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「わたかわ」ヒットの理由 静岡を前向きに…ヤマモトショウさんの夢

「FRUITS ZIPPER」の楽曲や「fishbowl」のプロデュース手がける

人気のアイドルソングを手がけるヤマモトショウさん=本人提供
人気のアイドルソングを手がけるヤマモトショウさん=本人提供

目次

「日本版グラミー賞」ことMUSIC AWARDS JAPANや日本レコード大賞を受賞した「FRUITS ZIPPER」の「わたしの一番かわいいところ」を始め、人気のアイドルソングを数多く手がけるのが音楽プロデューサー・ヤマモトショウさんです。2021年からは出身の静岡を拠点に活動するアイドルグループ「fishbowl」のプロデュースも始めました。ヤマモトさんは「令和のアイドルシーン」をどう見ているのでしょうか。地元・静岡での活動、今後の展望も聞きました。(朝日新聞記者・滝沢貴大)

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TikTokは重要な指標…だけど

ヤマモトさんは1988年、静岡県出身。高校まで静岡で過ごし、東京大学へ進学、哲学を専攻しました。在学中にバンド活動を始め、大学卒業後は作詞・作曲家としての活動も本格化させました。

――ヤマモトさんの楽曲はTikTokをはじめSNSで大人気ですね。人から人へ急速に拡大し、社会的に大きな話題となる「バイラルヒット」を収めた曲も多いです。

よく「狙ってやっているんですか」みたいなことを聞かれますが、もちろん、意識はしています。なぜならTikTokは今の時代多くの人が見ていて、そこでの反響は重要な指標だからです。

けど、それは「一昔前のテレビ」と同じことだと考えています。

ひと昔前は、タレントを大きく展開しようと思ったらテレビで話題になることをみんな意識してましたよね。それくらいの感覚です。「ヒット曲を作ろう」という気持ちで取り組んでいて、今の時代はTikTokをはじめとしたショート動画があるので手段として活用している、というだけです。

もちろん、テレビの時代にも「テレビにはあまり出てこないけど舞台の世界では有名」みたいなタレントはいましたよね。それと同じで、今の時代でもバイラルヒットによらないアイドルがいて当然だとも思うし、それぞれに大切な役割があると思っています。

ライブを中心とした「平成のアイドル」と比較する文脈で語るアイドルファンも中にはいますが、世間の大半はFRUITS ZIPPERもfishbowlも「知っている」「知らない」の違いしかないと思っています。

その「知っている」の裾野がTikTokなどで広がっている。そういう中で、僕が今作ってるもの、作れるものが、バイラルヒットの文脈で強いというだけだと感じています。

――MUSIC AWARDS JAPAN受賞についてはどのように感じられましたか。

「最優秀アイドルカルチャー楽曲賞」という賞をいただいて、名実ともに「日本一のアイドル作曲家」になることができました。日本一というのは「日本で一番売れている」というより「これが日本のアイドルの代表的な楽曲だ」と海外に持って行くにあたっての位置づけだとはとらえていますが。
ヤマモトショウさん=2025年9月、静岡市、滝沢貴大撮影
ヤマモトショウさん=2025年9月、静岡市、滝沢貴大撮影
――ヤマモトさんの楽曲がこの時代にヒットしている理由について、ご自身はどうとらえていますか。

時代の波の中でそういうタイミングだった、としか言えないですね。こういうことって分析しても結論は出ないし、あとから何とでも言えるので。ただ、いつまでも続くものではないし、流行りは絶対あると思っています。

ただ、僕としては元々やっていた楽曲作りの続きをしているつもりです。楽曲作りの原点は、以前やっていた「ふぇのたす」というバンド。その経験をアイドルに落とし込んでいる感じです。

いまのアイドルへの提供曲のプロトタイプは「リルネード」(2019年にデビューして2022年に解散した3人組アイドルグループ)と色んなところで言っているのですが、基本的には「2020年代にこういう曲が流行ったらいいな」と思って作った感じです。

地元でfishbowlを立ち上げ4年

――地元・静岡を拠点に活動する「fishbowl」を始めて4年。6月には研究生グループの「kidsbowl」も始まりましたね。狙いを教えてください。

fishbowlを4年間やってきて、静岡の企業や自治体から本当にいろんなオファーをいただけるようになったので、そこに応えていきたいとkidsbowlを始めた、というのが最初の思惑ですね。

やはりメンバー全員を動かすのはカロリーがかかるし、オファーにしても5人を呼ぶともなると変にハードルが上がってしまう。せっかくみんなで静岡を盛り上げていこうとやっているのに、もったいないと感じました。ライブをやるとして、そのための準備もしないといけないし。

メンバー単位でイベントをするとしても、各地域とひも付いたイベント、たとえば浜松のイベントに浜松出身の大白桃子が行くとか、そういうことはできると思うんですが、たとえばスポーツとか、その中でもサッカーとか野球とか、そういうカテゴリー単位のイベントとかもあったりして。

そんな中、kidsbowlは割と「ジャンル感」がそれぞれしっかりある子が入ってくれました。例えば伊藤ミモザという新メンバーはプログラミングが得意で、生物関係の賞を受賞したこともあります。
静岡のご当地アイドルグループ「fishbowl」=ヤマモトさん提供
静岡のご当地アイドルグループ「fishbowl」=ヤマモトさん提供
――静岡ゆかりの企業や自治体とPRなどで協力し合う「応援企業・団体」の取り組みは特徴的ですよね。

「応援企業・団体」のシステムも、常に色々走ってるような状態にしたいと思っています。

もともとfishbowlは「ライブアイドルシーンで新しいことをしよう」とか、そういうつもりで始めたわけではないんです。結果としてライブも評価してもらってはいるのですが、kidsbowlもそうなる必要はないとは考えています。県内の企業や自治体との取り組みとか、本来やろうと思っていたことをベースにしていけたらと思っています。

とはいえ、もちろんライブもやっていきます。今の時代、アイドルになりたい子のほとんどがライブやりたい子。彼女たちの希望を叶えてあげたいし、音楽も一つの手段だと思っているので、そうしたプロデュースはしていくつもりです。

そんななかでfishbowlが大変なのは「FRUITS ZIPPERの『わたしの一番かわいいところ』のヤマモトショウがプロデュースしてるグループ」という文脈で見られてしまうことかもしれません。それはもしかしたら重荷になってしまっている部分なのかもとも感じています。

静岡で生活している人とか静岡の企業や団体にとって、生活の中にfishbowlやkidsbowlがあって、一緒に仕事したいとか、町中でポスターを見たとか、ライブも行ってみようとか、そういう身近な存在になっていけたらいいなと感じています。その上で、楽曲やライブの質は僕が担保する。それが理想の形です。

アイドルファンってアイドル界の中だけで物事を考えがちですが、世間一般で見たらFRUITS ZIPPERですら「見たことある」くらいのレベルだと思います。ましてやfishbowlの音楽性などは実は些細なことだと考えています。

でも、たとえばfishbowlがサッカーJ2の「藤枝MYFC」の試合でサポーターの方と一緒に応援をしたとして、その場にいた何人かは一生fishbowlのことを忘れないと思います。

もちろん音楽をやるのも大切だけど、こっちも大切。逆に、みんなで「こっちは必ずしもみんなはやれない」という意識を持ってやろうという話をいつもするようにしています。

「良い音楽にそんな違いはない」

――ヤマモトさんの楽曲は女性の共感を呼ぶ歌詞が多く、女性ファンが増えている一因だとも感じます。

昔からアイドル関係者は「女性ファンを増やしたい」と言ってきて、2010年代のアイドルも、たとえばアニメソングを歌うとか試行錯誤していました。けれど、それが本職の人たちに割り込むのはなかなか難しい。だったら、空いているところに行くしかない。

今は、TikTokで踊ってみたり、「推し」を目指して自分もかわいくなったり、これまで単純に消費していた「アイドル」という文化に自分も参加する流れがきていますよね。

――fishbowlの楽曲を作るときと、FRUITS ZIPPERをはじめとした外部に楽曲を提供するときで作りを変えている部分はあるのですか?

そんなに違わないと僕は思っているんですが、ファンは違うと言いますよね。「fishbowlこそヤマモトショウの本質だ」みたいな。

実は、そういうファンの皆さんに向けたギミックを逆に入れたり……なんてこともしています。

ただ、本当のところは良い音楽にそんな違いはないと思っています。違いがあるとしたら、fishbowlの方が少し、自分の言いたいことは言っているかなという感じです。やはり自分のグループなので。

バイラルヒットするかどうかって、自分の作った楽曲の中では、曲自体の出来よりもアーティスト側がいかにバズらせようと取り組んだかの方が大事だとは感じています。バズらせようと思わなきゃ、楽曲ってバズらないので。

「辞められる」「休める」って結構重要

――fishbowlではこの秋、結成時から活動されてきた新間いずみさんが卒業しますね。

今のアイドルシーンにおいて、メンバーの加入や卒業って難しい。たとえばAKB48にメンバーがひとり入っても辞めても、グループ自体がなくなることはないし、無関係に語られますよね。

もちろん、それをきっかけにAKBを応援する人、辞める人は全然いるけど、AKBそのものがどうなるとか心配する人はいない。

じゃあfishbowlはどうかというと、新間いずみが辞めるからグループがなくなると思う人はいないと思うけど、かたや新間いずみがいなくなっても全然大丈夫だと思う人も一人もいない。今のfishbowlはそういう規模感や認知度のグループだと思います。

けど、どんな組織でもそういう段階を経るもの。たとえばベンチャー企業だって、少数の創業者で立ち上げても、その全員が残ることってあまりないじゃないですか。とはいえ、グループが形を変えていくときに、メンバーたち個人の未来につながっていくようにはしたいと思っています。

「どっちも」でいいんじゃないでしょうか。「あの人がいなきゃだめ」って思うファンもいて、「関係ないよ」ってファンもいて。そういったファンがたくさんいることが重要かなと思います。

あと、僕は「辞められる」って結構重要なことだと思っています。アイドルの世界って、やっぱり辞めづらい。芸能活動って良くも悪くもですが、本人としての依存性もあるし、ファンの人からの思いもあるし。普通の会社は、もうちょっと簡単に辞められますよね。

辞めることができる、あと休むことができるというのは重要だと思っています。うちの久松由依は1年以上グループを休んで、kidsbowlで復帰しました。絶対辞められない、休めない組織に持続性はないと感じます。
昨年のしずおか大好きまつりであいさつするヤマモトショウさんと、fishbowlのメンバー=2024年10月6日、静岡市、しずおか大好きまつり実行委員会提供
昨年のしずおか大好きまつりであいさつするヤマモトショウさんと、fishbowlのメンバー=2024年10月6日、静岡市、しずおか大好きまつり実行委員会提供

正解がないのがアイドルの醍醐味

――近年の「推し活」熱の高まりについてはどう感じられていますか。

すごいですよね。僕も「推しいますか?」って聞かれたりします。人生で一人もいたことはないんですけどね。

完全に「推し」って一般化した概念になったし、アイドルはその最たる例になっていますよね。

推し活を「やらなきゃいけない」ってしんどいことだと思います。ラフに応援する方が気軽だし、fishbowlもそれでいいと思っていたりはします。別に特定の推しを作らないで、曲だけ知ってるとかでもいいし。

「推し」という形態を使わないとマネタイズしづらいという面、ファンにとってはグループ・プロジェクト自体を応援する仕組みが少ない……という面はあると思います。

――アイドルは、どうすれば人気になるかの正解がないのも難しいところですよね。

そうなんですよ。オーディションをやっていても、「こういうことが得意です」みたいなことから判断できる部分はあるけど、正直アイドルとして人気になるかはわからない。

けど、わからないところがおもしろさ、アイドルの醍醐味だとも思っています。わかったら、それが限界になってしまうような感じがするので。

fishbowlでも、たとえば去年入った斎藤ザーラチャヒヨニはヤマモトショウのことを知らずに加入したんですけど、そういう枠にはまらない人の方がおもしろいとも思います。

この記事で初めてヤマモトショウのことを知ったくらいのタレントに出会いたいですね。イメージ通りのものを再生産していっても、元々あったものを食いつぶしていくだけだと感じるので。
――最後に、今後への意気込みをお聞かせください。

10月3~5日に静岡市で、「しずおか大好きまつり」というイベントを主催します。去年に続いて2回目ですが、今年は祭りの規模も内容もかなり拡大します。

「地元でお祭りをやる」というリアリティの中で「こういうこともできるよね」「こういうことがやりたいよね」といったことが見えてくると思うので、そこが一つの試金石になると感じています。

祭りってただ行くより一緒に作った方が楽しいと思っているので、そういうイベントにしたいです。そして、fishbowl自体そのわかりやすい象徴なのかな、と思っています。

アーティストと何かを一緒にやるハードルって高いかもしれないけど、fishbowlとならめちゃくちゃ低い。アイドルっぽさとかも必要としていない、「推し」みたいな概念もいらないので、気楽に来てほしいです。

応援企業の皆さんが「fishbowlとなにかやったらおもしろいな」って感じて、静岡でみんなが前向きになにかできたらいい、ひとつのインフラになってほしいと思っています。

「売れる」とか「バズる」とか、何を指標にしたらいいかもわからない。でも「俺、しずおか大好きまつりでなにかしたんだよね」とは言えるじゃないですか。そういう方向にエネルギーを集約させていきたい。そういう意味で、アイドルを身近に感じてほしいと思っています。

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