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連載

#17 ことばマガジン

インディ500で日本人V、物議呼んだツイートの背景 逆に大相撲でも…

佐藤琢磨選手をめぐる残念なつぶやきの背景には何があったのか?

インディ500で優勝したお祝いに、ホンダNSXが贈られることが発表され、笑顔を見せる佐藤琢磨
インディ500で優勝したお祝いに、ホンダNSXが贈られることが発表され、笑顔を見せる佐藤琢磨 出典: 朝日新聞

目次

 自動車レースのインディアナポリス500マイル(インディ500)で、元F1ドライバーの佐藤琢磨選手が日本人初の優勝を飾りました。ところが、うれしいニュースの裏で、アメリカ人記者が佐藤選手についてツイッターで差別的な投稿をして失職する騒動がありました。残念なつぶやきの背景には何があったのか、探りました。(朝日新聞校閲センター・金子聡/ことばマガジン)

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インディ500で日本人初優勝を果たした佐藤琢磨選手
インディ500で日本人初優勝を果たした佐藤琢磨選手 出典: 朝日新聞

アメリカ人記者を解雇


 自動車の「世界3大レース」の一つとされるインディ500。アメリカのインディアナ州で5月末にあった決勝で、佐藤選手が8度目の出場で初優勝しました。

 それを受けてツイートしたのは、デンバー・ポスト紙のスポーツ担当記者だったテリー・フライ氏。

 「個人的に特に何かあるわけではないが、メモリアルデーの週末に日本人ドライバーがインディ500で勝つのは不愉快だ」

 批判を受けてすぐ謝罪しましたが、デンバー・ポスト紙は「無礼で許しがたい」とコメントして、フライ氏を解雇しました。

 様々な国からの移民によってできたアメリカは、先住民への迫害や黒人差別の歴史を持ちます。だからこそ、人種・民族差別的な発言には厳しいということが分かります。

 ちなみに、多くのアメリカ人は意識していないかもしれませんが、インディ500が開かれるサーキットのあるインディアナ州は「インディアンの土地」が名前の由来です。

 また、スタート前の号令は、以前は「Gentlemen, start your engines!」でしたが、女性ドライバーの参加で近年は「Drivers, start your engines!」と性別にとらわれない表現に変わっています。

 このレースは101回の歴史がありますが、最近はアメリカ人以外の優勝も珍しくありません。

 現役最多3度の優勝を誇り、今年も佐藤選手と最後まで争って2位となったエリオ・カストロネベス選手はブラジル人です。

優勝者に贈られる「チャンピオンリング」を見せる佐藤琢磨選手
優勝者に贈られる「チャンピオンリング」を見せる佐藤琢磨選手 出典: 朝日新聞

個人の感情とは別


 1911年に始まったインディ500は伝統的に、アメリカの祝日であるメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日、5月最終週の月曜)前日の日曜に開かれます。

 このためレース前のイベントは軍に関係するものが多く、今年は第101空挺(くうてい)師団の兵士によるデモンストレーション、退役軍人の招待、弔銃の発射などのほか、国歌独唱に合わせて戦略爆撃機B-52が上空を通過する演出もありました。

 フライ氏はその後、ツイッターに改めて謝罪コメントを掲載しました。

 第2次世界大戦で偵察飛行隊のパイロットだった父の墓参りをしたこと、戦死したアスリートについて多くの記事を書いてきたこと、父の学生時代のチームメートが沖縄戦で戦死し、その研究をしたことや遺品を持っていることなどについて述べています。

 こうした経験が、戦死した将兵を追悼する空気の中で軽率なツイートにつながってしまったのかもしれません。

 とはいえ、第2次大戦で日本と戦ったアメリカでは日系人が収容所に送られた一方、国への忠誠を示すため「第442連隊」の兵士としてヨーロッパの最前線で戦った日系人たちもいました。

 戦後70年以上が経って、日本では今なお米軍基地の問題を抱えてはいますが、基本的に両国は良好な関係を築いてきています。

 個人の感情とは別に、ジャーナリストとしてフライ氏にそうした視野がなかったのは残念です。佐藤選手は「彼に個人的な(差別の)気持ちはなかったと思うが、それによって解雇されてしまったのは残念」とコメントしました。

初優勝し、支度部屋で賜杯を手に笑顔の琴奨菊関
初優勝し、支度部屋で賜杯を手に笑顔の琴奨菊関 出典: 朝日新聞

日本の大相撲では


 一方、日本でも、大相撲で昨年、琴奨菊関が優勝した際に「日本出身」であることを強調する報道がありました。

 「おかしい」という意見も新聞の読者投稿欄に載ったりしましたが、その後、日本出身力士で19年ぶりに横綱に昇進した稀勢の里関の活躍もひときわ大きく報じられています。

 しかし、近年の大相撲は外国出身の横綱たちが支えてきた側面があります。外国出身力士を「敵役」扱いするのは、今回のアメリカでの一件と通じてしまいます。

 3月の春場所では、モンゴル出身の大関・照ノ富士関が立ち合いで変化し、「モンゴルに帰れ」とヤジを飛ばした観客がいました。さらにそれを見出しで取り上げたスポーツ新聞があり、「ヘイトスピーチそのもの」と抗議を受けておわびを出すことになりました。

 インディ500での騒動と合わせて、報道に携わる上で教訓にすべき出来事でした。

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