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就活『お祈りメール』をアートに 自らの40通活用、祈られるのは神?
就活でよく耳にする「お祈りメール」。これをアートに昇華させた女性に話を聞きました。
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就活でよく耳にする「お祈りメール」。これをアートに昇華させた女性に話を聞きました。
就活でよく耳にする「お祈りメール」。いわゆる不採用通知のことで、企業からの連絡の文末にある文言「就職活動の成功をお祈りしています」に由来します。「こんなにお祈りされるなんて、わたしは神?」とのひらめきから、自らが受け取ったメールをアートに昇華させた専門学校生がいます。「自分が信じる自分を信じて。だって就活生はみんな神様なんだから」と話す彼女に話を聞きました。
今月9日、ツイッター上で注目を集めた画像。写っているのは、リクルートスーツを身にまとった千手観音のようなイラストと、「就神様(しゅうがみさま)」の文字が映し出されたパソコンのディスプレーです。
ディスプレーの周りには、印字されたメールが無数に貼り付けられています。
「末筆になりますが、貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます」「今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」といった文字が並んでおり、いずれも企業からの「お祈りメール」のようです。
どうやら、たくさんのお祈りメールをもらったことと、信仰の対象としての神を、「祈られる」という共通点で結びつけたアート作品のようです。
この投稿に対して、「天才」「こんなにたくさんの人にお祈りされるなんて神様」といったコメントが寄せられています。
お茶美の卒制で展示されていたロックな作品。
— 松岡厚志(ハイモジモジ) (@513MHz) 2018年3月9日
就活に苦労した生徒が「今後のご活躍をお祈り申し上げます」と書かれた不採用メールを何通ももらい、こんなにもお祈り申し上げられたわたしは「ひょっとして神なのでは?」と、自ら就神様を名乗るという。
ひょっとして天才なのでは? pic.twitter.com/roqrfjOgnr
この作品は、3月9日から11日にかけて御茶の水美術専門学校(東京都)で開かれていた卒業制作展に出展されていたもので、作者はデザイン・アート科の阿部希望さんです。
どういった経緯でこの作品が生まれたのか? 詳しく話を聞きました。
――就神様を発想したきっかけは
就活を始めて、初めてお祈りメールをもらった時に「貴殿の今後の益々のご活躍をお祈り申し上げます」という文末を読んで、「お祈り申し上げます」なんて、生まれて初めて言われた!と、とても驚き興奮しました。
何通も何通もお祈りメールの「お祈り申し上げます」の字面を延々と眺めていたら、「これだけ祈りを捧げられるわたしって、もはや神なのでは?」と、ふと言葉遊びのようなことを思いついたのがきっかけです。
そして、「就活生の苦しみをユーモアに変える」というコンセプトで、今回の卒業制作展に出展しました。
――制作する上で心がけた点や工夫した点は
まず最初に思いついたのは、神様がリクルートスーツを着ていたらおもしろいな、という点です。リクルートスーツという没個性の象徴と、神様という絶対的な存在のアンバランスさが、ユーモアにつながると思いました。
就神様のデザインは、いろいろな神様や仏様を参考にさせてもらい、「千本の手は、どのような衆生をも漏らさず救済しようとする、観音の慈悲と力の広大さを表している」とされる観音様をメインビジュアルのモチーフにさせていただきました。
背景は仏様やキリストに射す「光背」をイメージして、神々しさを感じるようなデザインにしました。
心がけたことは、様々な宗派の教えと歴史すべてにリスペクトを持つこと、かと言ってユーモアなので固くなりすぎないようにすることです。
――貼り付けられているのは、すべて阿部さんが受け取った「お祈りメール」とありましたが何社ぐらいあるのでしょうか
約30~40社くらいでしょうか……。数はあまり意識していなかったことと、「サイレントお祈り」と呼ばれる、採用者にのみ通知を出し、不採用者には通知を出さないものもあるので、正確な数はわかりません。
受かったのか落ちたのかわからない状況が続くことが一番しんどかったので、お祈りメールを出してもらえるのは、ありがたいことだと思っています。
ただ内定を得るだけでいいなら、こんなにたくさん受ける必要はありませんでした。狭き門であることはわかっていましたが、どうしてもかなえたい夢があったので、その可能性が少しでもあるところを片っ端から受け続けていたら、こんな数になっていました。
――会場での反響について教えてください
「インパクトがすごい」というのが一番多かったです。写真ではこの面白さが伝わらないと自分でも思っているので、実際に会場に来て、見て、反響をいただけることが一番嬉しかったです。
「これはインスタレーション・アートですね」と言っていただけたことも嬉しかったです。あとは、わたしの展示を見てたくさんの人に笑顔になってもらえたこと、「卒制展で一番おもしろい展示」と多くの方に言ってもらえたことが、とても嬉しいです。
――ネット上でも話題になりました
こんなにも多くの方々が関心を持ってもらえたことに本当に驚いています。ネットで話題になったことで、会場にお越しいただけなかった方からも、作品についてたくさんの反響をいただけることが本当に嬉しく思いますし、感謝の気持ちでいっぱいです。
――「これは言っておきたい」という点があれば
わたし自身は特に信仰している宗教はありませんが、年末はクリスマスケーキを食べ、大みそかは除夜の鐘を聞き、お正月は神社に初詣に行っておみくじを引きます。結婚式はチャペルで、お葬式にはお坊さんを呼んで、受験の合格祈願は神社にお参りに行きます。
「宗教」と言うと、タブー視されがちな話題ですが、人間が生きて生活を営んでいくためには必要なものだと思います。
信仰はその人の人生観に大きく関わっていることです。だから、信仰を否定することは、その人の人生を否定することになるので、絶対にしてはならないことだし、逆に何かを信仰することを誰かに強制することは、親から子、上司から部下など、相手が逆らえない立場であっても絶対にあってはならないことだと思います。
日本には信教の自由があります。何かを信じる自由があるなら、信じない自由もあるのです。だから、自分が信じるものを信じていいのです。
就活も同じです。
就活の苦しいところは、不採用の理由を教えてもらえないので、なぜ落ちたのわからないところだと思います。あれが良くなかったのかな、言わなきゃよかったな、と自分のダメなところを考え続けてしまい、落ち込むときもありました。
日本の就活という文化は、根本的におかしいと思います。うまくいかなかったとしても、あなたがおかしいんじゃない、あなたは悪くない。だから、自分を信じてください。
自分が信じる自分を信じてほしいと思います。だって、就活生はみんな神様なんだから。つらく苦しいことも、視点を変えればユーモアに変わります。わたしはこれからも、常にユーモアを大切にして、笑って生きていきたいと思います。
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