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フリーメイソン、日本のトップは元会社員 陰謀論は?聞いてみた
陰謀論など怪しい文脈で語られがちな秘密結社「フリーメイソン」ですが、現在の日本のトップが「正しい姿を伝えたい」と、インタビューに応じてくれました。都市伝説のあれやこれやを、聞いてみました。(朝日新聞東京本社記者・原田朱美)
竹田眞也さん。
第一印象は、長身で上品な紳士、という感じです。この方が、現在の日本のフリーメイソン支部(ロッジ)をまとめる「日本グランドロッジ」のグランドマスター(トップ)です。
「私はもともと、広告代理店の人間なんですよ」(竹田さん)
なんと、元サラリーマンでしたか。
東京・港区にある「東京メソニックビル」で、お目にかかりました。ここに「日本グランドロッジ」が入っています。
フリーメイソンには、さまざまな臆測や都市伝説があります。
どれから聞こうかと鼻息をあらくしていたら、竹田さんがおもむろに「記録」の話を始めました。
「メイスンには『セクレタリー』という記録係がいます。メイスンは記録主義で、すべてを必ず記録として残しています。ですので、逆に言うと、記録にないものは、歴史ではない。ペリーがメイスンだったというのは、ちゃんと記録があるんです。なので、会員であったのは、間違いない」
おっと。いきなりビッグネームが出ました。歴史の授業で習った「黒船来襲」のペリー提督は、フリーメイソンだったんですね。
(ちなみに、世間的には「フリーメイソン」とよく言われますが、会員は自分たちのことを「メイスン」と言うことが多いそうです)
近代フリーメイソンは300年前にイギリスで発足し、あっという間に世界に広がりました。日本には、江戸時代にフリーメイソン会員のオランダ人が長崎・出島に来たという記録が、オランダのフリーメイソンに残っているそうです。
以来、日本に来る外国人を中心に、日本でもフリーメイソンの活動が始まります。
「よく世間で『実はメイスンだった』と言われている坂本竜馬は、記録がありません。同じくスコットランド出身の商人トーマス・グラバーも、記録がない。なので、私どもとしましては、会員ではないと言うしかないというのが基本スタンスです。今後、記録が発見されれば別ですが」
またしてもビッグネーム。坂本竜馬は違うんですね。たとえば、いまの有名人や政治家で、フリーメイソンの会員という人はいるのでしょうか?
「私たち会員には、守るべき『エチケット』というものがあります。本人の自由意志に基づいて、『私はメイスンだ』と公にするのはOKですが、他の会員について、その人がオープンにしていないのに『あの人はメイスンだ』と言うのは、ルール違反なんです。なので、言いません」
なるほど。そういう決まりでしたか。
「よく、フランス革命はメイスンが起こしたとか、アメリカの独立戦争を起こしたとか言われます。たしかにそういう当事者の中にメイスン会員がたくさんいたことは事実です。ただ、メイスンとして国家を転覆させるなんて、とんでもない!」
「証拠に、メイスンの教えをご紹介しましょう。(1)家族を大切にしなさい。(2)市民としての義務を果たせ。隣人に親切に。困っている人を助けなさい」
たしかに、穏便な教えですね。
「まだあります。(3)自国の法律を守りなさい。メイスンは違法な行為を禁じているんです。ね、陰謀なんて、とんでもないでしょう?」
たしかに。
でも、世間には世界征服とか陰謀論がたくさん出回っていますが……。
「メイスンがつくった独裁国家なんて、ありません。メイスンは個人の自由意志を非常に大切にしますから、国が言うことに『右へならえ』という考え方とは、合わないんです。私たちが大事にするのは自由、平等、友愛。考え方が違うナチスはメイスンを嫌い、弾圧しました。ヨーロッパでは、それで活動が地下に潜ったという経緯があります」
きっぱり全否定です。
つまり、300年前の発足当時は民主的な考え方すぎて、王政、帝政、独裁から嫌われ、地下にもぐったのが、アングライメージのはじまり、ということのようです。
民主主義が当たり前の今、フリーメイソンは、ごく普通の道徳理念にもとづいた集団です。
なんだか、ボランティア団体のような、名士会のような。
むしろ、なぜ都市伝説がこんなに広まったのか、不思議です。
「それは、オカルト本のせいですよ」
即答です。これは相当、恨みがありそうです。
日本では、1970~80年代にオカルトブームが吹き荒れました。ノストラダムスの大予言、超能力、UFOといった怪しげな話が大人気だった時代です。フリーメイソンもそのラインナップに加わり、様々な陰謀論をまとめた本が出版されました。
「正しい姿が知られていないから、ひどいうわさが出回るんだろうと思います。私がこうして実名で、顔を出して話すのは、義務だと思っています。私の役割は、社会とのパイプ役だと。ただ、会員の中には、メディアには出たくないという人もいますから、そういう人は映さないようにしてもらいますが」
やっぱり「出たくない」という人は、いるんですね。
「まだ日本での理解度は低いですから。入っていることが知られると、『出世のさまたげになる』と気にしてしまう人はいます。そこは個人の自由なので、私のスタンスを押し付けることはしません」
正直、会員のみなさんは陰謀論をどう思っているのでしょう?
「『陰謀論ばかりがばらまかれ、正しい姿が知られていない』という状況は日本だけだとは、理解しています。アメリカにも都市伝説はありますが、そもそも会員数が多くて、親戚にひとりはいるくらいだったので、郵便局と同じくらいポピュラーな存在で、都市伝説も楽しく消費する程度です」
おどろおどろしいイメージが強いのは、日本だけなんですね。
入会希望者の中には、都市伝説を信じて来る人もいるのでしょうか。
「たしかにオカルト本が売れたころは、そういう層がたくさん来ました。あと、オウム真理教が話題になった時は、例のあの教祖の方がなぜか私たちを目の敵にしまして、『メイスンは邪悪な団体だ』と糾弾しました。そうしたら、『メイスンに入ったら超能力がつく』と信じて門をたたく人が増えました。『いやあ、違うんだって』と。あれは困りましたねえ」
「高度経済成長期にネズミ講がはやった時は、『メイスンに入るとそういうビジネスに使える人脈ができる』という人たちがきました。『精神的な団体だから、ビジネスではないですよ?』と説明しました(笑)」
「幸か不幸か、バブルが崩壊して景気が陰ったあとは、自分の内面を高めたいという人が増えました」
時代によって、志望理由が変わるんですね。面白いです。
ちなみに、入会希望者って年間どれくらいいるんですか?
「希望者全員が入会できるわけではありません。例えば『ユダヤのパワーが手に入るんでしょ?』という人がくると、『ごめん、そういうのは何もないんです。それが目的なら入らない方がいいよ』となります」
「ただ、最初は都市伝説がきっかけでもいいと思っています。正しい姿を知ってもらって、内面を高める修養が大事だと知ってくれたら」
「入会は、それぞれのロッジ(支部)のメンバーが認めるかどうかなので、ロッジにもよりますが。そうですねえ、ひとつのロッジで年間5人だと『おお!多いね!』、10人だと『素晴らしい!』という感じです」
ちなみに、都市伝説ネタで有名な芸人さんに、会ったことはありますか?
関暁夫さん。
「……。あの、その方は、ご自身がメイスンだと公にされてますか? 先ほど申しましたように、他の会員について、その人がオープンにしていないのに『あの人はメイスンだ』と言うのは、ルール違反なんです。なので、言えません」
いや、会員かどうかではなく、単に会ったことがあるかという質問なんですが……。
「ですので、言えません。その方が何か言っていたら、こたえます」
あれ……なんか……えええ……?
最後は微妙な謎を残しつつ、インタビューは終わりました。
「日本グランドロッジ」のグランドマスターの任期は1年。
今後も竹田さんのように、メディアに出るオープンなグランドマスターが続くのかは分かりませんが、フリーメイソンの誤解が解ける日はくるのでしょうか。
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