連載
#21 ことばマガジン
天使すぎる…青春すぎる… なぜ「すぎる」連発? 違和感の理由とは
わざわざ「すぎる」を付けるのはなぜ? 違和感があるのはなぜ?
【ことばをフカボリ:4】
「天使すぎるアイドル」「青春すぎる漫画」――。一風変わった「○○すぎる」をよく見かけます。ネットで2008年ごろに話題になり、全国区になった「美人すぎる市議」あたりからでしょうか。わざわざ「すぎる」を付けるのはなぜ? 違和感があるのはなぜ? 調べてみました。(朝日新聞校閲センター・松本理恵子/ことばマガジン)
「天使すぎる」と名詞につなげたり、「好きすぎる」とほめる際に用いたりする使い方には、違和感を持つという声も。「~すぎる」は、「遅すぎる」「目立ちすぎる」のように、本来は好ましくない場合に使うものだと思っている人が少なくないようです。
また、「美人すぎる市議」のように、容姿と関係がないのに職業名と結びつける使い方には、「この職業の人たちは美しくてはならないというような前提があると感じる」との意見もあります。
筆者の周りでは、「『おいしすぎる』と言われると、期待が高まる分、かえってがっかりすることが多い」との声も聞かれます。
「物事がある数量や程度を越える」という意味がある「すぎる」は、動詞の連用形や形容詞・形容動詞の語幹などに付けて使われます。
国語辞典の「日本国語大辞典」は、「それ以上になる。まさる」「適当な度合(どあい)を越える」と意味を説明しています。一方、「三省堂国語辞典」第7版は、俗用として「(ほめて)ひじょうに……だ」を載せています。
大阪大学の由本(ゆもと)陽子教授(理論言語学)によると、形容動詞にもなる名詞とつながるのは、「幸せすぎる」のように以前からあり、規則から外れたものではないそうです。
違和感を生むのは、「形容動詞になり得るような性質を表す名詞なのかの判断に、個人差があるからでしょう」。
「天使」などに「すぎる」が付く場合は、その名詞に何か特別な性質の要素を見いだしているといえます。由本教授は、「神戸らしさ」の程度を表す意味をこめて本の題名に「神戸なお店」と付けるような現象と同じだと説明します。
「すぎる」の用法が広がったというより、名詞の解釈が広がって「すぎる」と接続しやすくなったことを、様々な表現が出てきた理由の一つとみています。
最近では、タイトルにずばり掲げた「なるみ・岡村の過ぎるTV」というテレビ番組もあります。「想像を超えた」「世の中の常識を逸するモノや人」を紹介する朝日放送のバラエティー番組です。
新しい「すぎる」の使い方からは、「とても」や「非常に」で表しきれないくらいに感情が大きく動いたことを訴えたい思いも感じます。
インパクトのあるものが尊ばれる時代。自身が受けた衝撃をネット上などで強調して伝えようとする、イマドキ特有の表現とも言えそうです。
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