感動
「ありがとう」と口に出すより… 早稲アカ創業者「付箋」で支えた妻
早稲田アカデミー(ワセアカ)創業者夫婦。お互い経営者である2人には、特別は思いやりの方法がありました。
感動
早稲田アカデミー(ワセアカ)創業者夫婦。お互い経営者である2人には、特別は思いやりの方法がありました。
「ありがとう」「ごめんなさい」――。そんな簡単な一言が伝えられなかった経験はありませんか? 「長年連れ添った夫婦であれば、なおさらだ」と思っている人もいるのではないでしょうか。共働きでお互い時間がすれ違うことの多かったある夫婦は、気持ちを付箋(ふせん)で伝え合いました。夫が亡くなって7年。妻は命日に再び、付箋のメッセージを供えました。
「あと40年は生きるから、天国からの応援よろしくね!」
今年5月、こう書いた付箋を須野田珠美さんは仏壇に供えました。この日は、夫で、進学塾「早稲田アカデミー」の創業者である誠さんの命日でした。
大学の演劇サークルを通じて知り合ったという2人。卒業後に結婚し、一緒に早稲田アカデミーの前身となる会社を設立しました。数年後、会社の株式上場が決まったのを機に専業主婦に。毎朝9品のおかずをつくるのを日課にしていたそうです。
あるとき、自宅でロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」を楽しんでいたとき、誠さんから「お前も会社つくるとかしたら」と言われました。
「専業主婦時代、『数字に強くなれ』とか、組織論の話とかよく聞かされていました。私に対して『何か起業すべきだ』と思っていたんでしょうね。当時はアラフォーでしたが、まずはノウハウを学ぼうと会社員として働くことにしました」
選んだのは、結婚相手紹介サービス「ノッツェ」を運営する結婚情報センター(本社・東京)。アドバイザーからスタートし、営業本部長などを経て、20年以上たった今では社長にまで登りつめました。
「平社員として一からはい上がるのも、大好きなドラクエのスキルアップのリアリティー版のようで、とっても楽しかった」と笑います。
お互いに忙しく、時間が合わないこともあった夫婦生活。珠美さんは、ちょっとした工夫で、自分の気持ちを伝えていました。
ケンカした翌朝、洗面所のミラーに。
ご飯をつくって自分が先に家を出る時、テーブルの上に。
夫が残業続きのときには、お風呂のドアに。
早く帰ってきてほしい時は、靴の先に。
週に2回は付箋を貼ったという珠美さん。反応を見るのが楽しみで続けていましたが、いつのまにか誠さんもメッセージを返してくれるようになったそうです。
ケンカの翌日、珠美さんのパジャマの背中には「生きてるだけで丸もうけ」と油性ペンで書かれていました。
付箋のメッセージを始めた時期は、ノッツェで働き始めたころ。互いに仕事が忙しく顔を合わせる機会が前より少なくなってきた頃でした。
「夫婦って、ついつい『口で言ったからわかったでしょ』と思いがちですが、意外と聞いてなかったりするものです。簡単なメッセージを付箋に残すことで、『どういうつもりでこれを書いたんだろう』って思いをはせながら読んでもらえるから、心に残ります。どんな言葉を、どんな場所に、どのタイミングで貼るかが腕の見せどころでした」
いっしょに会社を立ち上げたからこそ知っている夫の仕事の苦労。どうすれば少しでも疲れを癒やすことができるかと思って始めましたが、お互い真面目な話になると「朝まで生テレビ状態」(珠美さん談)になるため、それを避けるための工夫でもあったそうです。
「恋人と違って、夫婦は『一生を添い遂げる』という契約のもとに生活しています。来るか来ないかわからない妄想の未来ではなく、自慢できる過去でもなく、今を生きています。自分の能力を仕事・家庭と分けることなく、今のために生かしてください。とちらも求められる能力は同じなんですから」
唯一の後悔は、付箋をその都度捨ててしまったこと。これから始めてみたい人向けにアドバイスがあるそうです。「ノートに貼って、日付けを書いて夫婦の歴史として残しておくのをオススメします」