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スペインになぜ巨大キノコ建築? 新国立にも影響の「都市の木造化」
木の加工技術が進歩し、強度や耐火性が格段に高まったことで可能性が広がりました。
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木の加工技術が進歩し、強度や耐火性が格段に高まったことで可能性が広がりました。
スペイン南部の都市セビリアを歩くと、イヤでも目に入ってくる建物があります。世界最大級の木造建築と言われる「メトロポール・パラソル」です。欧米では今、「都市の木造化」がトレンド。その流れは日本の新国立競技場にもつながっています。(田玉恵美)
市の発注で2011年に完成。展望台のほか考古学博物館などが入居します。コンペでドイツ人建築家の作品が採用されました。1万平方m超、サッカーグラウンドの1・5倍ほどもある敷地いっぱいに広がり、高さは28mもあります。
キノコのかさのように広がる屋根の部分などに、ドイツで加工したフィンランド産のマツ材が1300トン使われたそうです。施工したスペインの大手ゼネコン「サシール」によると、厚さ3~8ミリの木の板を重ねた素材を使いました。
「木の方が軽いうえ斬新なデザインでも自由自在に加工できる。コストも安かったのです」と広報担当者。構造計算で問題が生じて工期が延びましたが、特別に軽い接着剤を開発して完成にこぎ着けました。総工費は8900万ユーロ(約100億円)だといいます。
ほかにも欧州では10階建て程度の木造ビルが続々と建てられ、ロンドンでは80階建て、高さ300mの木造高層ビル構想も持ち上がっています。北米カナダではブリティッシュコロンビア大学が18階建ての木造学生寮を建設中です。
「都市の木造化」は、木の加工技術が進歩し、強度や耐火性が格段に高まったことで可能性が広がりました。バイオマス発電などのエネルギー源としても注目を浴び、国連機関などが2010年に出した報告書は、2030年までにEU域内の木材需要が少なくとも6割増えると予測します。
日本も無縁ではありません。戦後は長らく大型や市街地での木造建築には制限がありましたが、2000年の建築基準法改正で、耐火性能の証明などがあれば可能になりました。
横浜市では2013年に延べ床面積1万平方mを超える木造大型商業施設がオープン。2010年に木材利用促進法ができ、木造率が1割に満たなかった公共建築物についても国は低層のものは原則的にすべて木造にすることを決めました。
国産材の利用拡大につなげる意図もあります。新国立競技場にも木材がふんだんに使われる予定です。住宅以外の建築で「コンクリートから木へ」の機運が生まれています。
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