連載
#7 辺境旅
「酷道」はロマンの宝庫 32万キロ走破したマニアが見つけた境地
国道なのに、道幅が狭くて舗装も粗く、まるで「酷道」――。そんな嫌みたっぷりな呼び方をされる道路が、実は全国各地にあります。ネット上では「壮絶すぎる」「最凶」といった、まさに酷いコメントが並んでいるのですが、「走ってみた」という投稿動画もたくさん出てきます。険しい道なのに、どこが人をひきつけるのでしょうか。地球8周分の道路を走ったという国道愛好家にその魅力を聞きました。(朝日新聞記者・井上裕一)
取材で訪ねたのは、茨城県在住の佐藤健太郎さん(47)。「ふしぎな国道」「国道者」といった国道のうんちくをまとめた著書があり、国道マニアの間では有名人です。
ただし、本業はサイエンスライターとのことで、化学や医薬品関係の著書もあります。そんな根っからの理系の佐藤さんは、「数字」が気になって国道にはまっていったそうです。
「もともと、学生時代は有機合成化学を学び、卒業後は医薬品メーカーで研究の仕事をしていたのですが、番号が1から順についているのが好きなんですね。国道も、元素の周期表も、1から始まっているじゃないですか。国道は欠番があるのですが、なぜ欠けているのかなど、謎を解いていくのが面白かったんです」
(ちなみに欠番がある理由は、比較的新しい国道は原則3ケタの番号がつけられたり、路線の統合や変更があったりしたためです)
「根本はコレクター意識があるんでしょうね。そんな人は多いと思いますよ」と話す佐藤さん。国道マニアはドライブ好きが前提で、そのうえで「全国の県境をみたい」「『道の駅』をコンプリートしたい」といったコレクター意識があるそうです。
佐藤さん自身は車の運転免許をとった25歳ぐらいから国道の魅力にとりつかれ、北海道から沖縄まで、休日のたびに国道のドライブに出かけていました。宿泊先は決めずにとにかく走り続け、ホテルがなければ車中泊も。ただし車内で寝ていたら怪しまれ、警察から職務質問を受けたことも何度かあるそうです。
1日で500キロぐらい走ることもあり、これまでの走行距離はなんと32万キロ。地球1周は約4万キロですから、実に8回も地球を回った計算になります。
全国に459本ある国道のうち、数本を除いてすでに走ったそうです。自ら「よく走りましたねえ」と振り返る佐藤さんですが、なぜそこまでするのでしょうか。
「やっぱり、謎とロマンを秘めているところですかね。国道って、どこまでいくか、普段はみんな気にしないじゃないですか」
そんな佐藤さんが思い出深い国道の一つとしてあげるのは、「国道254号」です。
「国道254号は東京のど真ん中から出発するのですが、埼玉や群馬を越えて、200キロ先の長野県松本市までいくんです。東京都内では立派だった道路が、センターラインのない細い道になっていく。実際に走ってみて、そんなことを知れるのが楽しいですね」
一方で、最近はネット上などで「酷道」という言葉も目にします。
主に山間地を走る細く険しい道がそう指摘されていますが、佐藤さんによると、「『国道なのにこんな悲惨な道がある』というのがネタとして面白いので、ネットで広がりました。ここ数年、テレビでも取りあげられるようになり、さらに注目されるようになったみたいです」とのこと。
佐藤さんにその魅力を聞いてみると、「タイムトラベルのような感覚を味わえることですね」との答えが返ってきました。
「いまはどこも立派な道路ばかりなのに、『酷道』と呼ばれるような細い道を走っていくと、数十年前から変わらないような日本の原風景に出会えるんです。静岡の国道362号を走っていたら、突然、きれいな茶畑が広がっていて、こういうところのために、道はつながっているんだなあ、と。日本の仕組みを自分の目で見られたような気になります」
「酷道」としてネタにされることも国道。整備された道ではなくとも、時を超え、郷愁を誘う日本の暮らしぶりと遭遇できることに、その魅力があるようです。
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