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CG女子高生「Saya」、満面の笑顔は苦手…そのワケは? 制作者に聞く
2015年に発表され、実写と見分けがつかないリアルさで話題を呼んだ、CG女子高生「Saya」。講談社主催のオーディション「ミスiD」で、セミファイナリストに入り、さらに注目を集めています。「TELYUKA」の名前で、夫婦で制作してきたCGアーティスト・石川友香さんに舞台裏を聞くと、どうしても表現できなかった「ある表情」があったことを教えてくれました。
オーディション「ミスiD」で、7月に発表された132組のセミファイナリストの中に「Saya」の名前がありました。CGで表現された「バーチャルアイドル」ながら、その新しさや存在感が評価され、4000組超のエントリーの中から選ばれました。
その後、8月末にYouTubeなどで発表されたのが、次の選考に向けた約1分間の自己PR動画でした。
Sayaの作品を、ツイッターなどで発表し始めて約2年。石川さんは「少しずつSayaを改善して、やっと広く見てもらえるかなと思える水準のものが出来た」と話します。
ミスiDへの出場を決めたのも「囲碁や将棋では、AIが積極的に人間に挑んでいる。Sayaも普通の女の子に混ざって挑むことで、技術を加速させたい」という思いからでした。
動画ではSayaが弾むように歩いたり、うなずいたり。頰をふくらませて、上目遣いの「ふくれっ面」も披露。Sayaの造形もさることながら、動作や表情も非常にリアルで、まさに実写のよう。YouTubeでの再生回数は、実に75万回を超えています。
ロボットやCGを、人間など実在するものに似せようとしたとき、ある段階で極端に不快に感じられる現象を「不気味の谷」と呼びます。
しかし、今回の動画のコメント欄には「2次元でも3次元でも不気味の谷でもない、2.9次元」「微妙な感情の動きが、表情から伝わる」と、違和感のなさに驚く声が並んでいます。
Sayaのリアルさは、どのように磨かれたのでしょうか。石川さんは「大きな助けがあった」と語ります。
もともとSayaのCGは、静止画であっても顔や体の筋肉の付き方までシミュレーションして、リアルな見た目を実現していました。
ただ、これを動画で人間らしく動かすとなると話は別。専門的な技術が必要になります。それを支えているのが、Sayaが広く知られる中で石川夫妻と出会い、約1年前から技術協力している東映の「ツークン研究所」です。
ツークン研究所は東映の東京撮影所(練馬区)にあり、実際の人間を撮影して、体の動きから表情までをデジタルデータ化できる「パフォーマンスキャプチャー」技術に力を入れています。
撮影された映像に映る女性の演技から、様々な表情変化をデータベース化。Sayaと結びつけることで、人間の自然な動きの再現を目指しました。
ただ、顔の動き一つをとっても、笑えば頬や目元まで動くように、顔は複雑に影響しあっています。データをそのまま当てはめても、完全にはSayaを表現し切れません。
石川さんは「最後は私たちがほぼ1年をかけ、手作業で繰り返し動きを調整しました」と振り返ります。
しかし、それでも今回の動画に、完全には納得していないと言います。
「まだまだ動きや、造形も修正しなければいけません。それに一番の目標である、Sayaの『満面の笑顔』が表現できていないんです」
たしかに今回の動画でSayaは、はにかんだ表情は見せていますが、満面の笑顔はありません。
「目標は、胸がキュンとするような表情です。また笑顔は、顔全体の筋肉が複雑に連動する最高難度の表情です。唇の隙間から見える歯の質感も、課題です。今それらの表現を繰り返し研究中です」
また、もう一つの難関が「髪の毛」でした。
「女の子のCGは、髪の毛の動きが『最大の演出』だと分かってきました。不自然だと一気にウソっぽくなる」と石川さん。
Sayaの髪の毛は、人間と同じ約10万本。その1本1本の動きをシミュレーションして、歩いたり、うなずいたりしたときの微妙な揺れを再現しています。
それでも「質感も動きも突き詰めれば際限がない。人体は本当に奥が深い」と言います。
2年間のあいだに、Sayaの顔も微調整してきました。「最初ツイッターに投稿したときのりりしい雰囲気が、昨年の作品では薄らいでいた。それを今回は復活させました」
実写映像に肉薄したかに見えるSayaですが、石川さんは以前から「リアルさを追及することに葛藤もある」と話していました。その思いは動画が完成した今も変わりません。
それは「人間に近しい表現である以上、実在の女の子と並んだら、かなわない部分はどうしても出てくる」ということ。それではSayaが存在する意義、アイデンティティーはどこにあるのだろう・・・そんな思いをずっと抱いているといいます。
ただ、動画を作り込むほど、Sayaが実在のアイドルにも出せない「ピュアな空気感」を発してくることに気づいたと言います。
「それは肉体を持たないからこその魅力かもしれない。実物のような『フォトリアル』の、さらに向こう側を目指せるんじゃないか」。そんな手応えも得ながら、今回の動画ではSayaの服の色が次々変化するなど、デジタルならではの表現も盛り込みました。
今後、Sayaはどのように展開していくのでしょうか。現在、技術力を持つ企業などと、幾つかのプロジェクトが進行しているといいます。
詳細はまだ公表できないと言いますが、石川さんは「CGとは別のテクノロジーと、Sayaを結びつける段階に来たと思います。いま強く感じているのが『Sayaと対話して、コミュニケーションをとりたい』というニーズです。それを実現できるように、Sayaを育てていきたいですね」と話します。
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