連載
#30 ことばマガジン
「違くて」「違くない」って変ですか? 若者ことばと思いきや実は…
「違くて」「違かった」「違くない」――。違和感ありますか?
【ことばをフカボリ:13】
「違(ちが)くて」「違かった」「違くない」――。「そうではなくて」といった意味で使われるこうしたことばに、どこか違和感があるという声があります。特に気にならず、自身も使っているというあなた、もしかして生まれは「ある地方」ではないですか?(朝日新聞校閲センター・市原俊介/ことばマガジン)
「違くて」などについての意見を筆者のまわりに聞いてみると、特に抵抗なく使っているという人と、何か引っかかりを感じるので自分では使わない、という人に分かれました。
さらに、「書き言葉では使わないが、話し言葉では使うことがある」「ツイッターやインスタグラムなど、ネット上のコメントのやりとりでよく見かける」という人も。
これらの表現は、そもそも動詞である「違う」を、「白い」「長い」のような形容詞のように活用させて使っている、という特徴があります。本来とは違う、特殊な活用をさせて使われていることが、違和感の原因になっているようです。
「問題な日本語」(北原保雄編)という本によると、動詞の「違う」は、たとえば「AはBと違い、優秀だ」など、もともと「違い」という形でよく使われていたといいます。
形容詞と同じく「い」で終わる形をしていて、使われ方も形容詞に似ていたため、形容詞のような活用で使われるようになったのでは、と説明しています。
「これだけは知っておきたい言葉づかい」などの著作がある、日本語学が専門の竹林一志(かずし)日本大学教授は、動詞の「違う」にある「他のものとは異なる」という意味の性格が、極めて形容詞に近いことが、「違くて」「違かった」などの活用が広がった理由として重要だと考えています。
「本来は動詞である『違う』という語自体が、無意識のうちに形容詞として扱われるようになったのかもしれません」と竹林教授は話します。
では、この「違くて」などの表現は、どこでいつごろ生まれたのでしょう。
言語学者の井上史雄さんの著書「日本語ウォッチング」は、100年ほど前に東北で使われはじめ、そこから北関東、東京と伝わり、その後広く使われるようになった、とそのルーツに言及しています。
最近の若者が作った「はやりことば」と思われがちですが、実は違くて……いや違って、すでに一定の地域では使われていた、なかなか歴史のある表現のようです。
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