連載
#7 夜廻り猫
今日話そうと思ってたのに…熟年離婚 涙を誘う猫マンガが描く夫婦
「結婚して32年、優しい言葉をかけられたことはなかったのに……」。深夜のキッチンで、ひとり夫との関係を考え込む女性。「ハガネの女」「エデンの東北」などで知られ、ツイッターでも作品を発表している漫画家の深谷かほるさんが、『熟年離婚』をテーマに描きました。
きょうも、心で泣いている人の涙の匂いをかぎつけた、猫の遠藤平蔵。
今夜は、自宅のキッチンでひとり考え込む、女性に声をかけました。「わけを話してみなさらんか」
女性は、ポツリポツリと話します。
「ゆうべ、トイレに行った夫が、わたしの布団をかけ直してくれていたの。信じられなくて……きょうも眠らずにいたら、またかけ直してくれていたの」
女性は、夫と結婚して32年。
これまで、優しい言葉をかけてくれることがなかった夫との関係に悩んでいました。
決め手は、女性の親が亡くなったときの一言。
離婚届を手に、「今日話そう 今日話そうと思っていたんだけど…」と振り返ります。
「あの人が、私のためにしてくれることがあったなんて」
女性は、「ちょっと迷いが出たわ」と笑顔になります。
遠藤は「あと3つぐらい いいとこ見つかるといいですな」と笑い返すのでした。
作者の深谷さんは、「余計なお世話ながら、ご夫婦には仲良くしていてほしいな、と思って書きました」と話します。
とくに深谷さんが気になるのは、パートナーの片方だけが気を遣って笑っていて、もう片方は全く気を遣わず、相手が傷つくようなことをする場面に居合わせてしまったとき。
「仲良くしようよ! と心の中で叫んでしまいます」
ほんのちょっとのこと、たとえば「布団をかけてあげる」ような小さなことでも、してもらえればうれしいもの。
深谷さんは「せっかく一緒にいる間柄なら、思いやってほしい」と話しています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かほる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。3月23日、講談社から新装の単行本1、2を発売する。自身も愛猫家で、黒猫のマリとともに暮らす。
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