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#29 ことばマガジン
「諸島」と「群島」、どう違う? 島の集まり具合…だけじゃない事情
沖縄県の尖閣は「諸島」、北方領土の歯舞は「群島」。なぜ呼び方が分かれているのでしょう。
【ことばをフカボリ:12】
たくさんの島が集まっているところを、「諸島」と呼んだり「群島」と呼んだりします。ニュースでよく見る沖縄県の尖閣は「諸島」、北方領土の歯舞は「群島」。なぜ呼び方が分かれているのでしょう。関係者に聞くなどして調べました。(朝日新聞校閲センター・大月良平/ことばマガジン)
国語辞書や地理学の事典を見てみると、諸島は「散在する島々」、群島は「群がった島々」などと書いてあります。ほとんど同じ説明をしているものも見られます。
ちなみに英語では「archipelago」や「islands」ですが、諸島・群島に相当するような使い分けはないようです。
群島を「地理学では『諸島』の旧称」としている辞書もあります。平岡昭利・下関市立大学名誉教授(地理学)に尋ねると、諸島も群島も学問的な定義はなく、学界では基本的に地図に書いてある名をそのまま使っているのだそうです。
では、地名としてはどう決められたのでしょう。
地図を作る国土地理院や、海図を作る海上保安庁海洋情報部によると、このような配置なら諸島としよう、といった決まりはなく、歴史的な名前や現地での呼び方に従って、地名を決めているとのことです。
実際、「諸島」と「群島」の両方の呼び方が使われていて混乱があった場所もあります。北方領土の「歯舞」や鹿児島県の「奄美」は、近年まで地図や海図で、諸島と群島の両方の呼び名が混在していました。
国土地理院や海上保安庁の代表者でつくる「地名等の統一に関する連絡協議会」が、この問題の解決に取り組みました。
2008年、地元の北海道根室市の要望をもとにして「歯舞群島」に、2010年には現地で呼ばれることが多いとして「奄美群島」に統一しました。
伊能忠敬が幕末に作った地図には、島の名前が細かく書かれていますが、諸島や群島といった文字は見られません。
1875(明治8)年の千島樺太交換条約の日本語訳に、「クリル群島」という記述があります。1877(明治10)年の「小学必携日本全図」には、小笠原群島や北部諸島(現在の奄美群島)の表記があり、諸島・群島は明治の初期から広く使われ始めたようです。
明治時代に入り、中央集権的な政府が行政区画を定めて、外国との境を明確にしていきました。その中で、島々が集まっている場所をまとめる呼び名が必要になり、統一した基準もなく個別についていった――という流れが浮かんできます。
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