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コラム

ばびろんまつこ 私たちは誰でも心に「彼女」を飼っている 北条かや

セレブ生活と詐欺事件で話題を集める「ばびろんまつこ」。なぜ注目されるのか。ライターの北条かやさんは「誰でも心に彼女を飼っている」と言います。

「ばびろんまつこ」のツイッターアカウント。セレブ生活の投稿が話題を呼んでいる
「ばびろんまつこ」のツイッターアカウント。セレブ生活の投稿が話題を呼んでいる

目次

 「セレブ生活」とその後の詐欺事件で注目を集めているツイッターアカウント「ばびろんまつこ」。ライターの北条かやさんは、自身のナルシシズムを客観的に140文字で表現できる「頭の良さを感じた」と言います。そして、「私たちは誰でも、心のなかに『ばびろんまつこ』を飼っている」と指摘します。なぜここまで、ネット上の関心を引くのか。北条さんに聞きました。

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ほうじょう・かや ライター。若者論やジェンダーの問題を中心に執筆。「整形した女は幸せになっているのか」(星海社新書)では、インスタに整形のプロセスを投稿する女性の心理を分析した。(撮影:青山裕企氏)
ほうじょう・かや ライター。若者論やジェンダーの問題を中心に執筆。「整形した女は幸せになっているのか」(星海社新書)では、インスタに整形のプロセスを投稿する女性の心理を分析した。(撮影:青山裕企氏) 出典:北条かや(@kaya_hojo)さん | Twitter

繰り広げられる「お祭り騒ぎ」

 「偽ブランド詐欺女『ばびろんまつこ』の虚飾生活」、「ネットの有名人『ばびろんまつこ』の正体 詐欺で逮捕、かつては大手ITの美人広報?」――10月末、ある女性(26)が、高級ブランド「カルティエ」の偽物をネットオークションで販売したとして、逮捕された。

 その女性の本名は、あえてここでは言わない。ただ、ネットでは容疑者が「ばびろんまつこ」なる「”キラキラ女子” ツイッターアカウント」ではないかとの噂が盛り上がり、炎上中だ。テレビ番組も追随し、容疑者女性と「ばびろんまつこ」のプロフィールを比べて検証するという「お祭り騒ぎ」が繰り広げられている。

 11月上旬になっても、騒ぎは収まりそうにない。もし、ネットオークション詐欺の容疑者女性と、「ばびろんまつこ」が同一人物であるとしたら……私は、たくさん、たくさん、彼女と話したいことがある。


「ばびろんまつこ」に見られていると思うと、嬉しかった

 事件発覚後、「ばびろんまつこ」さんのツイッターアカウントには一気に万単位のフォロワーがつき、11月11日現在で約2万7000人まで増えた。私は、彼女がまだフォロワー数千人の頃、「ばびろんまつこ」にフォローされていることに気づき、嬉しかったのを覚えている。

 「ばびろんまつこ」がフォローしている人数は、たった169人なのだ。その1人に自分が入っており、時々ツイートを見られていると思うと、妙な高揚感があった。

 どうして彼女は、私をフォローしてくれたのだろう。私はどちらかといえば、「ばびろんまつこ」のような、都会的で恋愛的でセクシャルなキャラではなく、「こじらせ女子」と揶揄され、「女」との距離感を測りかねているタイプだ。彼女のように「女」を謳歌している「キラキラ女子(※とネットでは言われているが、個人的には「ギラギラ女子」だと思う)」とは正反対だ。それでも「北条かや」という存在に、「ばびろんまつこ」が何らかの興味を持ってくれたのかと思うと、嬉しかった。

 というのは、彼女のツイートから、女を楽しむ華やかなセレブ生活が楽しくて仕方がない! 自慢したい! という悦びとナルシシズムと、ちょっぴりの「男性嫌悪」を感じたから。そして、その感情を客観視し、140文字へと昇華させる頭の良さを感じたからだ。


「転職した」ツイート、昨年夏に変化が?

 事件発覚後、彼女のツイートを遡ってみた。高級ブランドのバッグを色違いで購入したり、料亭や海外のリゾートへ出かけたり。およそ「普通のOL」ができる生活水準ではない。それらの様子は、たまにセクシーな胸元や脚の写メと共にアップされる。彼氏はいないが、男性には困っていない、というようなツイートもあった。

 「私はセクシーで貢がれたりもするけれど、男には媚びない。媚びなくてもあちらから寄ってくるから」そんな雰囲気がある。憧れる人も多かったろうが、「なんだこいつ、女を売りにしてズルい」と思った人も多かっただろう。「それみたことか、やっぱりこんな女が、楽してセレブ生活をするなんて、犯罪でもおかさない限り無理だったのだ」「化けの皮が剥がれて、彼女は今どれだけ苦しんでいることだろう」と、ほくそ笑むような感情が、あちこちから噴出している。




 2年ほど前から彼女のツイートを見ていたが、彼女がこんなにも豪華な生活をアップし始めたのは、そう昔のことではない気がする。少なくとも私が、「ばびろんまつこ」にフォローされたと気づいた頃は、ここまでの頻度ではなかった。あからさまなセレブ投稿が増えたのは、彼女が「転職した」とツイートしていた昨(2014)年7月頃からではないかと思う。もちろんすべて憶測だが、「ばびろんまつこ」のなかで、何か変化があったのかもしれない。



「セックスは気持ち悪くて嫌」

 今年に入ってからは、ツイートに変化がみられた。お金持ちの男性からの援助で成り立つ(と演出される)セレブ投稿の数々に混じって、「(略)セックスは気持ち悪くていやだなあ、婚前契約に盛り込まないとなあ、とぼんやりと考える金曜の午後。」など、「セックスは嫌い」というツイートが目立つようになった。




 「男」は好き。自分を承認してくれるから。でも、セックスは嫌なのだ。かつて、ラディカル・フェミニストのドウォーキンは、「性関係はすべて性差別である」と言い放った。

 ここでその主張に立ち入ることはしないが、性愛の関係になってしまうと、女は(男もそうかもしれないが)相手に媚びなければならない。男の前にひれ伏して女性器をさらけだし、「負け」のポーズを取らなければならない。そこに快感を覚える女もいるだろうが、「ばびろんまつこ」は違った。「私は絶対に、特定の男にすがって媚態をとるのはイヤ。性的な女としてではなく、純粋な『女の記号』として存在したいのよ」という感情が、ツイートからは感じられる。

 セックスにおける「支配-被支配関係」から逃れることができれば、「女としての『ばびろんまつこ』」は完全に、男から貢がれる存在として、強者のままでいられる。どこかで相手に媚びなければ成り立たない性愛関係を抜きにして、偶像崇拝のように男から崇(あが)められる「女」になることができるからだ。まさに偶像=アイドルである。


私たちは誰でも、「ばびろんまつこ」を飼っている

 「ばびろんまつこ」はこうして、アイドルになった。少なくともツイートの世界の中では。男からたくさん貢いでもらい、豪華なセレブ生活を満喫しながら、決してセックスはさせない。私の「女」には、それだけの価値があるからだ。セックスさせてあげなくても、男は寄ってくる。「私」という偶像=アイドルに惚れ込んで――。彼女は、そんな「最強の私」に、どんどん没入していっているようにも見えた。そして、当の事件が発覚した。

 楽してセレブな生活を送り、ちやほやされたい。そして、それを自慢したいという思いは、多くの人がもっているものだと思う。だからこそ、メディアはセレブタレントの生活を報じ、女性誌は特定のセレブを「理想」として、消費のロールモデルにさせる。

 彼女にはなれなくても、近づける。そう思っているとき、女たちの心中には、「あんな風になった私」というナルシシズムが、ふつふつと生まれては溶ける。そうなのだ。私たちは誰でも、心のなかに「ばびろんまつこ」を飼っている。

 あんな風に、美貌だけで男を惹きつけ、楽して豪華な生活ができたら……すべての女性がそう願っているとは言わないが、たとえば童話の『シンデレラ』だって、結局は「男から偶像として崇められ、玉の輿にのって幸せ」という物語ではないか。そこに(結婚後の生々しい生活を含め)セックスの臭いはない。

 ディズニーの『シンデレラ』は、セックス抜きにした、綺麗な「女の記号」に男が大枚をはたいて幸せ、というストーリーだ。セックスにおける「支配-被支配関係」さえなければ、ある種の女は「お姫様」になれる。そのナルシシズムの誘引力たるや……。


「世のあらゆる煩悩を果たすこと」とナルシシズム

 もし、ネットオークションの事件が真実だとしたら、彼女はひとり、そのナルシシズムを飼い慣らし切れなかったのかもしれない。そして私たちもまた、心のなかに「ばびろんまつこ」を飼っているからこそ、ナルシシズムに溺れてしまった彼女をみて、我が危うさをも感じてしまうのではないか。

 少なくとも私は今回の件で、自分の心中にも「ばびろんまつこ」がおり、彼女と同じように、ナルシシズムに溺れそうになる瞬間があることを自覚した。ただ、それを実現する「資源」がないだけだ。できるなら、彼女と会って色々話してみたい。

 そういえば、彼女は以前、フォロワーから「まつこさんの人生の目的はなんですか?」と聞かれ、次のように答えていた。「――世のあらゆる煩悩を果たすこと」。彼女の煩悩は、ナルシシズムの別称だったのかもしれない。

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