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「ATMで何が悪い」アイドルヲタの美学 大金注ぎ込む“本当の理由”
ここ数年のアイドルブームで、アイドルオタク人口はずいぶん増えました。一方で、アイドルとファンの距離のとり方には難しい面もあります。アイドルとオタクって、どんな関係なのでしょう? 「正しいドルヲタの作法」とは、なんでしょう? 朝日新聞社内にひっそりと生息するドルヲタ師弟記者が、熱く持論を語ります。
「最近、ドルヲタに普通の人が増えたよねえ。昔のヲタはアイドル以外のことは気にしないから、風呂にもあまり入らず、においがきつい人もいたけど、そういう昔のヲタ色が薄まったよ」
そう語るのは、桝井政則記者(48)。大阪本社生活文化部のデスクです。中学1年生の時から、30余年のドルヲタ歴を誇ります。
AKB48の選抜総選挙は第1回から会場で見ています。東京に単身赴任していた昨年まで、休みはほぼアイドルイベントに参加していましたが、大阪勤務になってからは自宅でDVDを見るなどの「在宅」活動に専念しています。
ちなみに、桝井記者は「風呂にはちゃんと入る派」です。
「確かに。アイドルブームの影響で、『ヲタ風』をにおわせることも自分を売り出す個性のひとつという、プラスの側面ができましたよね」
うなずくのは、阪本輝昭記者(39)です。大阪本社社会部で、若手記者のまとめ役をしています。ドルヲタ歴は6年。桝井記者をヲタ師匠と仰いでいます。月に1度はアイドルイベントに参加し、アイドルの誕生日を祝う「生誕祭」を企画する「生誕委員」に加わったこともあります。
2人は、アイドルとファンの間で起きがちなトラブルから、双方の「距離のとり方」を論じ合います。
「アイドルとヲタの距離が近くなった分、ヲタも自分をヲタだときちんと自覚する必要があるよね。『正しいオタ』っていうのは、彼女たち(アイドル)の夢を支えるためにいるんだから、一方的な気持ちを押しつけたり、夢を潰したりすることにつながることは、絶対したらダメ!」
「『自分はこれだけ応援しているのに、十分その思いに応えてくれない』などと不満を募らせてしまうのはちょっと違うと思います。どこかで一線を引く、美学をもったファンでないと…」
「アイドルに間近で会えるイベントは、ファンにはうれしいし、アイドル自身にも大事な仕事になっている。ネットで音楽がタダで楽しめる時代、CDやグッズを売ってお金をかせぐ場所は、アイドルが活動を続けるうえで必要なんだよ」
「付加価値が大事になってくると…」
「でもなかには、激しい『接触』、例えばハグ会や、キス会(台紙にキスマークをつけて手渡すなど)なんてイベントを開くアイドルもいたりして、距離感を見失うヲタが出る危険性はある。SNSで発せられた言葉を、自分だけに向けられた『私信』だと勘違いする人もいる。でも! ヲタとアイドルの間には壁があると自覚しないと!」
「自覚とは、なんでしょう?」
「客観的に見た時に自分はアイドルの金づるなんだ、という自覚。ある意味、『俺はあの子のATM!』っていう冷めた部分がないと。CDをたくさん買ってオリコンチャート上位に食い込めば、その子たちの可能性が広がるわけだし」
「ATMって言ってしまうと…。なんか身もふたもないように聞こえますけど」
「僕だって、『あの子にとって、自分は特別なファンだ』って思いたい気持ちはあるよ。でも、それはうぬぼれだと自覚しないと。ATMを自覚した上で、うぬぼれるくらいがちょうどいい。ヲタとアイドルの一体感は楽しいけど、一線は越えちゃいけない」
「距離感は大事だと思います。顔や名前を覚えてもらうのは誰にとってもうれしいことですが、それを相手に押しつけるようになると方向が違ってくる。僕個人はアイドルそのものというより、アイドルという生き方を選んだ人を推しているんだと思っています」
「生き方?」
「アイドルっていうのは、たぶん一つの生き方なんですよね。アイドル的生き方とは、あえて苦しい道を選んで上を目指す。その気持ちをもって、何かを始めた人のことだと思っています。いち社会人として、アイドルがファンを獲得していく過程から学べることは多いです」
「なるほどね~。僕は、アイドルらしいアイドルが好きなんだ。アイドルって未完成からスタートし、成長ぶりを見せてくれる。我々ヲタは、その過程に関わり、見守ることができる」
「成功が約束されているわけではない、筋書きのない同時進行のドラマとも言えます」
「何もできなかったおちこぼれが、夢をつかむ。歌もダンスも下手くそだけど、夢に挑戦したい子たちがいて、彼女たちを応援する手段が僕らにはある。原石を見つけ出して磨く、それがヲタのだいご味だよ」
「『売れて大きな存在になってしまったのに、あの頃と同じ笑顔を僕らに見せてくれる』。そこに『推しがい』というものがあるのかも知れませんね」
「アイドルって、みんなが恵まれた環境で活動しているわけじゃない。アイドルの仕事だけで生活できているのは幸せで、バイトしたり、厳しい環境でアイドルをしている人もいる。だから、お金の面でも、精神的な面でもヲタが支えてあげないと! 彼女たちが夢をつなぐためには売り上げが伸びないといけない」
「そこで得られるものとは何でしょうか」
「彼女たちが目の前にいてくれる、応援し続けられることが、僕にとってのリターンだよ。怖いのは、突然ステージから消えられることかな。一般人に戻って会えなくなるのは恐怖」
「ヲタ仲間の一体感も、大きいですよね。あの場所に行けば、仲間に会えるっていうのは、とても楽しいことだと思います。同じ人を推す者同士って、どこか似てるんですよ。そういう意味では、自分に欠けているもの、またはあるべき姿をアイドルに見ているのかもしれないというのが私の仮説です」
「そうかもしれないね」
「例えば、僕の場合は卒業して現在はタレントをしている元NMB48の山田菜々さんの立ち居振る舞いから、多くのことを学びました」
「何を学んだの?」
「彼女はいつも縁の下の力持ちで、あんまり前にでようとしない。謙虚さはアイドルにとってマイナスじゃないかと思っていましたけど、菜々さんを見て縁の下で支えて輝くキャラクターもあるんだと気づいたんですよね」
「へぇ~そうなんだ」
「菜々さんは誰にでも分け隔てなく接して、周りへの配慮もできる。どちらかというと自分優先で、下支えが苦手な自分には欠けているところばかり。自分の個性をどうやって出すか迷って機会を逸しがちだったところも自分の記者人生と重なり合うようで。その姿を見て『応援したい!』と思ったんです。アイドルとファンは二重写しなんです」
「僕は、歌っている姿を生で見て好きになるな。ずっとDDだったんだよ。『誰でも大好き』。特定のアイドルに没入すると、ほかのアイドルを見に行く時間がなくなるから、DDでいいと思ってた」
「でも今は違いますよね?」
「それが2013年春、『Doll☆Elements(ドールエレメンツ)』に一目ぼれしちゃった。メンバーが歌って踊る姿を見た瞬間、『ダメだ!出会っちゃった!』『会ってはいけない人に会った!』って心臓をつかまれる感じがした。そうなると、1分1秒でも長く見たい。その日は別のアイドルのライブにも行く予定だったんだけど、その場でチケットを破り捨てて、ドールエレメンツを見続けたよ」
「師匠と改めて語り合うと『こういう見方もあるのか』と勉強になりました。まだまだ新参者なので、これからもアイドルとヲタの世界を深く知りたいですね。やはり地道に努力を積み重ねているアイドルが報われて欲しいなと思うので、そういう人を応援していきたいです」
「僕は、これからも推しのアイドルを応援し続けられたら幸せだなあ。直に会うことに重きをおく『接触厨』なのに、大阪にいることもあって東京勤務時代に比べたら現場から離れてしまっているから、大阪でイベントが増えて現場に行く回数を増やせたらいいな」
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