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2018年06月16日

深圳で見た「スマホ最適化」都市 生活の隅々に入り込むIT

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深圳のマクドナルドでミニアプリを試しているところ。テーブルに貼られたバーコードからすぐサービスメニューにアクセスできました

深圳のマクドナルドでミニアプリを試しているところ。テーブルに貼られたバーコードからすぐサービスメニューにアクセスできました

 中国の深圳は、北京を「帝都」、上海を「魔都」と呼ぶのにならって「夢都」と称されるほど、若者をひきつけています。最新テクノロジーが街のあちこちで実用化されている様子は、壮大な社会実験のようです。中でもスマホを使ったサービスの充実は驚くべきレベルに。現地で目の当たりにした「スマホ最適化された都市」の実像とは?


手軽さについつい衝動買い

 深圳を訪れたのは今年3月。メイカームーブメント(3Dプリンターなどを活用して個人で新しいものを自作する活動)に関わっている技術者ら約40人による「観察会」に参加しました。「観察会」で見た深圳の日常生活には、隅々にITが浸透していました。特に金銭の支払いはスマホなしでは考えられないくらいです。

 スマホの恩恵があるのは中国人だけではありません。

 私が訪れた3月時点では、日本人旅行者であっても、事前にモバイル決済用のアカウント(大手2社のサービス利用者は延べ10億人を超えます)を用意しておけば、街中での支払いはコンビニだろうがタクシーだろうが自販機だろうが、ほぼスマホのアプリだけで可能でした。

スマホで買い物できる無人コンビニ。アプリでQRコードを読み取って入店、あとは商品を手に取れば自動で決済される仕組みでした。言葉ができなくても大丈夫

スマホで買い物できる無人コンビニ。アプリでQRコードを読み取って入店、あとは商品を手に取れば自動で決済される仕組みでした。言葉ができなくても大丈夫

 旅行するときの煩わしさのひとつだった、異国で小銭を用意し支払う煩わしさは一切なし。あまりのスムーズさについ余計な物を買うこともしばしばでした。

 街中の露店でも売り子が自分のQRコードをプリントした紙をぶらさげていて、それをスマホで撮るだけで支払いの準備が整うのですから、誰もがこの仕組みを使うのも納得です。

 紙幣を使った場面は日本人同士での支払いのときぐらい。コンビニや駅など、場面ごとに違う電子マネーやポイントカードを使うのが当たり前な日本の日常に、初めて疑問を感じました。

タクシーでも、運転手が示したQRコードを読み取って即支払い。渡航前、「支払いでトラブルになってボラれたらどうしよう」と心配していたのはまったくの杞憂でした

タクシーでも、運転手が示したQRコードを読み取って即支払い。渡航前、「支払いでトラブルになってボラれたらどうしよう」と心配していたのはまったくの杞憂でした

 帰国後、日本のコンビニや銀座の大手ショップなどで中国のモバイル決済サービスが次々利用可能になっていることに遅まきながら気づきました。

LINEのようなコミュニケーションサービス「WeChat」(運営元によると月間アクティブユーザー数は10億以上とのこと)のスマホ決済画面。知り合ったばかりの相手にすぐお金を送ったり、勘定を割り勘で払ったりすることができました

LINEのようなコミュニケーションサービス「WeChat」(運営元によると月間アクティブユーザー数は10億以上とのこと)のスマホ決済画面。知り合ったばかりの相手にすぐお金を送ったり、勘定を割り勘で払ったりすることができました

 モノでもお金でも使いやすくすれば利用頻度が増えるのは当たり前の話。中国人観光客が日本で気軽に「爆買い」できる背景には、こういった中華決済インフラの普及も寄与していることでしょう。

 もし自由に使えるのであれば、中国以外からの旅行者も、日本の電子マネーより利用範囲の広いこのサービスの利用を選んだとしてもおかしくないと思います。

スマホの中で暮らせる!?

 日本のチェーン店でもポイントカードをスマホアプリに置き換える動きが進んでいます。しかし、中国で起きているのはさらにそれらをひとつの土台に統合しようという試み。

 決済に使うチャットアプリの中に「ミニアプリ」(小程序)という小さいプログラムを読み込み、そこで店ごとのサービスを提供するという方法が注目を集めています。

深圳のマクドナルドでミニアプリを試しているところ。テーブルに貼られたバーコードからすぐサービスメニューにアクセスできました

深圳のマクドナルドでミニアプリを試しているところ。テーブルに貼られたバーコードからすぐサービスメニューにアクセスできました

 たとえばマクドナルドが提供しているミニアプリは、レジに並ばずスマホ画面で注文ができて引き換え番号が表示されるものでした。

 利用者にとっては、店ごとに違うアプリをいちいちインストールしなくても、チャットアプリの中だけで用事が済むメリットがあります。これがどこでも利用できるようになれば、ユーザーは一日のほとんどを同じアプリの「中」で暮らすことになるかもしれません。

 スマホ決済を利用できるのは企業だけでなく、自治体によっては公共料金の支払いもスマホでできるようになっているそうです。

 またスマホなどでの取引内容を加味して個人の信用を数値化し、スコアの高い人は金利や手数料などで優遇するというサービスも既に導入されています。

 バーチャルとリアルの統合が消費者のすぐ近く、手のひらの中で進んでいるのです。
 

「長城」の内側の便利

 言葉が通じなくても、スマホの翻訳アプリや各種ウェブサービスが助けてくれます。

 中国のインターネット環境には悪名高い万里の長城(グレート・ウォール)ならぬ「グレート・ファイアウォール」が設けられ、国外のサービスであるGoogleやLineなどへのアクセスは遮断されています。

 しかし、その代役ともいうべき中国製チャットサービスや電子地図が普及しており、使い勝手に不満を感じることはほとんどありません(チャットは検閲があるので言葉に気をつけろ、と注意はされましたが)。

 市民が海外の情報へ自由にアクセスすることを制約する中国政府の姿勢には批判がありますが、一方で日常の用はこれで十分足りている、ということもまた事実です。

スマホで買い物した店舗から頻繁に届くようになった広告メッセージ(左)を翻訳アプリで変換した結果が右のスクリーンショットです。精度はいま一つですが何をいわんとしているかは推察可能。広範なユーザー層を抱えるチャットサービスを土台に様々なビジネスやサービスが花開いていました

スマホで買い物した店舗から頻繁に届くようになった広告メッセージ(左)を翻訳アプリで変換した結果が右のスクリーンショットです。精度はいま一つですが何をいわんとしているかは推察可能。広範なユーザー層を抱えるチャットサービスを土台に様々なビジネスやサービスが花開いていました

 ネット業界ではウェブ画面の表示をスマホで見やすくすることを「スマホ最適化」と呼びますが、深圳の日常では生活そのもののスマホ最適化が日本よりも遥かに進んでいる、との印象を受けました。

 スマホと共に進化した一足先の日常を、深圳で垣間見たように思います。

8.6km先の目的地にあと9分で到着、と知らせる現地のナビゲーションアプリ。実際に予告時刻に到着しました。それにしても車線数の多いことよ……

8.6km先の目的地にあと9分で到着、と知らせる現地のナビゲーションアプリ。実際に予告時刻に到着しました。それにしても車線数の多いことよ……

深圳の今と向き合う

 現地で感じたのは、経済成長が現在進行形で進んでいるエネルギーです。

 ホワイトカラーとブルーカラーの給料に大きな格差のある中国では、残業のない工場は工員から逆に「ブラック企業」とみなされる、という冗談のような話を現地の経営者から聞きました(もちろんサービス残業ではありません)。

部品工場では大勢の女性工員らが働いていました。「女性の方が勤勉」ともっぱらの評判

部品工場では大勢の女性工員らが働いていました。「女性の方が勤勉」ともっぱらの評判

 また、あるIT大手の忙しくない部署は「9-9-6」(午前9時から午後9時まで週6日)で働き、忙しい部署だと「9-10-7」に。その代わり最も多いときは48ヵ月分の賞与が出た――との逸話も紹介されました。

 事実なら相当な長時間労働の常態化で、過労で倒れる人もいることでしょう。少なからぬ人々が猛烈に働いて猛烈に稼ぎ、それが深圳の経済成長に寄与しているのは確かなようです。

食堂の壁で見かけた「求める生活を実現するために奮闘努力しよう!」と訴える標語

食堂の壁で見かけた「求める生活を実現するために奮闘努力しよう!」と訴える標語

 働けば働くほど成功が約束されているように感じられた高度成長期、あるいはドリンク剤のCMが「24時間戦えますか」と煽ったバブル期真っ盛りの日本の職場の一部にも、似た状況はあったことでしょう。

 「モーレツ」「エコノミックアニマル」は、もはや日本人の専売特許ではない、と感じました。

男性用トイレの小便器前によくある「一歩前に」を促す標語。マナーやモラルを向上させようという掛け声はこの国の至るところで鳴り響いているようでした

男性用トイレの小便器前によくある「一歩前に」を促す標語。マナーやモラルを向上させようという掛け声はこの国の至るところで鳴り響いているようでした

かりそめの繁栄?

 過熱ぶりにバブルを疑われることも多い深圳の栄華はいつまで続くのでしょう。経済特区での私企業の自由な活動を許し多くの投資を呼び込んできた当局の管理体制が、一転厳しくなることもあるかもしれません。

 人件費、不動産価格の安い内陸の都市に成長の中心が移っていくこともあり得るでしょう。明日のことは誰にもわかりません。

スマホ操作ですぐ借りられ、乗り捨ても自由なシェアサイクル。大手2社が採算度外視で市場争いを繰り広げ、至る所で2色の自転車が群をなしていました。中国では家でも車でも「シェア」が大流行、それにもスマホが一役買っています

スマホ操作ですぐ借りられ、乗り捨ても自由なシェアサイクル。大手2社が採算度外視で市場争いを繰り広げ、至る所で2色の自転車が群をなしていました。中国では家でも車でも「シェア」が大流行、それにもスマホが一役買っています

 でも自由なはずの日本で人々が長い沈滞から抜け出せずもがき続ける一方で、一党独裁の国の異端児である深圳に住む人々が、今の時点で成長を謳歌し未来を先取りしているというのは、否定できない現実です。

未来を見に行こう

今回訪問した深圳アラシビジョン社の社員紹介ページ。正面を向いた写真の上でマウスカーソルを動かすと、それぞれ茶目っ気あふれるポーズに切り替わる趣向。日本の同世代と変わるところのない、意欲に満ちた愛すべき若者たちでした

今回訪問した深圳アラシビジョン社の社員紹介ページ。正面を向いた写真の上でマウスカーソルを動かすと、それぞれ茶目っ気あふれるポーズに切り替わる趣向。日本の同世代と変わるところのない、意欲に満ちた愛すべき若者たちでした

出典:https://www.insta360.com/about

 大量生産とイノベーティブな新技術の両面で世界に影響を与える存在となった深圳。

 そこで若い世代が中心となって進めている壮大な社会実験は、明日の世界を占うひとつの指標となるでしょう。私たちが深圳から学べることは決して少なくないと思います。

新技術の実証試験? 深圳大学の構内で突然出会ったカメラ付き自走式ロボット

新技術の実証試験? 深圳大学の構内で突然出会ったカメラ付き自走式ロボット

 「日本が」「中国が」と大きな主語で語るのは難しいけど、テクノロジーに囲まれて暮らす深圳の日常に一度触れてみたら、自国の景色もまた違った姿で目に映るのではないか。「観察会」を経てそう感じました。

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