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「死にそうで暇なでぶ」“一発屋”髭男爵、健康番組は貴重な食いぶち

上半身をさらけ出すとプロレスラーのようなコスプレ状態になった髭男爵の山田ルイ53世さん
上半身をさらけ出すとプロレスラーのようなコスプレ状態になった髭男爵の山田ルイ53世さん 出典: サンミュージック提供

目次

 スケジュールに余裕のある“一発屋”にとって収録に時間のかかる健康番組は大事な出番の一つ。しかも髭男爵の山田ルイ53世さんは「芸能界でも三本の指に入る“でぶ”」を自認するキャラ。今日も生涯、何度目かの人間ドックへ出勤します。

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太っているから舞い込んでくる仕事

○月△日
「血液検査」→「ディナーショー」

とあるスケジュール。

“病と闘いながら、ステージに立ち続ける大御所歌手”のそれではない。
“一発屋”の“コスプレキャラ芸人”・・・僕のスケジュールである。

ディナーショーは、都内ホテルにおける企業パーティー。
酔客相手の、余興の仕事。
溢れる悲壮感、その源である“血液検査”の正体は・・・“健康番組”のロケである。
毎年一度はある、健康番組や、ダイエット企画からのオファー。
ひとえに、僕が太っているから舞い込んでくる仕事である。
残念ながら、お笑い芸人としての評価は、そこにはない。

ある日の営業先のポスター
ある日の営業先のポスター 出典: サンミュージック提供

不健康な人間しか呼ばれない

今や、百三十キロに迫る勢いの体重。
おそらく、芸能界でも三本の指に入る“でぶ”である。
蓄えられた脂肪は、熊であれば、軽く“ふた冬”は越せるほど。
暴飲暴食、不摂生の賜物であり、疑う余地もなく不健康。
そう・・・不健康な人間しか、健康番組には呼ばれない。

「ビリーズブートキャンプで一週間」
「毎日、エリンギを食べて二十日間」
奇妙な格安ツアー・・・もとい、健康を扱う番組の企画は、結構時間をとられる。
忙しい“売れっ子”には、なかなか難しい。
その点、僕は“一発屋”・・・時間的余裕も十分。
健康番組にうってつけの人材、それは、“死にそうで、暇なでぶ”・・・つまり、僕である。

ある日の体重計。「芸能界でも三本の指に入る“でぶ”」を自認する山田ルイ53世さん
ある日の体重計。「芸能界でも三本の指に入る“でぶ”」を自認する山田ルイ53世さん 出典: サンミュージック提供

仕事がないわけではないが、ムラがある

とは言え、時間があることが仇となるケースも。
歩くのは健康に良い。
昨今のウォーキングブームも手伝ってか、“歩数”をよく調べられる。
「一日、どれくらい歩いているのか?」
でぶの生活パターン、その実態調査。
“歩数計”を渡され、毎日の歩数を記録する。

先に断わっておくが、仕事がないわけではない。
現に、妻子を養い、家賃も払っている。
しかし、そこは“一発屋”。
当然、スケジュールは真っ黒ではない。
偏り、ムラがある。
突如として出現する、手帳の空白地帯、季節外れのゴールデンウィーク。
そんな時に“歩数計”・・・厄介である。

ある日の営業先。ちゃんと妻子を養っている山田ルイ53世さん
ある日の営業先。ちゃんと妻子を養っている山田ルイ53世さん 出典: サンミュージック提供

歩数計がカウントするのは仕事の“本数”

そもそも、休日はあまり外出しない。
よって、歩数は一向に伸びない。
一日、二日なら別に構わないが、それ以上となれば事情が変わる。
歩数計がカウントし、浮き彫りにするのは、もはや歩数ではない。
僕の仕事の“本数”、あるいは、休みの多さ。

歩数計のデータを見たスタッフが、
「全然歩いてないなー!だから太るんだよー!!」
「いやいや違うよ!これ、仕事がなくてずっと家に居たんじゃねーの!?」
「ああ、そっちか!アハハハハハハ」
・・・屈辱である。

仕事の入り具合が歩数計でばれてしまうせつなさ… ※画像はイメージです
仕事の入り具合が歩数計でばれてしまうせつなさ… ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

手で振ろうが、カウントは増えない

結果、用もないのに、家の近所をぶらぶらする。
最近の歩数計は優れもの。
手で振ろうが、カウントは増えない。
実際に歩くことでしか、歩数を稼ぐ術はない。
当たり前だが。
とにかく、これで、“ほどよく”仕事があるように見えるはずである。

しかし、今度は、所在無げに歩きまわる僕を見て、
「暇そうだな・・・仕事ないのかな・・・」
そう思う人が出てくる。
お手上げである。

高性能の歩数計を前に、歩かざるを得なくなる山田ルイ53世さん ※画像はイメージです
高性能の歩数計を前に、歩かざるを得なくなる山田ルイ53世さん ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

全ての穴は内視鏡の挿入を経験済み

“人間ドック”には、よくお世話になる。
検査結果を元に、
「山田さんの“余命”は・・・○○年です!」
「えーーーー!!」
残りの寿命を発表する、お馴染みの展開。
誰しも、一度は目にしたことがあるはずだ。

これまでに、何度、CTやMRIで、輪切りにされたことか。
口や鼻、果てはお尻・・・全ての穴は内視鏡の挿入を経験済み。
尿検査などお手のもの。
個室に入り、セルフサービスで、紙コップに採尿。
スタバの店員さながら、見事な手際である。
颯爽とレントゲン撮影をこなす様は、まるでモデル。
以前は、“下戸”だったバリウムも、今ではすっかり“いける口”に。

仕事で何度となく経験したという山田ルイ53世さん ※画像はイメージです
仕事で何度となく経験したという山田ルイ53世さん ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

テレビ的な花形「血液検査」

数多い、人間ドックの検査の中でも、“血液検査”は花形である。
「血が“ドロドロ”か?“サラサラ”か?」
テレビ的な“見せ場”があるからだ。

一般的に、血がドロドロだと、血管系の病気になるリスクが高まる。
当然、サラサラの方が良い。
しかし、不健康を見込まれてのオファーである。
「サラサラでしたー!」
では格好が付かない。
お笑いで言うなら、“滑った”のと同義。
盛り上りに欠ける。

かといって、検査前日に暴飲暴食、そんな小細工は無駄。
その“付け焼刃感”はしっかり数値に現れる。
日頃からの不摂生、その積み重ねが肝要。
誤魔化しは効かない。

悪い数値を出すのにも準備が必要だという… ※画像はイメージです
悪い数値を出すのにも準備が必要だという… ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

「頼む・・・ドロドロであってくれ!」

モニターの大画面に映し出された僕の血液、その流れ。
画面の上方から下方へと、移動していく“赤血球”。
「頼む・・・ドロドロであってくれ!」
そう願わずにはいられない。
ふと見やれば、スタッフも同じ気持ちなのだろう・・・神妙な面持ち。

今や、僕の赤血球は、夜空を駆け抜ける“流れ星”・・・その一筋の煌めきに、人々は願いを託す。

血がドロドロ。
その延長線上にあるもの・・・それは、僕の“死”。
極論すれば、
「山田よ・・・頼むから死んでくれ!!」
その場にいる全員が、僕の死を願い、祈っている。
僕も含めて。
不思議な一体感である。

国会議事堂を見下ろす山田ルイ53世さん。健康番組で不健康な数字を期待される稀有なキャラクター
国会議事堂を見下ろす山田ルイ53世さん。健康番組で不健康な数字を期待される稀有なキャラクター 出典: サンミュージック提供

「いやいや、もう僕、死んでるじゃないですかーー!」

無事、ドロドロとなれば、
「うわぁーー!これヤバイでしょ!?僕、絶対死ぬじゃないですかーーー!!」
悲鳴を上げてみせるが、その実、ホッと胸を撫で下ろしている。
これなら、“残りの寿命”の件も大丈夫。
きっと、余命幾ばくもないはず。
あわよくば、
「いやいや、もう僕、死んでるじゃないですかーー!」
そんな、最高の展開もあるかもしれぬ。

東に体に良い物があると聞けば行って食べ、
西に斬新なダイエット法があると聞けば行って試す。
言ってしまえば、“モルモット”。
旬でもない“一発屋”には、それくらいしか使い道がない。
いっそ、背中に、“耳”でも生えていれば、再び“売れっ子”になれるのだが。
モルモットの役割は生きること。
それにも増して、求められるのは・・・死ぬこと。
僕の“死に様”で、お茶の間の人々は、健康の大切さを再確認する。
死んでこそ、果たせる役目がある。

そもそも”でぶイジリ”をあまりされない。
手前に置かれた、“貴族”や“一発屋”といった“キャラ”のせいで、“でぶ”にまでイジリが届かない。
芸人としても、一人の人間としても、ただの贅肉。
その無駄が、唯一仕事になるのが健康番組。
モルモットだとしても・・・ありがたいのである。

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