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フリーメイソン秘密の儀式部屋に潜入! 超重要な「二つの石」の意味
フリーメイソンといえば、都市伝説。都市伝説と言えば、フリーメイソン。そんな怪しい文脈で語られてばかりの秘密結社・フリーメイソンですが、「日本トップ機関の建物に入れてもらえる」と聞き、好奇心全開で行ってきました。秘密の儀式が行われる部屋にも入れてもらいました。取材に応じた「中の人」が教えてくれた「あのシンボルマーク」の意味とは?(朝日新聞東京本社社会部記者・原田朱美)
日本のフリーメイソンの本拠地は、東京タワーのふもとにあります。
ネット地図を見ると、建物がある場所に<フリーメーソン日本>と書いてあります。秘密結社感ゼロです。
この建物「東京メソニックビル」は、地上2階、地下2階のコンクリート製。
「日本グランドロッジ」がこの中に入っています。
近代フリーメイソンは、300年前にイギリスで発足しました。
世界各国に会員がいて、組織としてはそれぞれの国で独立しているそうです。各国の中心機関は「グランドロッジ」、そこに連なる支部は「ロッジ」と呼ばれています。つまり「日本グランドロッジ」は日本国内のロッジを束ねる最高機関です。
建物の入り口は、通りから少し奥に入った場所にあります。
「やっぱりちょっと隠れたいのかな」など、妄想が止まりません。監視カメラがあるかどうか、無意味に探しまくります。
インターホンを押すと、すぐに男性が出てきました。
「ああ、どうも」
広報担当の清田泰寛さん。めちゃめちゃ笑顔です。ジェントルメンです。ちなみに、元自衛官だそうです。
清田さんに続いて中に入ると、1階は学校の教室ほどの広さの玄関ホールでした。
入ってすぐ右に、大きなステンドグラスが2枚。謎のマークがちりばめられています。さっそく意味深度MAXです。
向かって左は、シンボルマーク「コンパスと直角定規」に加え、太陽と月、2本の柱、ピコピコハンマーのような赤い物体などがあります。
「フリーメイソンのシンボルを集めたものです」(清田さん)
もう1枚のステンドグラスは、家紋のようなものが11個並んでいます。フリーメイソンの親睦団体たちだそうです。どれひとつとして、私にはわかりません。
2枚のステンドグラスにはさまれた壁に、2人の人物が描かれたレリーフがありました。
若い女性と、羽がはえたおじいさん。
おじいさんは、女性の髪を一房、手にしています。
誰ですか、これ?
「うーん。これはちょっと言えないんですよね。私たちの儀式って、ある人の死を悼んでいまして……」(清田さん)
え、さっそく秘密ですか。
ほかの壁を見ると、1957年に「日本グランドロッジ」が発足して以降、過去にグランドマスター(トップ)を務めた人の名前がずらっと刻まれていました。
ちなみに、グランドマスターは1年で交代します。
清田さんに、おそるおそる「この歴代グランドマスター一覧って、写真を撮ってもいいですか?」と尋ねると、「あ、いいですよ。全然構いません」と、さらり。
ここは秘密じゃないんだ……。
新聞記者の性か、事件現場を記録するように、すべての名前をおさめるべく、隅々までバシャバシャ撮りまくります。
「HONOR ROLL」と書かれた壁もあります。
日本グランドロッジに大きな貢献があった人物を顕彰する場所のようです。
33人分の名前が彫られています。下の方に、よく知る名前を見つけました。
<ICHIRO HATOYAMA> =鳩山一郎 元首相
<NARUHIKO HIGASHIKUNI> =東久邇宮稔彦 皇族、元首相
第二次大戦直後の首相2人です。会員だったそうですよ。
政治家の名前を見ると、とたんに陰謀のにおいがしてしまいますよね。
「じゃあ、館内を案内しますね」(清田さん)
そうでした。ここはまだ玄関ホール。入り口に過ぎません。
案内されたのは、地下2階。エレベーターのドアが開いたすぐ先の壁に、一枚の絵がありました。
「あ、これ、有名なやつです」(清田さん)
工事現場のような場所で、人々が式典のようなものをしている絵です。
すみません、全然知りません……。
清田さんの解説によると、中央左に描かれている人物は、アメリカ合衆国初代大統領・ワシントン。
アメリカの国会議事堂の礎石(コーナーストーン)を置くセレモニーを描いているそうです。
ワシントンをはじめ、列席する面々は、フリーメイソンの衣装であるエプロンを身につけています。
「エプロンと装飾が、メイスンでの役職をあらわします。アメリカ建国の枢要なメンバーに、会員がいたということです」(清田さん)
おおお。
意味なく「さすが」と言いたくなります。
廊下に並んだ棚には、たくさんの記念品が収蔵されていました。
絵皿、メダル、グラス……。
海外の裁判官が使うような小槌(ギャベル)もあります。
コテのような道具もあります。なぜコテが?
「メイスンはもともと、石工の集まりから始まったと言われています。メイスンのシンボルは、建設道具が多いんですよ。このコテも職人の道具です」(清田さん)
へえ。元は職人さんなんですね。
棚に飾られた写真の中に、フリーメイソン会員だった歴代アメリカ大統領を並べたものがありました。
実は、先ほどのワシントンをはじめ、アメリカの歴代大統領の中には、フリーメイソン会員が10人以上います。アメリカでフリーメイソンは、「郵便局くらいメジャーな存在」なんだとか。
ん? メジャーな秘密結社……?
「じゃあ、次に行きましょうか」
清田さんが、記念品棚の向かいにある重厚な木の扉を開けました。
目に飛び込んできたのは、青。天井から床まで、青、青、青。
100人以上は入れそうな、立派なホールです。
床はモザイク模様のじゅうたん。
天井はドーム型で、星空が描かれています。
神秘的というか、荘厳というか。
このホールの名は「ブルーロッジホール」。ここが、秘密の儀式を行う部屋です。
「どうぞ、ご自由に見てください」(清田さん)
え? いいんですか? 記者を野に放っていいんですか? 遠慮無く隅々まで見ちゃいますよ?
入るにあたって注意事項とか、「○○をやったら追い出す」警告とか、あるのかと思っていましたが、初対面からここまで、なんの制約も受けていません。
キョロキョロしまくる私に、清田さんは変わらずにこやかに説明してくれました。
「この床のモザイク模様は、各国で共通なんですよ。天井は、特に決まりはありません」
ちなみに、儀式部屋を地下につくるのは決まりなんでしょうか。
地下でこっそりやる的な。
「いえ? そういうわけではないですよ?」(清田さん)
意味深な部分と、そうでない部分の差が、イマイチつかめません。
ブルーロッジホールの中は、壁際に客席のような椅子が並び、中央に広々とした空間が広がります。手前に祭壇のような四角い石の台がぽつんとあるだけ。
その石台の三つの角に、ろうそく立てが3本置かれていました。
なんで四角の台なのに3本? 四隅全部に置かないのはなぜ?
「まあ、我々にとって、3というのが意味のある数字なんですよ……」(清田さん)
少し、言いにくそうです。
正面奥、3段高くなった壇の中央に、ひときわ大きく威厳のある椅子が鎮座しています。
「ここがグランドマスターの席です」(清田さん)
つまり、日本のフリーメイソンのトップが座る席。
椅子の手前に、ふたつの石が置かれていました。
右はきれいな直方体。表面はツルツルです。
左は、同じ大きさだけど、表面がでこぼこな直方体。
「左は原石です。右は、それを加工してきれいにしたもの。フリーメイソンは、いろいろ言われていますが、一言で言うと『道徳の学校』なんです。原石は、あるがままの人間の象徴。加工した石は、道徳をおさめ、心を磨いた状態。フリーメイソンはこういうものですよ、というのを二つの石で表しています。石工が始まりだから、石で表現するんです」(清田さん)
おっと、いきなりフリーメイソンとはなにか、という答えが出てきました。
道徳、ですか。フリーメイソンに入って、道徳を学び、「良い人間」になると?
「はい。つまらないと言えば、つまらないでしょう?(笑)」(清田さん)
たしかに、陰謀論に心躍らせていた人は、がっかりするかもしれません。
シンボルマークも、石と同じように道徳修養をあらわしているそうです。
直角定規は、人間の行動をただすという意味。
コンパスは、感情を一定の範囲内でおさめましょうという意味。
ちなみに、フリーメイソン会員には、三つの階級があります。
徒弟、職人、親方。
ここも石工の名残です。
フリーメイソンで行われている「秘密の儀式」とは、この階級を授与するためのものだそうです。
そして、その儀式の内容が秘密なのだとか。
儀式の内容や形式は決まっていて、秘密の部屋で夜な夜ななにかをたくらんでいる、というわけではないようです。
なあんだ、という感じですね。
文字どおり「わくわく」「ドキドキ」して入ったフリーメイソンの本拠地。
行ってみてわかったのは、「本当に、ぜんぜん陰謀と関係ない」ということでした。
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