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「サトゴコロつく」留学生がふるさとの味、拒んだわけ マンガで描く

漫画「サトゴコロ」の一場面
漫画「サトゴコロ」の一場面 出典: 稲空穂さん提供

目次

遊園地に行けなかった日におばあちゃんが干し芋を揚げて〝チュロス〟を作ってくれたこと、失敗続きの日に故郷のおやつが心をほぐしてくれたことーー。誰もがどこか「懐かしい」と感じるような〝特別じゃない日〟を描いて、SNSなどで幅広い世代から支持を集める漫画家・稲空穂さんに、新刊に込めた思いを聞きました。

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「生活圏内から無理なく出てくるおやつ」

休日に、親と遊園地に遊びに行く約束をしていた少女。でも親に急な仕事が入って延期に。遊園地のガイド本を見ながら「(チュロス)食べたかったなぁ」とつぶやく少女に、祖母は家にあった干し芋を使って「このくらいかしら」と見よう見まねの〝チュロス〟を作ってくれるーー。

11月27日に発売された稲さんの新刊「特別じゃない日 おばあちゃんのレシピ」のテーマは「おやつ」です。各エピソードには、読者が再現できるように「レシピ」もついています。

〝干し芋チュロス〟は稲さんの創作レシピです。「SNSで日々流れてくる、バズってるようなレシピのようにはいかないんですが」と照れ笑いしつつ、「誰でも思いつくような、生活圏内から無理なく出てくるおやつ」を考えたと話します。

漫画「おばあちゃんのレシピ」の一場面
漫画「おばあちゃんのレシピ」の一場面 出典: 稲空穂さん提供

そんな〝おやつ〟の原風景は、稲さんの幼少期にありました。

子どもの頃の稲さんは、放課後、お弁当屋さんをやっていた祖父母のもとで、仕事から親が帰ってくるのを待ちました。祖父母が出してくれるおやつは決まって〝黒豆〟や〝ほうれん草の白和え〟などお弁当に入れる総菜の一部。

「でも、大人になってからふと〝懐かしいな〟と思い出す『記憶に残っているおやつ』って、そういう生活の一部から出てきたものだったんだと分かりました」

母が屋台で売っていた「チェー」

今作では、日本のコンビニでアルバイトをするベトナム人留学生も登場します。コンビニで働く人にも海外から来ている方が増えていると感じて、前作ではおまけ漫画のキャラクターとして描いた〝ダンくん〟です。

「コンビニで働けるのは、留学生の中でも特に日本語ができて、マルチタスクがこなせる優秀な人」と聞いた稲さんが描くダンくんは、アニメーターを目指して来日し、必死に勉強しながらバイトもがんばる一生懸命な学生です。

でも店頭では「袋はどうされますか?」に対して、「いいよ」「大丈夫」「遠慮しておくわ」など様々な答え方で断る客に、「日本語難しい…!」と打ちのめされたり、客に怒られたことで動揺して揚げ物を焦がしたりと、失敗することも。

それでも「日本で暮らすと決めたからには甘えを捨てる!」と決意して、仲間にベトナム料理屋に誘われても「里心(サトゴコロ)」がつくからと断り、必死で立ち直ろうとします。

そんなダンくんがある日、ふと通りかかった節分祭で、あたたかいぜんざいを手渡されます。甘い香りと手のぬくもりで思い出したのは、ベトナムの母が屋台で売っていた「チェー」でした。日本のぜんざいによく似たココナツミルクのおやつです。

漫画「サトゴコロ」
漫画「サトゴコロ」 出典: 稲空穂さん提供

家に帰ると、ベトナム人のルームメイトが「チェー」を作っていました。一口すすったダンくんの脳裏には、「がんばっててえらい!」という母の声がよみがえります。「だから欲しくなかったんだよ。サトゴコロつくってわかってたからさあ」と目に涙をためるのでした。

〝味〟は切り離せないもの

今回の作品を描くにあたって、ベトナム料理屋を取材したという稲さん。「事前にネットでも調べていたんですが、思っていたベトナムとはだいぶ違う部分がありました」と振り返ります。

ベトナム料理屋のオーナーは日本語学校の先生でもあったため、留学生の事情を教えてくれました。店にはそのときも〝故郷の味〟を求めて留学生たちがやってきていたそうです。

作品で登場する「サトゴコロ」については、稲さんにも思うことがありました。夫が2年ほどメキシコに単身赴任していた時のこと。夫はずっと日本の味を恋しがっていたと言います。帰国すると「とにかく味噌汁」。「〝味〟というのは、切り離せないものなんだと思いました」

取材で口にしたベトナム料理には、日本では「珍しい味」だと感じるものも多かったそうで、「やっぱり(日本に暮らしているベトナム人にとっては)恋しくなる味なんだろうな、と思って描きました」と稲さん。

もともとネットで調べて描こうと考えていたベトナムのおやつは、オーナーに「今の若い人はあまり食べないよ」と言われて、代わりに「日本のぜんざいみたい」という「チェー」を教えてもらいました。

各地で根付き、屋台でもよく売られていて、若い人にも人気のおやつだそうです。「あたたかいココナツミルクが素朴な甘さで、ほっとするような味でした」

漫画「サトゴコロ」の一場面
漫画「サトゴコロ」の一場面 出典: 稲空穂さん提供

最近はニュースや政治の話題で、外国人の話をよく耳にするようになりました。

でも稲さんは、「実際にベトナム料理屋さんや、留学生の方と接してみて分かったことがたくさんありました。だから、ネットという〝狭い世界だけ〟では全然伝わらないし、それだけでその国の印象が固定されてしまうのはもったいないな、悲しいなと思いました」と話します。

「ざらめ1キロを使い切るまで成功しなかった」

新刊で登場した様々な〝おやつ〟。

稲さんは「読んでくださった方が、ご自身の体験を思い起こすきっかけになったらいいなと思って書いています」と話します。

中には、「ざらめ1キロを使い切るまで成功しなかった」という試行錯誤を重ねたレシピも登場しますが、「レシピやおやつの内容というよりも、ご自身の経験を思い起こすきっかけに使ってもらえたらすごくうれしいなと思っています」。

稲空穂さんのXがこちら

書籍「特別じゃない日」の第1集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第2集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第3集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第4集はこちら

書籍「特別じゃない日」の第5集はこちら

withnewsでは毎月、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。

【過去の作品はこちら】

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