話題
「睡眠薬遊び」「フーテン族」…未知の生き物「団塊世代」の黒歴史
若者にとって、おじさん・おばさんは、未知の生き物。あの人たちは、一体どんな時代を生きてきて、なんで若者にあれこれ言うのでしょう。

■シリーズ「おじさんおばさんトリセツ」
書店に行くと、たくさんの「若者本」を目にします。おじさん・おばさんにとって宇宙人のような「いまどきの若者」とはどういう生き物なのか、解説しています(文句を言いたいだけのものも中にはありますが)。でも、「逆」って少なくないですか? つまり若者向けの、「おじさんおばさんトリセツ」。若者にとっても、おじさん・おばさんは、未知の生き物です。社会に出れば、おじさんおばさんは、若者の前にドンと立ちはだかります。若者だって、おじさん・おばさんのことを解説してほしい。あの人たちは、一体どんな時代を生きてきて、なんで若者にあれこれ言うのでしょう。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
おじさんおばさんトリセツ
ということで、講師をお呼びしました。
コラムニストで淑徳大学客員教授の深澤真紀さん。「草食男子」の名付け親です。

深澤さんの授業は、
1時間目 「団塊世代を知ろう」(今回)
2時間目 「バブル世代を知ろう」
3時間目 「おじさん・おばさん攻略法」
です。
「○○世代」という言い方はいろいろありますが、今回は話題になることが多い「団塊」と「バブル」に絞って、解説していただきます。
生徒役には、大学生4人に集まってもらいました。
明治大学4年・小出英知さん/慶応大学4年・永井大輔さん/早稲田大学3年・英佳那さん/津田塾大学3年・大橋実結さん
みなさんそれぞれ、おじさん・おばさんに不満があるとのこと。
いろいろ思いをぶつけてもらいます。

――ではさっそく、1時間目の授業です。
深澤さん
私は1967年生まれで49歳の「バブル世代」のおばさんです。でも、上の世代である団塊と、同世代のバブルが苦手です(苦笑)。
なぜなら私たちは、上司の世代である団塊からは「今の若者はダメだ!」って叩かれ続けてきたんです。
そして団塊に叩かれてきたバブルも、けっきょくいま同じように若者叩きをしているので、がっかりしています。
学生
深澤さん
そこで、褒め言葉として「草食男子」と名付けたら、おじさんやおばさんが「情けないやつら」と若者をディスる(けなす、バカにする)意味で使い始めて、それが広まってしまった。
「それは違う! 今の若者にはいいところがたくさんある!」と言いたくて、今は誤解を解くために、メディアに出たり、大学で講義をしています。

深澤さん
学生
学生
学生
学生
深澤さん
学生のみなさんにとって、親・部長世代が「バブル」、祖父母・社長世代が「団塊」です。これから社会に出ると、みなさんにとってこの人たちが大きな壁になります。
なので、まずはどんな人たちなのかを知りましょう。
みなさんは、「いまの若者は」ってひとくくりにされるのが不愉快でしょう?
でもそれは、私たちおじさんやおばさん世代だって同じですから、「世代論はあくまで目安でしかない」ということが大前提になります。
学生
深澤さん
ですからこの講義では、団塊やバブルがどういう時代を過ごしてきたかを、新聞の過去記事などを読みながら学んでいきます。
じゃあさっそく、団塊から解説していきましょう!
子ども時代=日本が自信を取り戻す時代
【用語解説】〈団塊〉とは? 第二次世界大戦後のベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた人たちを中心とした世代。現在は60代後半。この世代の有名人は、ビートたけしさん、武田鉄矢さん、星野仙一さんら。

深澤さん
学生
深澤さん
学生
深澤さん
1964年の東京オリンピックには大興奮したそうなので、前回を見た人たちは、2020年も楽しみにしている人が多いんですよ。
学生

深澤さん
新聞の過去記事で見ていきましょう。
【1964年6月22日朝日新聞朝刊 見出し「大人が見た最近の少年少女 悪い点が多い46%」】
ざっくり言うと――20代以上の男女に「最近の少年少女」について聞いた世論調査記事。「よい点が多い」14%に対し、「よくない点が多い」は3倍以上の46%。「よくないと思われる点」として「享楽的で自制心がない」「乱暴で犯罪や非行が多い」「道徳心なく精神面に欠ける」などが挙げられている。

深澤さん
学生
深澤さん
要するに、昔から「今どきの若者はダメだ」と言われていたということ。みんな、年をとると自分が批判されていたことを忘れて、同じように「今どきの若者は」って言っちゃうんです。
学生
深澤さん
これもまた昔の新聞記事で見ていきましょう。
【1961年9月29日朝日新聞朝刊 見出し「睡眠薬遊び 悪質化する一方」】
ざっくり言うと――東京都内の少年少女に、睡眠薬を飲んでフラフラになるのを楽しむ遊びが流行しているという記事。「警視庁少年課の調べだと、さる7月1日から今月(9月)25日までの間に睡眠薬遊びから意識不明となったり、喫茶店で寝込んだり、さらに犯罪コースに転落して補導された少年少女は74人にものぼった」(記事より)

学生
深澤さん
これが私たちバブル世代の少年少女時代には、「シンナー遊び」になります。
学生
うちのばーちゃんはすっげー厳しかったですけど。
深澤さん
はい、次はこちら。

【1967年8月3日朝日新聞朝刊 見出し「論争 フーテン族」】
ざっくり言うと――定職に就かず、ふらふらしている若者たちのことを当時「フーテン族」と呼んでいた。フーテン族について、賛成派:大島渚氏(映画監督)、反対派:無着成恭氏(僧侶、教育者)が論じた記事。
深澤さん
フーテンは今で言うと、ノマドとフリーターとニートを足して3で割った感じで、ふらふらしている人たちのことです。
この時代にもこういう人はいたんです。寅さんは愛されたけど、「フーテン族」はこの時代に若者をディスった言葉です。記事を見てみましょう。
「スポーツカーに乗ってぶっとばすときと、セックスに夢中になっているときと、クール・ジャズに踊り狂っているときの充実した感覚だけが人生なのだと主張してゆずらない彼等は、もはや人間ではない。虫けらであり、ゲジゲジだ」(反対派の無着成恭氏の記事より引用)
学生
深澤さん
こんなふうにむちゃくちゃに叩かれた人たちがいま、同じように若者を叩いてるわけです。

深澤さん
【1979年1月15日朝日新聞朝刊社説 見出し「『成人の日』の意味」】
ざっくり言うと――若者がなかなか社会人として自立せず、いつまでも半人前にとどまっている状態を指す流行語「モラトリアム人間」を引用して若者に自立を促す社説。「青年たちに自立への気概が不足していることは否定できない」「大樹の下での安住を願う、若者らしくない、退嬰(たいえい)的な姿勢がのぞいている」「親の保護下での、ぬくぬくとしたサラリーマン生活を願う『甘え』がある」(記事より)

深澤さん
学生
深澤さん
そんなことをすっかり忘れてしまって「俺たちの頃はもっと大人だった」とか言っているわけですね。
じゃあ、次は有名な学生運動です。
「若い頃に暴れてた人たち」は間違い?
深澤さん

学生
深澤さん
でもおじいさんたちの世代がやってきたことです。60年安保と70年安保とありますが、世界中でも学生が立ち上がった時代に、団塊世代が起こしたのが70年安保です。
日米安保や、アメリカが仕掛けたベトナム戦争に抗議しました。

深澤さん
学生
深澤さん
当時は大学生自体が少なくて、一種の特権階級でした。
だからこの世代の人たちの中には「団塊世代」と呼ばれるのはいいけど、学生運動をしていた人という意味の「全共闘世代」と言われるのは嫌で、「あいつらとは一緒にしないでくれ」と苦々しく思っている人も多いんですよ。
学生
【1969年1月18日朝日新聞号外 見出し「東大占拠を実力排除 警官八千五百が出動」】
ざっくり言うと――全共闘などの学生たちが東京大学安田講堂を不法占拠していた事件で、警視庁の機動隊が実力排除に乗り出したことを伝えた号外。

深澤さん
学生
深澤さん
しかし、今の時代の学生からは信じられないでしょうね。
次は学生運動とは正反対の話です。
戦う学生 VS 金の卵
【1969年8月26日朝日新聞夕刊 見出し「ただ今乱戦“金の卵”争奪 ひたすら低頭、企業側」】
ざっくり言うと――高度経済成長を背景に、当時の企業はどこも人手不足。求人は約6倍で、中学・高校を卒業した人たちを「金の卵」と呼び、各社が奪い合っていた。企業があの手この手で「金の卵」を確保しようとする様子を紹介した記事。

深澤さん
夜行列車で地方から都会に集団で出てきて、住み込みで働くという「集団就職」の時代でもあったのです。
学生
深澤さん
いま格差社会が問題になっていますが、この時代は格差がなかったわけじゃなくて、まだあまり問題になっていなかった。
集団就職で上京して、まだ子どもだから家族に会いたくて泣きながら働いている人たちと、学生運動している人たちが同時に存在しながら、ほとんど交流はありませんでした。
この「金の卵」だった人たちは、学生運動をしていた人たちを「俺達が苦労してた時に暴れやがって」と思い、「日本の経済を支えたのは俺たちだ」という自負をもっていたりします。
学生

深澤さん
学生
深澤さん
みなさんが今後就活や社会で出会う団塊世代は、大卒の人たちが多いと思うけど、社会的なマジョリティは、中卒・高卒で働き始めた人たちです。
「団塊=若い頃に暴れてた人たち」っていうイメージがあると思いますが、この両者はずいぶん違う存在だということです。

深澤さん
学生
本当にイケイケな人たちはいたんだなって改めて思ったと当時に、早く就職して苦労した人たちもいるんだって知って、その苦労ぶりは、なんか私たちの世代とも似たところがあるのかなって思いました。
深澤さん
学生
昔から、常に下の世代をたたき続ける負のスパイラルがあるんだなと思いました。

――では次は、2時間目。「バブル世代を知ろう」に続きます。