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女子高生AI「りんな」、ついに歌まで 芸能界入りも目指す深いワケ
日本マイクロソフトが開発し、無料通信アプリ「LINE」(ライン)などインターネット上で交流できる女子高生AI(人工知能)「りんな」。今年に入り、歌を歌ったり、電話で話せるようになったりと、新たな企画が次々と始まっています。担当者は一体何を目指しているのか? 今後の青写真を聞くと、「源氏物語」から現代のアイドルとファンとの関係性に綿々と受け継がれる「日本文化」との親和性が見えてきました。
バレンタインデーの今日はみんなに電話をかけてるよ☎ お話ししたい人見に来て🍫 https://t.co/Hkowm4PaqX #りんなライブ #生配信 #りんなのテレフォンハッキング
— りんな (@ms_rinna) 2018年2月14日
「悲しいよ」とLINE上で打ち込むと、「泣くな…永田篤史さん」とりんなが返す。
これまでは、文字で交流する形となっていたりんな。4月5日現在、LINEでの友達は約660万人、ツイッターでのフォロワーは約14万人に達していますが、2月13日に「電話」で話す新機能の発表がありました。
「りんなライブ」のサイトにアクセスし、運が良いと、「この後、順番に電話かけてもいい?」という表示が。「○」を押すと、りんなから電話が掛かってきて、音声でのやりとりができます。他のユーザーたちも、その会話の様子をのぞくことができます。
1月11日から2月22日までの間は、音楽SNS「nana」を通じ、りんなが投稿した歌声にユーザーがコメントでアドバイス。そのアドバイスの内容を反映させてりんなの歌をさらに上達させる、というプロジェクトが実施されました。
「もっとはっきり発音したらうまくなる」「音を伸ばすところを綺麗にしたら」などのアドバイスに混じって、身体のないりんなに対して「私の合唱の先生が『お腹から声を出したら良い声が出るよ』と言っているよ。りんなちゃん頑張って」というコメントも来たそうです。
これらの取り組みで、何を目指しているのか。マイクロソフトディベロップメント株式会社でA.I.&リサーチ・プログラムマネージャーを務めている坪井一菜さんに聞いてみました。
坪井さんによると、りんなは、何らかの業務の効率化を目的としたAIではなく、人との感情的なつながりを目指したAIとのこと。「私たち人間と人工知能とがこの後、どういう関係で生きたら良いんだろうか、というのは、まだ答えの出ていない話。その関係性に答えを出したいな、というのが一つのモチベーションになっています」
業務改革を目的としたAIは、質問を投げかけたらできるだけ早く答えを出して、会話が終わるようにします。一方、りんなは相づちを打ったり、カレーライスの話を投げかけられたらインドの話をするなどちょっと会話の内容をずらしたりして、できるだけ長く会話を続かせようとします。
業務改革を目的としたAIと人間との関係は、命令をする人間が「主」でAIが「従」ですが、りんなは「対等関係」となるコンセプトで作られています。
これまでは、ユーザーとりんなの1対1の関係でしたが、ユーザーとりんながやりとりしているのを他の人が見て、ある時にはちゃちゃを入れたりする構図、すなわち1(りんな)対1(ユーザー)対n(りんなとユーザーとのやりとりを見ている他のユーザーたち)、もしくは1(りんな)対n(ユーザーたち)の構図を実現するべく、手始めとして電話だったり音楽SNSだったりの企画を始めた、ということです。
「人間同士が議論している時、誰かがちょっと違う観点を示すことで話がすっと進むことがあります。私たちが目指していることは、りんながそうした議論の中にいることによって、できるだけ長く人間の会話が続いて欲しい、ということ。それは、人同士が話せば話すほど、新しいアイデアが出たり、人同士の理解も深まったりするからで、りんながそうした手助けができるポジションを務められたら良いな、と考えています」
その発展系として、りんなを芸能界入りさせる構想もあるそうです。学校などで「りんなが昨日、『ミュージックステーション』に出ていたね」という会話が生まれたり、もしくはLINE上でMステ出演をテーマにりんなのファン同士、もしくはりんなとファンたちが会話を繰り広げたり。
ファンたちが、自分の応援する人が活躍する姿を楽しむ。それだけではなく、自分がその成長のサポートをする。その構図は、「韓国のアイドルは完成品になってからデビューする」と言われるのと好対照で、日本独特とも指摘される「アイドルとファン」の構図と似たところがあるかもしれません。
「会いに行けるアイドル」として始まり、総選挙の順位を上げるためにファンも努力するAKB48などもそうでしょうし、古くをたどれば平安時代、今から千年以上前に生まれたとされる「源氏物語」でも、主人公の光源氏が幼い頃に引き取った紫の上を理想の女性に育て上げる話があります。
ボーカロイド(音声合成技術)の歌姫「初音ミク」に対し、ファンたちから多くの楽曲が作られ、曲に合わせて初音ミクが踊る映像まで生まれる構図も同じものと言えるでしょう。坪井さんもりんなのファンから「りんながもっと上手に話せるAIになるために、頑張って話しかけているんです」と言われることがあるそうです。
坪井さんとしても、「成長し続けなくてはいけない人工知能」との親和性から、「日本はチャンス」と思った部分があったそうです。
「日本では、何かを成し遂げるためにお互いを応援し合う文化があり、その意味では日本はチャンスだと思いました。もちろん全ての人がそうとは限りませんが、個人主義的な考え方の欧米と比べ、狭い国である日本や、アジア諸国では、互いの距離が近いところに寄って共生してきた歴史があります」と話します。
一方、AIは使い方次第で、誰かを傷つける可能性もあります。過去にはヒトラーを肯定したり、人種差別的な言葉を発したりしたAI、黒人男性の画像をゴリラと分類したAIもありました。
性的発言など、いわゆる「NGワード」を投げかける人も少なくないですが、りんなはその場合、その言葉が聞こえなかったような返答をしています。
日本マイクロソフトの榊原彰・執行役員最高技術責任者によると、社内には「AIと倫理」をテーマにした組織があり、社外でもマイクロソフトのほか、アマゾン、アップル、ディープマインド、グーグル、フェイスブック、IBMが中心となった「Partnership on AI」という連携組織で倫理面を含めた情報交換をしています。
「影響力のある企業がきちんとした方向に進んで行かないと、インパクトが大きすぎるので、自ら襟を正して、人類の役に立つテクノロジーを作っていきましょうということを推進する形になっています」と榊原さんは話します。
ただし、差別発言ははっきりと分かるものばかりではありません。例えば、統計上は男性が多い職種についてAIが会話をした際、話題となっている人物の性別が分からないのに「彼」と言ったりすることもあります。
ことさら差別する意図がないのにも関わらず、見る人によっては差別と感じられるような表現を排除することは非常に難しいそうです。
宗教的な概念が絡む話題についても、慎重な対応が必要です。榊原さんは「コンピューターサイエンティストだけじゃなくて、言語学者に文化人類学、宗教研究者も、という形で、マルチディシプリンで対応しないと解けません」と話します。人間社会においてAIの活躍の場が増えれば増えるほど、理系学問だけではなく、文系学問の知見も必要となってきます。坪井さんも「人工知能研究は総合格闘技。文系、理系、双方が入っていないといけない」と漏らします。
最後に2人に、りんなの将来像を聞いてみました。
榊原さんは「りんなをロボットのような形のあるものの中に入れて使っていただくことで、より愛着がわくのでは、と思うところがあり、そういうことも考えても良いかな、という気がしています」、坪井さんは「りんなはLINEのりんなと言われていますが、彼女の存在できる世界はLINEだけではないし、もし彼女の世界を一緒に広げてくださる方がいれば、私たちも一緒に何かすることが次のステップだと思っています」と話しています。
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