夏になると思い出すTシャツがあります。渦のような大きなロゴマークが背中にプリントされた「PIKO」のTシャツです。15年ほど前、私が小中学生の頃、多くの友だちが着ていました。海のない県でしたが、サーフ系のファッションに憧れたのを覚えています。そう言えば、最近見ないなあ。話を聞きに行ってみると、過去のイメージから脱却するための試みがありました。
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小学生の頃、鮮やかな色の「PIKO」のTシャツを着ていた友だちはクラスの中心的存在。中学生の頃は、夏のカッターシャツの下にPIKOのTシャツが透けている男の子の背中がまぶしかったです。
かくいう私もよく着ていた1人です。なんだかとてもカッコよく感じ、サーフィンが何かもわからなかったのですが、平ぺったく言うと「イケてる」感じがしました。
そう思って周りを見渡すと、「PIKO」のTシャツを着ている子どもが見当たりません。気になったので、調べてみることにしました。
思い出をたどると、イケてる友だちがいたのは「イオンのゲーセン」。そんな謎の確信があったため、東京近郊のイオンのゲームセンターに行くことに。
親子連れや、小中学生が集まるゲームセンターにたたずむ27歳。クレーンゲームにお金を吸い込まれながら、1時間ほど観察しました。
小学生の男子と思われる子どもを中心に、チェックしたのは総勢37人。「PIKO」を着た少年はいませんでした。ブランドがわからないTシャツも多かったのですが、目立つのはPUMAやNIKEなど、スポーツブランドでした。
あの頃のTシャツは今、どうなっているんだろう。どうしても知りたくなって、「PIKO」を企画・販売している株式会社クリムゾン(東京都墨田区)に行ってみました。
クリムゾンは、ライセンス契約によって、1996年から20年以上「PIKO」を販売しています。2000年代には、同じくサーフブランドとして大きな支持を得た「T & C Surf Designs」の販売を開始し、当時の二大サーフブランドを手がけていました。(「T & C Surf Designs」の契約は現在終了しています)
アパレル部・副部長の金井伊孝さんによると、「PIKO」は1994年、サーフブランドとしてハワイで生まれました。
「PIKO」とはハワイ語で「へそ」。ロゴマークの渦も、へそを表現しています。創業者はハワイに住む日系アメリカ人のケビン・カマクラ氏とウェイド・モリサト氏でした。
現在は、ハワイにいる2人とコミュニケーションをとりながら、日本主体で企画・販売されているそうです。
PIKOのロゴは「へそ」を表現している 出典:「PIKO」WEBサイト
金井さんによると、PIKOが最も売れていたのは2000年初頭、15年近く前だったといいます。まさしく私が「PIKO」に心奪われたあの時代です。
日本では、ちょうどその頃サーファーファッションの流行が到来していました。大きくロゴの入ったTシャツが20代女性を中心に受け入れられ、PIKOのブームに火がつきました。販売のピークの時期には、追加生産が追いつかないほどだったといいます。
金井さんは「子どもをターゲットにしていた訳ではない」と話します。メンズでもよく売れるようになると、親が子どもにも着せたいと思うようになり、流行がキッズにも波及しました。私が子どもの頃見ていたTシャツは、親世代からの延長線上にあったのですね。
またTシャツなどの洋服だけではなく、靴やバッグなどさまざまなアイテムで展開をしてきました。スクールバッグやスクール水着など子どもに特化した商品も多いといいます。ある時期は、制服を手がけていたこともあるのだとか。
PIKOのスクールバック 出典: 株式会社クリムゾン提供
金井さんによると、2000年代後半に雑誌でアンケートをとったときに、小学生~高校生の女子のPIKOの認知度は90%近かったといいます。「ここまで長い間、男女問わず、子どもにも大人にも幅広い世代で認知されている、というブランドは珍しいのでは」と話します。
認知がここまで広がった背景には、さまざまなプロモーションを打ち出してきた戦略があります。キャンペーンに応募するとノベルティがもらえる企画を、テレビCMなどで宣伝してきました。これは私の記憶なのですが、「PIKO」のロゴがプリントされたビニール製のサマーバッグを持っていることは、学校生活の中でのアドバンテージでした。
金井さんは「売れ方に変化があったのは、10年ほど前」と話します。
「PIKOを売ってもらうお店が明らかに減ってきました。モール型のショッピングセンターや複合施設が増えた一方、『ロードサイド』と呼ばれる国道や大きな道路沿いにあった小売店が減っていきました」
「またGAPなどの外資系のアパレルブランドも台頭してきました。ファストファッションやプライべートブランドなど比較的安価な洋服がよく売れるようになったこともひとつの要因です」
ハワイで生まれた「PIKO」 出典:「PIKO」WEBサイト
子ども服売り場も減ったことから、2010年頃からはキッズ向けのアイテム数を減らし、メンズとレディースの洋服に力を入れて販売しているといいます。このような背景から、「PIKOのTシャツの子ども」は減っていったのですね。
新しいデザインを取り入れようと、柄などを大きく変えた時代もあったといいます。
ロゴの「へそ」のマークを強調しなかったり、グラフィックのハード感をなくしたりしたのですが、受け入れられなかったそうです。
ブランド立ち上げから20周年を超えたPIKO。
流行ったときは「みんなが着てるブランド」が支持された時代でもあったのですが、一方で「みんなが着ていたから嫌だ」というネガティブな面もあるといいます。
今後10年、20年同じようにPIKOを着続けてもらうために、「PIKO=ハワイ」というブランドイメージに立ち返ったといいます。
「PIKOはハワイで生まれ、デザインなどにもハワイの島にインスピレーションを受けている部分があります。そういったハワイの自然や文化を感じ取れるブランドとして、新しい挑戦をしてみようと思いました」
2015年には20周年の感謝を込めて、ハワイ旅行などが当たるキャンペーンを実施。ハワイのイメージを更に定着させたいとの願いがありました。
そして2017年夏、「アロハを着てハワイを探検しよう」というテーマで、「ALOHA from PIKO」というアロハシャツを中心とした商品の展開を始めました。いつもとは違うワンランク上の「PIKO」として、国内でもハワイにいる気分を味わえるようなデザインになっています。
「ALOHA from PIKO」のシリーズ 出典: 株式会社クリムゾン提供
かわいいレディースのTシャツ、PIKOのマークは…
また「ALOHA from PIKO」はブランドの世界観をお客さんに直接伝えられることにも注力しました。
この夏は期間限定で、高島屋新宿店やハワイに関するイベントなどでポップアップショップを出店し販売を行ったそうです(現在は
オンラインショップでのみ販売)。
ポップアップショップの様子 出典: 株式会社クリムゾン提供
店頭では「PIKOってこんな感じだったんだ」と言って手にしたり、「今度ハワイに行くから着ていきたい」と購入したりするお客さんもいて、手応えを感じているといいます。
ただ「基本的にこれまでのPIKOのデザインは定番として、変えるつもりはありません」と話す金井さん。
「既存のシリーズがあってこそです。我々はゴリゴリのサーフブランドではなく、ファミリー向けの”カジュアル”サーフブランドです。その上で新しいことにチャレンジしていって、『PIKO=ハワイ』というイメージを広げていきたいです。そして逆に『ハワイと言えば、PIKO』と言ってもらえるようになれば」と語っています。
「ALOHA from PIKO」のシリーズ 出典:Crymson Onlineショップ
15年前、私が見ていた「PIKOのTシャツの子ども」は大人の流行を取り入れたものでした。競争の激しいアパレル業界の中で、20年以上生き残ってきたPIKO。この先20年で、子どもたちに広がっていくのはどんなファッションなのでしょうか。