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ネットの話題

「コオロギ給食」炎上、昆虫食どうなった? 経営者の〝イメージ〟論

昆虫を使った食品を販売するブース
昆虫を使った食品を販売するブース 出典: FUTURENAUT提供

目次

「環境負荷の低い未来のたんぱく源」として注目された昆虫食。一時はコオロギの粉末を使った様々な商品が開発されるなど注目されましたが、2年ほど前、西日本の高校で給食にコオロギの粉末を使ったメニューが提供されたことをきっかけに、昆虫食に抵抗がある人からの批判が殺到して炎上状態に。コオロギ食品の話題もめっきり聞かなくなりました。昆虫食はいま、どうなっているのでしょうか。(記事中で昆虫食の話題に触れています。また、昆虫を使った食品の画像もあります。苦手な方はご注意ください)

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セミナーに100人超

今年、東京農業大学の世田谷キャンパス(東京都世田谷区)で「昆虫食セミナー」が開かれました。昆虫食に関心を持つ人166人が参加(オンライン参加含む)し、昆虫食に詳しい専門家によるシンポジウムや、昆虫を使った食品の販売が行われました。

シンポジウムに参加する人たち
シンポジウムに参加する人たち 出典: 東京農業大学提供

シンポジウムではオンラインで参加した人たちも含めて、参加者から様々な質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。物販ブースにはコオロギ煮干しやタガメサイダーなど、昆虫を使った様々な食品が並び、訪れた人たちが次々に買い求めていました。参加した男性は、「昆虫食のポテンシャルを改めて知ることができてよかった」と話しました。

実は伝統ある日本の昆虫食

NPO法人昆虫食普及ネットワーク理事長の内山昭一さんによると、昆虫食は近年になって急に提唱され始めたわけではなく、アジア、アフリカなどには昆虫を食べる国も多く、日本でも伝統的に昆虫が食べられてきたといいます。

1919年に昆虫学者の三宅恒方が発表した「食用及薬用昆虫に関する調査」には、当時の日本でトンボ、カマキリ、セミ、ゲンゴロウなど55種類の昆虫が食用とされていたという記述があります。

いまも地域に根付いている食文化の中にも、昆虫食があります。イナゴは甘露煮や佃煮として各地で食べられています。日本は養蚕がさかんだったことから、蚕のサナギを食べる地域もあります。

イナゴの佃煮
イナゴの佃煮 出典: 朝日新聞社

長野県の伊那地方では、カワゲラ、トビケラなどの「川虫」の総称ザザムシが食べられてきました。ザザムシの甘露煮は、今でも高級珍味として売られています。

岐阜県の東濃地域ではクロスズメバチを食べます。地元では「ヘボ」と呼びます。甘露煮や混ぜごはんが定番です。

内山さん自身も様々な昆虫を食べた経験があり、料理の材料としても積極的に採り入れているそうです。

ハチノコを使った、マーボー豆腐ならぬ「マーボーハチノコ」。五平モチにハチノコを乗せた「ハチノコ五平」。料理の仕方によっては、ハチノコは「ウナギのかば焼きとそっくりの味」にもなるといいます。カミキリムシの幼虫は、「カリカリに焼いて焼きたてをいただく。その味はマグロのトロにそっくり」

ヤシの木の害虫として知られるヤシオオオサゾウムシを食べた経験は、「ラオスで食べたが、うまみが濃く食べやすかった」と振り返ります。

ヤシオオオサゾウムシの成虫。食べておいしいのは幼虫だそうです
ヤシオオオサゾウムシの成虫。食べておいしいのは幼虫だそうです 出典: 朝日新聞社

ただ、戦後の日本では食糧事情が好転し、昆虫を食べる必然性は低下。ザザムシを食べる食習慣が根付いていた長野県の伊那地方など一部の地域を除いて、昆虫を食べることはあまりなくなっていきました。

思わぬ追い風と急速な広がり

昆虫食に思わぬ「追い風」が吹いたのは2013年でした。

きっかけは、国連食糧農業機関(FAO)が出した報告書です。2030年に地球の人口が90億近くに達すると見込まれるとして、食糧需要を満たすためには栄養価が高く、捕るのが簡単な昆虫に着目すべきだと指摘しました。

2015年には欧州連合(EU)がNovel Food(新規食品)のひとつとして昆虫を規定しました。承認された昆虫はEU全域で販売できることになり、これを商機とみたスタートアップ企業が名乗りを上げ始めました。

東京に登場した昆虫食の自販機
東京に登場した昆虫食の自販機 出典: 朝日新聞社

日本でも食用昆虫の養殖や、昆虫の粉末を練り込んだ食品の製品化をめざしたベンチャー企業が相次いで立ち上がりました。大手企業も参入し、昆虫の粉末を使ったせんべいやチョコレート菓子、スナック菓子を販売しました。コンビニにこうした商品が並んだこともありました。

予想外の炎上で冷や水

とりわけ日本で注目されたのは、コオロギでした。

食用コオロギの養殖や製品化を手がける企業「FUTURENAUT(フューチャーノート)」(群馬県高崎市)でCEOを務める桜井蓮さんによると、食用コオロギには栄養面でも生産面でも他の昆虫にはない利点があるといいます。

栄養面でのコオロギの利点は、たんぱく質や食物繊維が豊富で低糖質なことです。

コオロギパウダーを使った携帯たんぱくチップス
コオロギパウダーを使った携帯たんぱくチップス 出典: FUTURENAUT提供

生産面では、養殖がしやすく最短で30日で出荷できます。雑食性があって何でも食べ、水とエサを別々に食べることもできます。常にフレッシュなクワの葉が必要なカイコのような昆虫と比べても格段にエサの用意が楽です。

こうした背景から、養殖技術や加工技術が確立されコオロギがフィーチャーされていたのですが、FAO報告書以降の盛り上がりに一気に冷や水が浴びせられたのが、2022年から2023年にかけて起きた「給食事件」とその後の対応でした。

きっかけは、コオロギの粉末を使った料理が、西日本の高校で給食のメニューとして出されたことでした。

前提として、この高校では生徒たちが事前に昆虫食について学んでいました。昆虫食について十分理解した上で、コオロギの粉末を使った料理は希望者のみに提供されたそうです。つまり、昆虫食に抵抗感やアレルギーのある人に強制していたわけではありません。

しかし、そうした情報が十分に伝わらず、「昆虫食を強制した」と誤解したネット上の人たちなどによって、粉末を生産したベンチャー企業や学校などに苦情が相次ぎました。

粉末を生産した企業では、全国販売を計画していた案件などが次々と中止になったといいます。これだけが要因ではありませんが、その後経営が成り立たなくなり、最終的に自己破産申請に追い込まれました。

事案が発生する前は、大手企業でもコオロギの粉末を使った様々な商品の開発が進んでいましたが、取り組みを公開していた企業にも、単なる問い合わせだけでなく、まちがった情報を信じた人からの苦情が殺到し、軒並み手を引いてしまいました。

桜井さんは、「炎上中は一時的にそういった情報がネットを中心に広まりましたが、炎上前も後も、多くの人が昆虫食そのものに嫌悪感を抱いており、〝無関心の層〟なのは変わらない」といいます。

桜井さんは、給食事件が炎上した背景に、誤解に基づく批判や陰謀論、昆虫食に関わる人たちのPR方法の未熟さがあったのではないかと指摘します。

「コオロギの粉末を使った料理が提供されたのは高校で、さらに希望した生徒だけに提供されたのに、その会社がプレスリリースで用いた『給食』という言葉のイメージから小中学生に無理やりコオロギを食べさせたと誤解されてしまった。昆虫食を『無理やり広める感』を感じ取った人たちによる、陰謀論や誤情報と結びつけた批判を招いてしまったのではないか」

一方で、「ネットの声とリアルの声には乖離(かいり)があると感じる」と指摘します。

桜井さんたちはコオロギ給食が炎上したあとも、コオロギ粉末を使った食品を作り続けていますが、イベントやマルシェなどの販売の場で直接批判的な声を浴びせられることはほとんどないといいます。

昆虫が苦手な人がいるのは当たり前で、食べたくない人たちに無理強いするつもりはまったくありません。「他の食材と同様に、個人の判断で食べる、食べないが決められることが重要だと思っています」

「押しつけ」ではなく「自由な選択肢のひとつ」に

桜井さんは給食事件後、昆虫食の目指していく方向性について、それまでの「普及」ではなく、「主流化」と表現をシフトしました。

「普及という言葉にはトップダウン的なニュアンスが含まれると感じたのです。あくまでも他の食材と同じように、食べる食べないを決めるのは自分。明治時代までは一般的ではなかった牛肉食がいまでは多くの人に受け入れられているように、正しい情報をもとに自由に選択できる中で昆虫食が広がっていくことをめざしたい」

これまで、食品メーカーからの求めに応じてコオロギパウダーをおいしくしようと開発を続けてきましたが、その過程で、「新鮮でおいしいコオロギ」を生産することが可能になったといいます。「パウダーありきだと思っていたが、なぜパウダーにする必要があるのか疑問に感じた。コオロギでしか作れないものがあるのではないか」

最近では、素材を生かす方向で素揚げを極めた「究極の揚げコオロギ」や肉質食感を生かした「コオロギ肉」を開発しました。「外骨格のサクサク感や特有の風味。コオロギじゃないとできないものがある。コオロギはまだまだいける」と自信を深めているそうです。

究極の揚げコオロギ
究極の揚げコオロギ 出典: FUTURENAUT提供

桜井さんは、今後、昆虫食が多くの人々に受け入れられていくためには、単においしさを追求するだけではなく、「暮らしの中に自然に存在することができる」商品開発をしていくことが必要だと考えています。自然に存在するということは、取り立てて目立つわけではないけれども、欲しい人が自然に購入していく状況です。

そのヒントになったのが、イナゴの佃煮です。「コオロギが炎上したときでも、イナゴに関しては肯定的な人が多かった。それは、イナゴが昔から人々の暮らしの中にあったからではないか」

イナゴの佃煮は「伝統や文化」「家庭料理」というイメージがある一方、これまでのコオロギ粉末を使った食品は「科学」「SF」「工場」というイメージにあったと分析。イナゴの佃煮のように人々の暮らしに根付きながら、科学の力も加えたような商品を作りたいといいます。

「いままでのような、パウダーを入れて機能性を出したコオロギ食品という方向性よりは、暮らしに溶け込む自然さと、食品科学の技術を両立した〝おいしいコオロギ食品〟を開発したいと考えています」

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