ドラマや映画でよく見るヤクザですが、本物に会ったことがあるという人は、少ないのではないでしょうか。本人たちに聞けない代わりに、ヤクザに詳しい専門記者に聞いてみる企画、第3弾です。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
今回も、こたえてくれるのは朝日新聞東京社会部の緒方健二記者(57)。
暴力団など組織犯罪と事件の専門記者です。

裏社会を深く取材するようになったのは、1990年ごろからだそうです。
九州の暴力団抗争で、高校生が組員と間違えられて射殺されてしまう事件など、いろんなヤクザの事件を取材するうちに、「やつら、許さぬ」と決意したそうです。
緒方記者
緒方記者
対するは、大学生ら20歳前後の若者9人。
「ヤクザに詳しい記者と話したい人」と募ったところ、「ぜひ!」と来てくれました。

車も口座開設もダメ
学生
学生
緒方記者
緒方記者
いま、警察は暴力団を壊滅させよう、数を減らそうと力を入れています。さまざまな業界に「組員と取引しないで」と協力を求めて、排除条項を設けてもらっています。車の販売もそのひとつです。
学生
学生
緒方記者
緒方記者

学生
学生
緒方記者
緒方記者
取材した元組員は、組織を抜け、堅気になって10年以上たつのに、いまも口座がつくれないと嘆いています。一般的に離脱後5年でOKとされているんですが、金融機関に拒まれてしまうといいます。これでは立ち直りに支障をきたすでしょう。
学生
学生
緒方記者
緒方記者
じゃあ、私から質問です。暴対法の施行から24年がたちましたが、いま暴力団員って何人くらいだと思いますか?
学生
学生
緒方記者
緒方記者
ただ、この数は信用できません。
「指定暴力団」という言葉を聞いたことがあると思いますが、暴対法の取り締まり対象にするためには、指定をしないといけない。指定の条件には、犯罪歴のある構成員の比率がどうかとか、いろいろ規定がある。それを逃れるために、暴力団は意図的に組員を破門したり絶縁したりで組織外に出す。で、その辞めた「偽装離脱組」が何をしているのかといえば、組員と同じようなことをやってるんですけどね。

組長が一日署長?
学生
学生
緒方記者
緒方記者
学生
学生
緒方記者
緒方記者
古い暴力団の人たちには「戦後の混乱期に日本の治安を守る手助けをした」という自負があるようです。70歳代の組長は、私の取材に「終戦直後だけではなく、その後も警察にも行政にも協力してきた。使えるときは使っておいて、これからは排除一辺倒では納得できない」と話していました。
学生
学生
緒方記者
緒方記者
あちこちで暴力団を排除する動きが強まっています。もちろん排除は必要ですが、次は、暴力団を辞めた人たちを社会としてどう受け入れるのか、がとっても大きな問題です。2015年には約600人が暴力団を抜けています。暴対法には、組織を抜けた人の就労支援をすると明記してあるんですが、日本の警察は、こちらのほうはちょっとお留守になっています。
これ、見てください。
(ポケットから取り出す)

学生
学生
緒方記者
緒方記者
本来は、生まれつきや事故、病気で体の一部がない人に義手や乳房などをつくるプロです。ある時、暴力団を自分の意思で辞めたっちゅう人が、訪ねてきたそうです。
学生
学生
緒方記者
緒方記者
林さんは、元組員の話を聞いて「依頼主が必要なものを形にするのが仕事。社会復帰に役立つなら」と引き受けたそうです。私も、ここで義指を作った元組員の人たちに話を聞きましたが、指の欠落は更生の大きな支障になるようです。苦労して就職した会社では結局、指の欠落を理由に退職を迫られたそうです。「指さえあれば」と、この製作所に来ました。

「元ヤクザ」を受け入れる
学生
学生
緒方記者
緒方記者
雇う側からしてみたら、元組員で、しかも指がないと敬遠するでしょう? 義指を作る工程を見せてもらったけど、何度も何度も試作を重ねて、それは時間のかかるものでした。
完成品をはめた元組員が「新しい指が生えてきたみたい」と喜んでいたのが印象に残っています。ここで指を得て、会社を興した人もいます。

緒方記者
緒方記者
暴力団を辞めても、定職につけなくてまた暴力団に戻ったり、盗みに走ったり、覚醒剤とか特殊詐欺の世界に入ることがあるんですよね。そういうことの社会的コストを考えると、たとえ元組員であっても、社会全体で受け入れるすべを考えた方がいいと思います
緒方記者と学生らの対談は、約90分間。途切れることなく質問が続きました。
学生たちは、驚き、笑い、息をのみ、緒方記者の話を聞いていました。
いい「課外授業」になったようです。
