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「自分以外の歯車に、合わせなくていい」吉満明子さんの「#withyou」
「明日、学校に行きたくない」と悩んでしまうことは、誰にでもあります。東京の下町の路地裏にたたずむ木造の古民家で、ひとり出版社を立ち上げた吉満明子さんは、「社会の歯車との回転数、合わせなくていい」とアドバイスします。
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「明日、学校に行きたくない」と悩んでしまうことは、誰にでもあります。東京の下町の路地裏にたたずむ木造の古民家で、ひとり出版社を立ち上げた吉満明子さんは、「社会の歯車との回転数、合わせなくていい」とアドバイスします。
「明日、学校に行きたくない」と悩んでしまうことは、誰にでもあります。同じような悩みを抱え、それをどうにか乗り越えた人のアドバイスを聞いてみませんか? 東京の下町の路地裏にたたずむ木造の古民家で、ひとり出版社を立ち上げた吉満明子さん。併設しているブックカフェには、「ほの暗さを求める」さまざまな人が訪れるといいます。子どもの頃は「いろんなことに傷ついていた」という吉満さんは「社会の歯車との回転数、合わせなくていい」とアドバイスします。
吉満さんが「センジュ出版」(東京都足立区)を立ち上げたのは、2015年9月。
北千住駅からほど近い古民家に構えた事務所には、畳にちゃぶ台、ぬくもりを感じる照明が灯るブックカフェが併設されており、コーヒーを飲みながらゆっくり本を読むことができます。
吉満さんやカフェのスタッフが、時に、訪れる人の声に耳を傾ける、居心地のよい時間が流れる場所です。
「人の目につかないようなちょっと静かな場所で、こっそりとやっているものですから。ちょっとほの暗さを求めていらっしゃるんでしょうか」
――「学校に行きたくない」「居場所がない」そんな気持ちを胸に訪れる人もいるといいます
「お子さんや、親御さんがいらっしゃることもあります。仕事の合間に休みにいらっしゃる人もいますね」
「みんなすごく真面目に頑張っている人だからこそ、通っている学校、属している組織の歯車の回転数に合わせようとしちゃうんですよね」
「自分以外の歯車の回転数に無理して合わせる必要はないよ、と。自分のちょうどいい回転数を作って、そしてそれを楽しめるようになるまでは、ここで一休みしてもらえればいいと思っています」
――無理して合わせる…吉満さん自身、そういった経験が?
「子どもの頃はとっても傷つきやすい子でした。演じているという意識まではなかったかもしれませんが、快活に見られる半面、今みたいな上手なコミュニケーションがとれないからこその友達関係に傷つくこともありました」
「口頭ではうまく伝えられなくて、ぶつけるようにノートに詩を書きためていました」
「30代になって、出版社で朝から晩まで働いていたときも、海の中で首より上だけ出してもがいている状態でした。『助けて』とか、『休みたい』って本当は言いたかったのかな」
「妊娠・出産を機に岸に上がって、地に足がつくことができましたが、それがずっと続いてしまって、自分の状況を認識できていないと、溺れて、時には命を落とすことにつながりかねない」
「私の場合は、今改めて振り返ると、海の向こうの地平線はきれいだったなって思います。筋肉もついたと思います。でも、そのときはその歯車の流れを自分のもとに戻さないと、って感じたんです」
世の中に振り回されるのをやめて、時間を自分の中から生み出すことーー吉満さんが、そんな考え方になったのは、ある本の影響が大きかったそうです。
吉満さんが幼い頃から大切にしている一冊、それは「モモ」(ミヒャエル・エンデ作)です。
吉満さんは編集者としての経験を活かして、文章の書き方をアドバイスする「文章てらこや。」を開いています。
少人数で行われる講座の中で大切にしているのは、上手に見せる書き方や、かっこよく仕上げる方法ではなく、「あなたにしか書けない文章」を書くことです。
――どうして「自分だけの」が大切なのでしょうか。
「『常識はこうだから』とか『恥ずかしい』って自分を隠し、周りに合わせた文章を書いたとして、それに共感する人が現れても、きっとお互い納得できないでしょう」
「『私のまんま』でいられる言葉があれば、自分をわかってくれる人がいつか必ず現れます」
「その人に出会えたときには、きっとすごくエネルギーを使うでしょう、いい意味でね。いろんなところに行きたくなったり、SNSでずっとチャットしたくなったりするかもしれない」
「だから、そのときのためにエネルギーはとっておこう。それまでぼーっとしてたっていいよって思います」
――でも、信じて待つのも簡単なことじゃありません。その間、何をしていればいいのでしょうか。
「私は2つのことをやってほしいな、と思います」
「ひとつは『本を読むこと』。世界には実は、あなたのクラスや近所や家族にはない価値観が広がっています」
「『自分の思っていたことは合ってたじゃん』っていうこともあるだろうし、『自分よりもっと変な人がいた』とかね」
「それを1対1で教えるのが得意なのって、本だと思うんです。本屋に行ってみて、ちょっと気になったものがあれば、そこから読み進めてほしいです。自分が選んだ本って、必ずあなたの味方になってくれるはずだから」
「ふたつめは、『すごく好きなことをする』」
「食べたいお菓子を食べるでもいいし、ゲームをするでもいいです。好きなことって未来をつくることだから、罪悪感は持たないで。負荷をかけないことをやってみると、意外と負荷の意味もわかったりもします」
「好きなことも、やりたいこともわかんなくても全然だいじょうぶ。本屋さんで本を眺めてみて。インターネットだけでは気付けない、自分の引き出しのヒントが見つかるはずです」
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