、代わりに我が子を旅に出し、博物館などを訪ねさせていました。「それがうちの教育なんだ」と。
今思えば「学校だけが育ちの場ではない」という意見を投げかけていたのかな。勇気をもって登校しない、行かない、という選択があっても良いんじゃないでしょうか。
「無理しなくて良い」言える自分に

その子らしさが大事にされる。そんな人生を送れるなら、必ずしも学校という形にとらわれなくても良い、とは思います。ただ、今は子育てのまっただ中。客観的になれない自分も、やっぱりいるんですよね。
――親としては当然の心境かもしれません
「何とかこの子を一人前に」ということは、すごく意識しています。どうしたって、親は早くいなくなります。子どもたちに、自分の足で立ち、社会で生き抜く力をつけさせるのは、保護者の役目だと思っています。
私は根っこが体育会系なので、つい厳しいことを言ってしまいます。でも、娘たちが本当につらい環境におかれて、登校したくなくなったとしたら、「無理しなくて良いよ」と伝えたいですね。
――お子さんが落ち込んで帰ってくることって、ありますか?
泣きながら帰ってきたときもありましたよ。でも、詳しい事情は聞かないです。話したくなったら話すだろうな、と思いますし。実際は心配で、心拍数が上がりまくってますけど(笑)。
「おやつ食べる?」などと言って、平静を装っています。本人はただでさえつらいのに、親まで取り乱すと、もっともっとしんどくなるでしょうから。
――優しい関わり方ですね
でも、口うるさくなってしまう時もありますよ。黙って見守るには、修業が必要だと感じます。奥地さんのお話を聞いて、私も気をつけなきゃな、と思いました。
学校を「生き心地」高める居場所に

――奥地さんからは、フリースクールで自分を肯定され、夢を見つけた子もいるという話がありました
フリースクールが、しんどい時のシェルターになったんでしょうね。「一日中漫画を読んでいる子もいる」とも聞いて驚きましたが、人生における「生き心地」を高める居場所をつくるというのは、本当に重要だと思います。
そういう場がなければ、学校がつらい子はどこにも行けず、引きこもるしかない。「今日も元気に来られて良かったね」と言ってくれる大人がいることは、幸せなことですよね。
――学校や家庭も、そうした場であれば良いのですが
学校にはこなさなければならないカリキュラムがありますし、なかなか、フリースクールのようにはならないのが現実です。家庭は家庭で、親の思いがありますし。
――勉強だけを重視するのではなく、子どもが主人公になれるような教育が広がると良いですね
そうですね。子どもたち主体で色々と試行錯誤して、失敗したり、足りないことに気付いたりすることにこそ、価値がある。恥ずかしいことや挫折って、長い人生で考えたら、全然マイナスじゃないと思います。むしろ宝物ですよ!
子どもの苦しみ、一緒に向き合いたい

――お子さんが登校できなくなったとき、どんな態度で接したいと考えますか
もし娘たちが学校に行けなくなったら、ものすごく動揺するし、焦るし、悩むでしょうね。でも、奥地さんのお話を聞いた今は、「寄り添って、見守りたい」と思えます。命を絶つほどの苦しみを生むような状況からは、遠ざけてあげたいです。
奥地さんは「いつも子どもの目線に立ちなさい」とおっしゃっていました。親って、つい上から目線というか、「私の時代はこうだった」ってなりがちじゃないですか?まず、そこから考えられれば。一緒に苦しみと向き合う、かな。
1972年、東京都出身。中学生時代に芸能界デビューし、大林宣彦監督の映画「ふたり」などで主演を務める。現在はテレビ番組の司会を始め、各方面で活動。中学生の娘2人を育てる母親でもある。