話題
「踊れない国」を変えちまった総力戦 署名で世論を可視化、DJが陳情
クラブユーザーや経営者、アーティストらの総力戦で実現した風営法の改正運動。「踊れない国」を「踊れる国」へとつくり変えた、巧みな戦略とは。
話題
クラブユーザーや経営者、アーティストらの総力戦で実現した風営法の改正運動。「踊れない国」を「踊れる国」へとつくり変えた、巧みな戦略とは。
午前5時前、ダンスフロアの熱気は最高潮を迎えた。重低音の渦のなか、一心不乱に体を揺らす女性。拳を突き上げ、歓声を上げる男性。どの顔にも笑みが浮かぶ――。先月23日、改正風俗営業法が施行され、深夜のダンス営業が条件付きで「解禁」された。一見、社会運動と縁遠そうなダンス業界がなぜ、短期間で法律を変えられたのか。そこには、声高に反対を叫ぶだけではない、巧みな戦略があった。
法改正は、クラブユーザーや経営者、アーティストらの総力戦で実現した。初期の改正運動をリードしたのが、2012年に設立された「レッツダンス署名推進委員会」だ。坂本龍一さんやいとうせいこうさんらが呼びかけ人となり、規制撤廃を求める15万筆超の署名を国会に提出。ダンスの自由を望む世論を「見える化」し、超党派の国会議員連盟へとバトンを受け渡した。
しかしここで、運動は壁にぶつかった。肝心のクラブ事業者が、警察の取り締まりを恐れて前面に立てない。状況を打開しようと、13年に登場したのが、DJやアーティストらでつくる「クラブとクラブカルチャーを守る会(CCCC)」だった。
表に出られない事業者に代わって、DJらがスーツ姿で警察や議員への陳情に動く。「PLAYCOOL(クールに遊ぼう)」を旗印に、クラブ周辺の早朝清掃などマナー向上運動にも取り組んだ。
「関係者の最大公約数をどう導くか。大切なのは対話です」
CCCC会長でラッパーのZeebra(ジブラ)さんは、先月21日に東京・渋谷のクラブであったシンポジウム「朝日新聞未来メディアカフェ」で、そう語った。
レッツダンスが「なぜ踊ってはいけないのか」という問いをたて、広く共感を集めた「WHY」の運動だったとすれば、CCCCは、いかにして法改正を具体化するのかを模索した「HOW」の運動だった。こうして個性の異なるプレーヤーが、足りない部分を補い合い、刺激し合うなかで改正運動は前進していった。
良く言えば多彩、悪く言えばまとまりに欠けるダンス界を束ね、縁の下の力持ちとして運動を支えたのは法律家たちだ。
永田町や霞が関でのロビー活動に奔走した斎藤貴弘弁護士は、先のシンポで「クラブ側の主張を『成長戦略』『クールジャパン』など、政治家の人たちにもわかる言葉に翻訳し、橋渡しをしていった」と振り返った。
夜間のダンス営業が合法化されたことで、今後ライブハウスやホテル、レストランなどクラブ以外の様々な領域でナイトカルチャーが盛り上がるだろう。一方で、営業可能エリアが繁華街などに限定され、いまだに許可のとれないクラブも多い。また、騒音などに不安を抱く近隣住民もいる。
風営法2.0から3.0へ、一足飛びにバージョンアップするのは難しい。法改正はゴールではなく、スタートだ。地域の信頼を得つつ、ソフトウェアのように2.1、2.2と少しずつ制度のアップデートを重ねていくしかない。
「悪法もまた法なり」。ひどい法律でも従わねばならないとの格言だが、風営法の改正運動を見ていて、もう一つ意味を付け加えたくなった。悪法も法律である以上、やり方次第で変えられるのだ、と。
1/20枚