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「ISと最も真剣に戦った」という国が語る中東 断交・米への不信

テロ犠牲者の棺を運ぶトラックのまわりで、「ISくそったれ」「サウジと米国に死を」と叫びながら行進するテヘランの市民=6月9日、杉崎慎弥撮影
テロ犠牲者の棺を運ぶトラックのまわりで、「ISくそったれ」「サウジと米国に死を」と叫びながら行進するテヘランの市民=6月9日、杉崎慎弥撮影 出典: 朝日新聞

目次

 イスラム教シーア派の地域大国イラン。「中東の覇権」をめぐってサウジアラビアと対立し、独特の存在感を示しています。一方で、親日国としても知られています。過激派組織「イスラム国」(IS)をめぐって中東が揺れ続ける中、イランは国際社会とどう向き合い、日本とどんな関係を結びたいと考えているのでしょうか。6月末、ナザルアハリ駐日大使に単独インタビューしました。(朝日新聞政治部記者、下司佳代子)

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インタビューに答えるイランのナザルアハリ駐日大使=6月、東京都港区のイラン大使館、笹川翔平撮影
インタビューに答えるイランのナザルアハリ駐日大使=6月、東京都港区のイラン大使館、笹川翔平撮影 出典: 朝日新聞

イラン大使「最も真剣にISと戦ってきた」

 6月7日、イランの首都テヘランで国会などを狙ったテロが起きました。18人が亡くなったこのテロで、ISが犯行声明を出しました。大使はISをどう見ているのでしょうか。

 「イランは長年、中東地域における過激主義やテロ組織の拡張に警告してきました。2013年にはロハニ大統領が全ての国に暴力、過激主義の撲滅、掃討作戦を呼びかけました。現在、一番問題となっているのはISであり、彼らが一番危険だと言われています」

 「イランは地域でも世界でも、最も真剣にこのテロ組織と戦ってきた国です。イランはISに対する壊滅作戦で決定的な打撃を与えました。だからこそISはイラン国内で治安を乱し、罪のない人々を殺害し、影響力を誇示しようと考えたのだと思います」

 大使はISに対するイラン政府の強い姿勢を強調する一方、米国に言及し、チクリと皮肉りました。

 「米国などは、ある時はISと戦い、ある時は支援することがある。自らの目的達成のために利用することがあるのです。しかし我が国は一貫して、ISは掃討すべきである、戦うべきであると考えてきました。暴力と戦い、多くの犠牲者、殉職者も出してきたのです」

今年6月、イランの首都テヘランでテロが起きた。ホメイニ廟の西側の建物前で、テロ実行犯の銃撃で負傷した人の血だまりを水で流す人たち
今年6月、イランの首都テヘランでテロが起きた。ホメイニ廟の西側の建物前で、テロ実行犯の銃撃で負傷した人の血だまりを水で流す人たち 出典: 朝日新聞

カタール断交、「サウジは対話で解決を」

 そんなイランは、サウジとの間でシリア内戦やイエメン内戦などをめぐる対立が深刻化。昨年1月には断交しました。さらに、今年6月に入り、サウジやエジプトなどの周辺国が、イランと関係の近いカタールと断交。地域の緊張が高まっています。大使はこの問題をどのようにとらえているのでしょうか。

 「大事なのは緊張関係をどう乗り越えるか。その解決に向けて取り組むべきだと考えます。カタールとサウジの間に政治的な対立はあるかもしれませんが、当事国が協議のテーブルにつくことによって解決すべきです。制裁を加えるとか、暴力に訴えるというやり方ではなく、対話によって解決すべきだと考えます。断交の理由については、サウジが述べていることのほとんどをカタールは否定していますが、イランは関与しません」

 サウジの対応に注文を付けた大使。あわせて、イラン、サウジ両国と良好な関係を築いている日本に対して、期待感も示しました。

 「6月27日、安倍晋三首相がサウジのムハンマド・サルマン皇太子と電話協議をしたと聞いています。そうしたハイレベル協議により、日本側が対話による解決を促していくことが大事です」

3月に会談したサルマン・サウジアラビア国王(左)と安倍晋三首相
3月に会談したサルマン・サウジアラビア国王(左)と安倍晋三首相 出典: 朝日新聞

日本の企業進出に期待

 イランでは5月に大統領選があり、ロハニ氏が再選されました。ロハニ政権のもとでイランは15年7月、米国などと核問題に関する合意を交わし、核開発を事実上凍結する道を選びました。欧米諸国はイランへの経済制裁を解除しました。「核より経済」という政策を主導したロハニ氏にとって、経済政策は今後の政権運営の最大の焦点と言えます。大使はこう指摘します。

 「イランでは失業率の高さが問題になっており、雇用創出が欠かせません。そのためには、外資導入のための適切な環境も必要ですし、適切な人材登用や、人材活用のための環境整備も必要です」

 大使はとりわけ日本への期待感を示しました。日本は官民が連携してイラン西部のアザデガン石油開発に関与するなど、歴史的に投資に積極的です。

1977年、三井グループのイラン・石油化学工場建設予定地。三井物産など三井グループがイラン・パンダルシャプール地区に石油化学工場を建設する計画が進んでいた
1977年、三井グループのイラン・石油化学工場建設予定地。三井物産など三井グループがイラン・パンダルシャプール地区に石油化学工場を建設する計画が進んでいた 出典: 朝日新聞

 「核合意が成立してから2年間、プジョーやボーイング、エアバス社など多くの外国企業がイランの市場に再進出しました。日本とは特別な友好関係があり、欧州や近隣のアジア諸国に負けないくらい本格的なイラン市場への再進出を願っています」
 
 「特に期待するのは、エネルギー分野です。イランは世界有数の資源国で、液化天然ガス(LNG)プロジェクトにおいても日本企業の貢献が期待されます。製油所の近代化や修復は、日本企業が積極的に手がけています。こうした活動が続くことを願っています」

 大使はさらに、発電所などのインフラ関連分野、自動車メーカーなどの製造業分野、医療機器分野などにも、日本企業の投資・進出のチャンスがあると指摘します。

イラン西部にある同国最大級のアザデガン油田(2001年当時)。油田開発に乗り出そうとする日本政府の戦略は、時の世界情勢によって紆余曲折があった
イラン西部にある同国最大級のアザデガン油田(2001年当時)。油田開発に乗り出そうとする日本政府の戦略は、時の世界情勢によって紆余曲折があった 出典: 朝日新聞

 「火力、水力発電所は、経済制裁の影響で遅れていた改修や近代化が、日本の最先端の技術により進むことが期待されます。水資源の適切な管理も重要な協力分野です。降水量の低下による水不足の問題をイランも抱えています。適切な排水や分配、あるいは漏水の防止などでも日本の高い技術は大きくイランに寄与するでしょう」

 「自動車産業では今後、日本企業とイラン企業が合弁メーカーを作り、生産ラインを設け、イランの8千万人、さらに近隣諸国を含めた3億人の市場に出していきたい。医療機器については輸入に加え、技術移転によるイラン国内での合同製造も考えています」

テヘラン近郊の自動車関連の工場が集まる地区。産業道路の通行量はまばらだった=2012年
テヘラン近郊の自動車関連の工場が集まる地区。産業道路の通行量はまばらだった=2012年 出典: 朝日新聞

トランプ政権には不信感も

 核合意を土台にして、イラン経済は順調に進もうとしているかにみえます。しかし、米国はトランプ新政権がオバマ前政権が結んだ核合意を批判し、見直しを示唆。雲行きが怪しくなっています。イランはそんな状況をどう見ているのでしょうか。

 「核合意は多国間の国際的な合意です。合意では双方が合意を履行すべきだとうたわれています。国際原子力機関(IAEA)なども、これまでイランが着実に核合意を履行していると正式に発表しています。イランの相手国である6カ国が着実に履行する限り、イランも着実に履行することは間違いありません」

 「トランプ米大統領は核合意は破棄すべきだ、見直すべきだと言っていますが、そういった方向には進まないことを願っています。ほかの5カ国はトランプ氏の姿勢に反対の立場をとっており、欧州諸国はあくまで核合意の維持、履行を求めています」

 そんなトランプ政権は、イランと対立するサウジとの結びつきを強めています。5月にはトランプ氏がサウジを訪問し、12兆円規模の武器売却契約を結びました。大使はこうした動きに苦言を呈しました。

 「米国の財政の無駄遣い以外の何物ももたらさないと考えます。中東地域では暴力的過激主義組織、テロ組織がのさばり、勢力を伸長している状況が続いています。武器をばらまくことは、テロ組織の撲滅につながらず、逆にそういったテロ組織が勢力を伸ばすことにつながりかねないと危惧しています」

5月、サウジアラビアの首都リヤドの宮殿で開かれた歓迎式典で、剣を使ったダンスでサルマン国王(左から2番目)らの歓待を受けるトランプ米大統領(右端)=ロイター
5月、サウジアラビアの首都リヤドの宮殿で開かれた歓迎式典で、剣を使ったダンスでサルマン国王(左から2番目)らの歓待を受けるトランプ米大統領(右端)=ロイター

北朝鮮にも「核開発するべきでない」が原則

 核兵器の開発を疑われてきたイランは、核やミサイル技術をめぐって北朝鮮と協力関係にあると、米国などが指摘してきました。核合意に踏み切ったイランと対照的に、北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、国際社会と対立を深めています。大使はこうした状況をどう見ているのでしょうか。

 「第一の原則として、いかなる国であれ、核兵器の製造、開発、使用は行うべきではないと考えます。イランの基本方針として、北朝鮮も含めたいかなる国であれ、核兵器は開発するべきでないと主張してきました。核兵器を持ったとしても、製造したとしても、それはまったく役に立たないと主張してきました」

 「また、第二の原則として、域内の緊張関係の解決は、あくまでも当事国の間での平和裏の対話によるべきです。あらゆる当事国の、様々な立場、見解を踏まえたうえで、対話するべきだと考えています。イランと北朝鮮の二国間関係は確かに古いですが、あくまでもこの二つの原則に基づく関係であります」

     ◇
 1962年、テヘラン生まれ。ケント大学(英国)政治思想学部で博士号取得。駐フィンランド大使、イラン外務省外交文書・研究センター局長などを経て、2012年9月から現職。

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