連載
#26 小さく生まれた赤ちゃんたち
小さな赤ちゃん救う〝母乳バンク〟 「供給の限界」迫り支援呼びかけ
クラウドファンディングで費用を募っています
早産などで小さく生まれ、母親の母乳を得られない赤ちゃんのために、ほかの母親(ドナー)から寄付された母乳(ドナーミルク)を提供する。そんな「母乳バンク」の取り組みが広がっています。
十分な体重で生まれた丈夫な赤ちゃんの場合、粉ミルクを与えても問題ありません。しかし、1500g未満で小さく生まれた赤ちゃんは粉ミルクだと消化吸収できず負担になり、命を落としてしまう危険もあるそうです。
母乳バンクが提供するドナーミルクは年々増えている一方で、「供給の限界」が迫っているといいます。
「ドナーミルクが赤ちゃんの命をつなぐ栄養になっています。ドナーミルクが途絶えてしまったら、赤ちゃんやご家族に大きな影響を与えてしまう」
日本母乳バンク協会の代表理事で小児科医の水野克己さんは、そう危機感を募らせます。
母乳バンクは、ドナーから寄付されたドナーミルクを低温殺菌処理し、安全性を確認した上で病院からの要請を受けて提供しています。NICU(新生児集中治療室)のある施設で使われており、担当医が医学的に赤ちゃんにドナーミルクが必要だと判断した場合にのみ利用されます。
ドナーミルクを利用するのは、早産などで1500g未満と小さな体で生まれた「極低出生体重児」が中心です。水野さんによると、年間5000人ほどがドナーミルクを必要としているといいます。
1500g未満で生まれた赤ちゃんは、腸など様々な器官が未熟で、病気や感染症のリスクが高いと言われていますが、母乳にはそのリスクを減らす効果があります。
日本小児科学会などは提言で、1500g未満で生まれた赤ちゃんには母乳が「最善の栄養」であるとしています。一方で、母親の体調不良などで母乳が十分に出ないケースもあります。その場合は、「ドナーミルクを用いる」としています。
十分な体重で丈夫に生まれた赤ちゃんは、牛乳由来の粉ミルクや液体ミルクを問題なく消化吸収できますが、小さく生まれた赤ちゃんは成分をうまく消化できず、負担になってしまうそうです。
年々ドナーミルクを利用する病院は増えています。2022年度で75施設でしたが、2023年度には100施設を超える見込みです。
赤ちゃん1人あたりのドナーミルク消費量も増えていて、2019年の想定では平均1.5リットルだったところ、現在は2リットル程度になっているといいます。
しかし、日本母乳バンク協会の水野さんは「日本は世界的な標準よりも早い段階でドナーミルクから粉ミルクに切り替えているため、今後は2リットル以上になる可能性もある」と指摘します。
ドナーミルクの需要は高まっている一方、母乳バンクが抱えるのは設備面の課題です。
現在、東京・日本橋にある母乳バンクには、低温殺菌処理器が1台しかありません。水野さんによると、仮に機械が故障してしまった場合、販売元のイギリスに輸送して修理が必要で、数カ月にわたって業務が止まってしまうそうです。
一度に処理できる量も2.7リットルと少ないこともあり、新たにイギリスの最新式低温殺菌処理器の購入を考えましたが、物価高と円安の影響で、想定していた1500万円をはるかに超える2300万円が必要となりました。
低温殺菌処理器の購入資金の一部をクラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、多くの人に注目され、目標金額の1500万円を達成しました。
しかし、実際の購入費用には届いておらず、今後さらに価格が変動する可能性もあります。
「母乳バンクは北海道から沖縄まで、多くの赤ちゃんの命を支えています」と水野さん。「今後ドナーミルクを利用する赤ちゃんが増えてきたときのために、しっかりと体制を整えておきたい」と話します。
日本母乳バンク協会は12月29日まで、クラウドファンディングで支援を募っています。
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