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#7 辺境旅

「酷道」はロマンの宝庫 32万キロ走破したマニアが見つけた境地

沿道の標識がひしゃげたままの国道157号=福井県大野市、2017年6月撮影
沿道の標識がひしゃげたままの国道157号=福井県大野市、2017年6月撮影 出典: 朝日新聞

目次

 国道なのに、道幅が狭くて舗装も粗く、まるで「酷道」――。そんな嫌みたっぷりな呼び方をされる道路が、実は全国各地にあります。ネット上では「壮絶すぎる」「最凶」といった、まさに酷いコメントが並んでいるのですが、「走ってみた」という投稿動画もたくさん出てきます。険しい道なのに、どこが人をひきつけるのでしょうか。地球8周分の道路を走ったという国道愛好家にその魅力を聞きました。(朝日新聞記者・井上裕一)

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【動画】国道425号を走る 出典: 朝日新聞:心折れそう?「酷道」を記者が走る 迫る崖、最難所は

「謎を解いていくのが面白かった」

 取材で訪ねたのは、茨城県在住の佐藤健太郎さん(47)。「ふしぎな国道」「国道者」といった国道のうんちくをまとめた著書があり、国道マニアの間では有名人です。

 ただし、本業はサイエンスライターとのことで、化学や医薬品関係の著書もあります。そんな根っからの理系の佐藤さんは、「数字」が気になって国道にはまっていったそうです。

国道の標識のもとで、国道についての著書を持つ佐藤健太郎さん=茨城県守谷市
国道の標識のもとで、国道についての著書を持つ佐藤健太郎さん=茨城県守谷市 出典: 朝日新聞

 「もともと、学生時代は有機合成化学を学び、卒業後は医薬品メーカーで研究の仕事をしていたのですが、番号が1から順についているのが好きなんですね。国道も、元素の周期表も、1から始まっているじゃないですか。国道は欠番があるのですが、なぜ欠けているのかなど、謎を解いていくのが面白かったんです」

(ちなみに欠番がある理由は、比較的新しい国道は原則3ケタの番号がつけられたり、路線の統合や変更があったりしたためです)

 「根本はコレクター意識があるんでしょうね。そんな人は多いと思いますよ」と話す佐藤さん。国道マニアはドライブ好きが前提で、そのうえで「全国の県境をみたい」「『道の駅』をコンプリートしたい」といったコレクター意識があるそうです。

日本最短の国道、174号=神戸市中央区、2016年撮影
日本最短の国道、174号=神戸市中央区、2016年撮影 出典: 朝日新聞

1日で500キロの時も

 佐藤さん自身は車の運転免許をとった25歳ぐらいから国道の魅力にとりつかれ、北海道から沖縄まで、休日のたびに国道のドライブに出かけていました。宿泊先は決めずにとにかく走り続け、ホテルがなければ車中泊も。ただし車内で寝ていたら怪しまれ、警察から職務質問を受けたことも何度かあるそうです。

 1日で500キロぐらい走ることもあり、これまでの走行距離はなんと32万キロ。地球1周は約4万キロですから、実に8回も地球を回った計算になります。

津軽海峡が一望できる階段国道=青森県外ケ浜町、2009年撮影
津軽海峡が一望できる階段国道=青森県外ケ浜町、2009年撮影 出典: 朝日新聞

 全国に459本ある国道のうち、数本を除いてすでに走ったそうです。自ら「よく走りましたねえ」と振り返る佐藤さんですが、なぜそこまでするのでしょうか。

 「やっぱり、謎とロマンを秘めているところですかね。国道って、どこまでいくか、普段はみんな気にしないじゃないですか」

 そんな佐藤さんが思い出深い国道の一つとしてあげるのは、「国道254号」です。

 「国道254号は東京のど真ん中から出発するのですが、埼玉や群馬を越えて、200キロ先の長野県松本市までいくんです。東京都内では立派だった道路が、センターラインのない細い道になっていく。実際に走ってみて、そんなことを知れるのが楽しいですね」

埼玉県の北西部に位置する寄居町の国道254号
埼玉県の北西部に位置する寄居町の国道254号 出典: 朝日新聞

「タイムトラベルのような感覚」

 一方で、最近はネット上などで「酷道」という言葉も目にします。

 主に山間地を走る細く険しい道がそう指摘されていますが、佐藤さんによると、「『国道なのにこんな悲惨な道がある』というのがネタとして面白いので、ネットで広がりました。ここ数年、テレビでも取りあげられるようになり、さらに注目されるようになったみたいです」とのこと。

和歌山・奈良県境の「牛廻越」にさしかかる道の脇に「転落死亡事故多発」と書かれた看板が置かれていた=昨年12月5日午後1時55分、和歌山県田辺市龍神村、加藤諒撮影
和歌山・奈良県境の「牛廻越」にさしかかる道の脇に「転落死亡事故多発」と書かれた看板が置かれていた=昨年12月5日午後1時55分、和歌山県田辺市龍神村、加藤諒撮影 出典: 朝日新聞

 佐藤さんにその魅力を聞いてみると、「タイムトラベルのような感覚を味わえることですね」との答えが返ってきました。

 「いまはどこも立派な道路ばかりなのに、『酷道』と呼ばれるような細い道を走っていくと、数十年前から変わらないような日本の原風景に出会えるんです。静岡の国道362号を走っていたら、突然、きれいな茶畑が広がっていて、こういうところのために、道はつながっているんだなあ、と。日本の仕組みを自分の目で見られたような気になります」

 「酷道」としてネタにされることも国道。整備された道ではなくとも、時を超え、郷愁を誘う日本の暮らしぶりと遭遇できることに、その魅力があるようです。

【井上裕一記者の「酷道」ルポ(朝日新聞デジタル)】
(前編)心折れそう?「酷道」を記者が走る 迫る崖、最難所は
(後編)さびた看板に国道誕生秘話 「酷道」で見た人々の暮らし
(特集)「酷道」をいく

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