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フリーメイソンが「開かれた秘密結社」を目指す理由 公式サイトも!
陰謀論など怪しい文脈で語られがちな秘密結社「フリーメイソン」ですが、なんといま「開かれたフリーメイソン」を掲げています。開かれた秘密結社って何!? 日本のフリーメイソンのトップがその真意を語ってくれました。(朝日新聞東京本社社会部記者・原田朱美)
私はいままで、いろんな人や団体に取材をしてきましたが、秘密結社に取材依頼を出したのは初めてです。
てか、どこに出すの?と思っていたら、ある方が紹介してくれました。
依頼を出してから数日後。
フリーメイソンからの返事の文書に書かれていた一文に、目が留まりました。
「開かれたフリーメイソンを目指します観点から我々ができ得る限りの御協力をさせていただく所存です」
開かれた秘密結社????
なんだか「無線LANケーブル」みたいな違和感があります。
これはもう、直接聞くしかありません。
指定された日、ドキドキして都内にあるフリーメイソンの事務所に出向きますと、
上品な白髪の紳士が「やあ、やあ」とにこやかに出迎えてくれました。
竹田眞也さん。
この方が、いまの日本のフリーメイソンのトップです。
いま68歳とのことですが、知らずに会えば、どこかの企業の社長さんのようです。
フリーメイソンは世界各国に様々な「ロッジ」と呼ばれる支部があり、その国ごとの中心機関「グランドロッジ」がロッジを束ねています。
日本の場合は「日本グランドロッジ」。
そして、グランドロッジのトップが「グランドマスター」。
竹田さんは、日本グランドロッジのグランドマスターです。
さっそく聞いてみましょう。
あのう、「開かれた秘密結社」って違和感があるのですが……。
どういう狙いなんでしょう?
「フリーメイソンはいま、日本人の会員が200人もいません。やはり組織を維持するためには、会員が増えなければ」(竹田さん)
なんと、会員募集のためでしたか。
近代フリーメイソンは、300年前にイギリスで発足し、世界各国に会員がいます。
日本の会員数はいま、約1700人。ただ、ほとんどが米軍関係者といった外国人で、日本人の会員は1割ほど。危機感を覚えた竹田さんは、グランドマスター就任と同時にオープン路線を始めたそうです。
日本グランドロッジの公式サイト(あることにびっくり)は、トップ画面に竹田さんの写真がどん!と出ています。
スクロールすると、「メイソンになるにはどうすればいいですか?」という入会方法を教えるコーナーまであります。
そもそもフリーメイソンって何をしているのか、イマイチわかりません。
「秘密の儀式」って、おどろおどろしいイメージがあるのですが。
「儀式は、『こうやって人は徳を高めるんだよ』という道徳修養のルールを覚えてもらうものです。会員が劇の形で内容を演じ、新たな会員を育てます」
え、道徳、ですか。
しかも劇。
「劇の内容は、岩波文庫1冊分くらい。会員はそれを全部覚えなければなりません。けっこう大変ですよ。儀式をやり、他人に教えることで内容をもう一度覚え、理解します」
つまり、フリーメイソンとは、自分の徳を高めるために活動をしていると……。
「私が入会したのは30歳過ぎでしたが、尊敬に値する素晴らしい先輩たちが、たくさんおられ、いろいろと教わりました」
ええっと、それって儀式を秘密にする意味はあるんですか?
怪しい団体でなければ、別に秘密にしなければいいのでは?
「儀式が秘密なのは、簡単です。キャンディデートのためです」
竹田さんの会話には、ちょこちょこ英語が入ります。フリーメイソンがグローバル組織だからでしょうか。キャンディデートとは、志願者。秘密は新たに入会する人のため、というのが竹田さんの説明です。
「儀式を初めて見た人は、驚きと感動をもって儀式を体験します。この驚きと感動がないと深く心に刻まれませんし、メイスンの教えやエチケットを守ろういう気持ちにならないでしょう? 密教と似ていて、会員がこの段階になったらこの秘密を教えるといった感じで、少しずつ秘密を明かしていきます」
たしかにちょっと、宗教っぽいです……。
「でも、宗教ではありません。正直に申しますと、秘密の儀式といっても、英語ができる人にとっては、ネット上に儀式の中身が、ほぼ全部暴露されています。推理小説を読んだら、最初に赤鉛筆で『こいつが犯人だ』と書き込んであるようなものですよ」
なんとも残念といった表情で、竹田さんは眉をひそめます。
つまり、フリーメイソンとは、「組織の存在自体が秘密」という秘密結社ではなく、「秘密の儀式をやっている普通の結社」ということのようです。
ちなみに、退会したいなーと思ったら、抜けられるんですか?
「ちゃんと抜けられますよ(笑)。それぞれのロッジの責任者に届けを出して、条件が整えばOKです。条件って変なものじゃないですよ? 会費未納じゃないか、とかです。さすがに未納はまずいので。逆に、会費を滞納すると、会員資格が停止されます」
資格停止になると、なにか不都合なことがあるんですか?
「儀式に出られませんし、メイスンの葬式や結婚式もできません」
というか、冠婚葬祭まで手がけるんですね。
「メイスンの葬儀は、厳粛さの極みですよ。そうそう、パスポートもありますよ。各国のグランドロッジは、『この人は良きメイスンである』と証明書を発行します。その証明を持っていけば、外国のロッジ(支部)でも会員だと信用してもらえます」
ここ「日本グランドロッジ」には、そういうパスポート(会員証明)を持参した各国のメイスン会員がよく来るそうです。
竹田さんはグランドマスターとして記念撮影をお願いされる機会が多いので、スーツを着ていることが多いのだとか。
「仕事で日本に来たついでに寄ったとか、仕事をリタイアして各国のメイスンを巡る旅をエンジョイしているとかいう例が多いですね。『おれはこれだけの国を巡ったんだぜ』と写真を見せられますよ(笑)」
聞けば聞くほど、ほのぼのとした話です。
「ご理解いただいたように、怪しい団体ではないんです。私に生き方の指針を示してくれて、それを体現した素晴らしい先達がいた。なのに、日本でフリーメイソンは怪しげな団体だと思われています」
「ネットを見ても間違った情報ばかりで、正しい情報がない。私はメイスンになった36年前から『しかるべき立場になったら、正しい情報を発信するぞ』と期していました」
なんという長期計画でしょう。
公式サイトには、こんな一文も載っています。
“本ウェブサイトはモースト・ウォーシップフル・グランド・ロッジ・オブ・フリー・アンド・アクセプテッド・メイスン・ジャパンを代表する、唯一公認されたものである。その他の全てのウェブサイトは非公認なだけでなく、公にせず無視すべきである”
「本名長いな」という感想はさておき。
正しい情報はここに書いてあるよ、という切実さが伝わってきます。
帰り際、竹田さんが「お土産です」と封筒をくれました。
中身は、秘密の儀式を行うホールや、建物内の装飾を写した、美しいカード集。来訪者に渡しているそうです。
世界征服とか、様々な陰謀論がささやかれるフリーメイソンですが、大きすぎる幽霊の姿に悩む紳士の集まり、といった感じでした。
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