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連載

#12 ことばマガジン

アニメのタイトル「○球(きゅー)」が人気 日本名の魅力、どこに?

庭球・野球・排球……なぜわざわざ日本語呼びに?

バレーボールは「排球」。写真でブロックを決めている木村沙織選手(中央)は今年3月で引退した
バレーボールは「排球」。写真でブロックを決めている木村沙織選手(中央)は今年3月で引退した 出典: 朝日新聞

目次

 テニス漫画「てーきゅう」、バスケットボール小説「ロウきゅーぶ!」、バレーボール漫画「ハイキュー!!」。「○球(きゅう)」と呼ぶ球技名をタイトルに付けた作品が、相次いでアニメ化されて人気です。ふつう球技名は、野球や卓球、水球など以外は「○○ボール」のように外来語表記をしますが、なぜわざわざ日本語呼びを使うの? 「○球」の魅力のありかを探りました。(朝日新聞校閲センター・加藤正朗/ことばマガジン)

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人気漫画「ハイキュー!!」と、4月から東京で開かれる「ハイキュー!!展」のチラシ
人気漫画「ハイキュー!!」と、4月から東京で開かれる「ハイキュー!!展」のチラシ

主な命名法は三つ


 三つの作品の題名を漢字で書くと、テニスは「庭球」、バスケットは「籠球(部)」、バレーボールは「排球」です。

 「○球」とする球技の日本名は、大きく三つの命名法に分けられそうです。
 
 一つ目は、「庭球」や「野球」のように「どこでプレーするか」から命名したもの。「卓球」「水球」も含め、今でも日本名でよく使われるものが多いです。アイスホッケーの「氷球」もあります。

 二つ目は、「球のほかに使う道具」から名付けるもの。ゴールを籠(かご)に見立てたバスケットボールの「籠球」はこれに当たります。防具で身を固めるアメリカンフットボールは「鎧(よろい)」の字を使って「鎧球(がいきゅう)」、ホッケーはスティックを杖に見立てて「杖球(じょうきゅう)」です。

 三つ目は、「球をどう使うか」というバレーボールの「排球」型。球を敵陣へはじき返すところからきています。サッカーの「蹴球」は、球を蹴るから。日本には古来の遊技「蹴鞠(けまり)」のほかに、ポロに似た「打毬(だきゅう)」という遊技もあり、この型は由緒ある命名法とも言えそうです。球を味方へ投げ渡すハンドボールは「送球」です。

 3タイプに当てはまらないものにバドミントンがあり、球の形状に着目した「羽球」の字が当てられています。読み方が定まっていないのもほかと違うところ。全国に「羽球部」や「羽球会」がありますが、「うきゅう」「はきゅう」「はねきゅう」「はねだま」と思い思いの読み方をしているようです。

テニスは「庭球」。写真は大坂なおみ選手
テニスは「庭球」。写真は大坂なおみ選手 出典: 朝日新聞

野球より庭球が先?


 「庭球」と呼ぶテニスの場合、「庭」の字には小さいコートで行うという意味のほか、「テ」の音を合わせる狙いもあるようです。

 この命名に注目したのが中馬庚(ちゅうま・かのえ、1870~1932)。「ベースボール」を初めて「野球」と訳すなど野球の普及につとめ、没後に野球殿堂入りした人です。

 中馬が書いた解説書には「明治26年4月以来(中略)野外ノ球技ナルヲ以テ庭球(ローンテニス)ニ対シテ野球ト命名セル」とあります(「ローン」は芝生のこと)。

 明治26(1893)年には、「庭球」の訳語がすでにあったことになります。

 テニスは早くから日本に定着した球技です。1920年アントワープオリンピックのテニス競技に、熊谷一弥(いちや)、柏尾誠一郎両選手が出場していますが、五輪の球技種目に日本代表が出るのはこれが初めてのことでした。

 熊谷選手がシングルスで銀メダルを獲得し、柏尾選手と組んだダブルスも銀メダル。これが日本初の五輪メダルです。当時の新聞は「当地の運動通の意見も日本庭球界の将来や恐るべしと云(い)ふ」と誇らしげに伝えています。

 ところが、明治時代の教育誌に載ったテニスの解説記事には、「ベースボールが野球と訳されたのでテニスも庭球とした」と逆に説明しているものもあり、訳語が定着したのは野球の方が早かったことがうかがえます。

バスケットボールは「籠球」。写真は栃木ブレックスの田臥勇太選手(手前から2人目)
バスケットボールは「籠球」。写真は栃木ブレックスの田臥勇太選手(手前から2人目) 出典: 朝日新聞

サッカー?ラグビー?


 「蹴球」はふつうサッカーを指しますが、かつてはラグビーにも使われていました。

 1940年のオリンピックは、第2次世界大戦などの影響で中止になりましたが、当初は日本で行われる予定でした。

 その組織委員会がまとめた手引書(東京・中央区立京橋図書館蔵)を見ると、ボートが「漕艇」、リレーが「継走」と日本語の競技・種目名が並ぶ中、「蹴球(アソシエーション及びラグビー)」という記述があります。

 サッカーとラグビーは、それぞれ正式名称が「アソシエーション・フットボール」と「ラグビー・フットボール」。「蹴球」は英語の「フットボール」に当てた言葉とわかります。

 イギリスで単にフットボールと言った場合はサッカーを指すように、現在は日本でも「蹴球」といえばサッカーであることがほとんどになりました。

 でも、今も慶応大で「蹴球部」といえばラグビー部のこと。頭文字をつけて呼ぶ場合もあり、早稲田大や東京大のサッカー部は「ア式蹴球部」という名です。

 ラグビーも「ラ式蹴球」とされたりもしますが、今では、戦時中に考案されたと思われる「闘球」が一般的になっています。

 ◇ ◇ ◇

 アニメが人気の3作品の題名は、「○球」を漢字で書くのではなく、長音符を使って仮名書きにしているのも共通点です。

 先人たちが意味を漢字に込めて考え出した名前は、時代を経た今、「語感の良さ」という新たな長所を見いだされているのかもしれません。

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