東京・秋葉原のコミック専門店でPOPを書き続けている「職人」がいます。コミックやラノベを中心に、書いたPOPは1万枚以上。漫画家から「天才」との評判も上がっています。プロのPOPライターは、何でもPOPにできるのでしょうか。そんな疑問をもとにむちゃぶりしてみました。

累計1万枚以上
うわさの「職人」は、この人。コミック専門店で2013年からPOPライターとして働くはりまりょうさん(36)です。
2006年から店員として本棚の整理やレジ業務、POP制作をしていましたが、個性的なPOPが上司の目にとまり、専門職になったそうです。
書いたPOPは累計1万枚以上。
これまでも仕事以外の企画で数々のむちゃぶりを受け、広辞苑や週刊誌、ヌード写真集などのPOPを作ってきたそうです。
今回は、この春話題の2つのニュースをPOPにしてもらいました。

「森友学園問題」をPOP化?
まずは、森友学園問題です。
国有地売却問題から始まり、安倍晋三首相・昭恵夫人からの寄付疑惑や幼稚園児の「教育勅語」暗唱、籠池泰典・前理事長の国会での証人喚問など、大きな話題になりました。
今でも関連ニュースが後を絶ちません。
籠池前理事長、家族、政治家、役人、ジャーナリスト…関係者が多くて頭がこんがらがります。
はりまさんはそこに目を付けました。

「籠め!籠め!」の反響!!!
“うしろの正面だぁれ”な森友学園問題の行方!!
はりまさん
籠池、籠池… あ、「かごめかごめ」でいけるんじゃないか?と。
「かごめかごめ」をベースに、真ん中に籠池氏がいると仮定しました。
どんどん関係者が広がり、つながっていく。
関係者が「かごめかごめ」をやっているイメージです。
籠池さんに対して周りの恨みもあるだろうから、「あいつめ」みたいな感じで「籠め!」としました。
「うしろの正面だぁれ」というのは、「黒幕は誰だ?」という感じですね。
誰が本当のことを言っているのかわからないので。
制作には約4時間かかったそうです。
普段からネットやテレビでニュースをチェックするというはりまさん。
文言は日常生活の中で常に考えていたと言います。
はりまさん
つかみとオチはつけて書いています。
どうやってうまくオチをつけるかが大変でしたね。
ニュースに全く興味のない人が、パッと見で「何これ、おもしろそう」と食いついてくれるものを考えました。
「かごめかごめ」は子どもの頃から親しんでいるし、知らない人はほぼいないと思うんです。
「ドウヨウ」という言葉も掛けています。「動揺」と「童謡」。反響という言葉も、童謡が響く、批判が響く。
いろいろ意味を込めました。
大相撲春場所で稀勢の里優勝
2つ目はスポーツニュースです。
夏場所の前売り券が、インターネットなどの販売で約1時間半で完売してしまうほど大人気の大相撲。
稀勢の里の優勝で締めくくった春場所(3月場所)をPOPにしてもらいました。

横綱稀勢の里 キセキの挑戦!
モー烈昇龍な平成二十九年三月場所に胸アツ!
はりまさん
稀勢の里は遅咲きで、初優勝までに四苦八苦。
初土俵から初優勝まで89場所あったらしいんです。
「八苦」と「89」を掛けました。
ケガからのドラマという感じで書きましたけど、POPなので最後どうなったかというオチはつけず、あおりだけで終わっています。
河原(筆者)
書くのにどのくらいかかりましたか?
はりまさん
河原
練りに練っていますね。
最後の一行、「モー烈昇龍」とは?
はりまさん
「昇龍(竜)」は勢いがあるという意味。
強引ですが、「モー烈」の「モー」が「牛」、「昇龍」が「龍」で、稀勢の里の育った場所の牛久市と龍ケ崎市を表しています。
河原
はりまさん
横綱が4人になったのは21世紀で初。日本人横綱は19年ぶり。
稀勢の里が春場所で優勝するのは横綱として初めてだし、大関から考えて二場所連続優勝もかかっていた。
ごちゃごちゃ書けないので、最終的には優勝を推すしかないかなと思いました。
一番の重点は、日本人横綱がどうだったのかというところですね。
河原
はりまさん
河原
「日本出身」なんです。
はりまさん
河原
過去に帰化している力士で横綱がいるんです。
だから、19年ぶりとするなら「日本出身横綱」が正しいんです。
はりまさん








……約20分後。
はりまさん
今度こそ問題ないですよね!笑


河原
ピンチを乗り越えていただいて、
貴重な時間をありがとうございます。
はりまさん
よくみんなに、下書きしてからペンを走らせるんじゃないのって言われるんですけど、僕はまっさらなところから書くんです。
全部フリーハンドですね。
テレビ局のADからアキバへ
はりまさんは、秋葉原のコミック専門店で働くまでは、ADとしてテレビ番組を作っていたそうです。
「カンペを書いていたので水性ペンの使い方がうまくなった」と話します。
仕事でPOPを書くときは、コミックを読む時間も含めて20~30分で、長くて1~2時間かかるそうです。
個性的なPOPは、秋葉原の情報をまとめるサイトに掲載されることもあります。
推したい作品があっても仕事では書けないこともあるので、2、3年前からは趣味でもPOPを書いてSNSに出しているそうです。


「POPがてんさいすぎる」漫画家もツッコミ
多いときは1日20枚、1カ月で250枚ほどPOPを書くというはりまさんですが、書き始めた当初は恥ずかしさがあったそうです。
特に秋葉原はこだわりの強い人が集まる街。
はりまさんは、「お客様の方がプロ。おもしろさはお客様の方が知っていると思います」と話します。
河原
はりまさん
それが自信の、力の源です。
河原

河原
はりまさん
作家さんに取り上げてもらえると、自分の考えが間違いではなかったなっていうのは感じられますね。

はりまさん
年々見せ方は変えてきていますが、考え方はずっと同じです。
書く言葉は、毎回奇跡的に浮かんできます。笑
ダジャレが好きなので、オヤジギャグとかをバンバン出しちゃう。
オヤジギャグはバカにできません。
誰にでもすっと入っていくので重要です。
お客さんがクスッとしてくれるといいなと思います。
POPはお客さんとの架け橋、書店の声
最後に、はりまさんにとって「POP」とはどういう存在なのか聞きました。
はりまさん
ないと寂しいと思います。 POPがあるないではお店の雰囲気が全然違うんです。
特に手書きのPOPは訴える力が強い。
それぞれの味があって目立つ。心をつかむ。
自分なりの訴えが、手書きのPOPには表れると思います。


