連載
#6 LGBTのいま
ゲイバーで痛い女性客 居場所ない・勘違い…薔薇族編集長に聞く
ゲイバーとは、その名の通り、ゲイによるゲイのためのお店です。ただ、女性のお客さんが来ることも、珍しくないそうです。ゲイバーに来る女性とは、どんな人たちなのでしょう。また、女性が行く場合、どういうことに気をつければよいのでしょうか。ゲイ雑誌「薔薇族」編集長の竜超さん(52)に聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
――ゲイバーに女性が来るようになったのは、いつからなのでしょう?
「ゲイバーによく来る女性は、『おこげ』と呼びます。『オカマ』にくっついてるから『おこげ』。自虐的に本人たちが付けた名前です。昭和の頃からあった言い方ですね」
「ただ、急にわーっと増えたのは、バブルの頃だと思う。あの時は女性もお金を持っていて、『オヤジギャル』っていう人たちがいたでしょ? ゴルフをやったり競馬をやったり、男の領域に入ってきた女性たちです。その流れのひとつで、ゲイバーにも来たんだと思う」
「90年代に起きたゲイブームもほぼ同時のことですね。ゲイブームは女性誌が火付け役でした。そういう流れで、ゲイバーへの敷居が低くなったんだと思います」
――「ゲイバーに行ったことがないけど、興味がある」という女性もいます。女性が行っても迷惑にはならないのでしょうか?
「お店によりますよ。ゲイバーには3種類あります。(1)観光バー。観光地なんだと割り切って、女性でも誰でも受け入れているゲイバー。最近の観光バーは道ばたに『女性歓迎』という看板を出していますから、見分けやすいですよ」
「(2)ミックス。観光まで門戸は広げないけれど、女性でもOKというタイプです。いま新宿2丁目ではこのタイプが一番多いかな。LGBTに理解のある人たちが、ゲイの友人と一緒に行く場所。ゲイの友人がいる女性は、一緒に行ってみてください」
「(3)は絶対に女性はNGタイプ。なので、もしゲイバーに女性が行きたいなら、(1)か(2)ですね。ただ、(2)でも女性客が多くなると嫌だと言って帰る客もいます。年配ほど、女性を嫌がりますね。昔の価値観なのかな。いわゆる『女性性』に病的なまでに嫌悪感をもつ人はいます。『女のにおいが嫌』とか」
――「おこげ」のような女性たちは、なぜゲイバーに来るのでしょう?
「男性的なジェンダーが支配している場所は息苦しいと感じる女性が来ることがありますね。日頃『俺は男だ! お前は女らしくしろ!』と押し付けられて、窮屈な思いをしている人たち。ゲイバーにはそういうものがないのがいいようです」
「あと、ゲイは競合しない相手だっていう安心感もあるのかも。女同士って、価値観は合うけど、ライバルでしょ? 男だとそもそも価値観が合わないから会話が成立しない。ゲイって話は通じるうえにライバルにはならない。ゲイは女性にとって一番都合が良い存在なんですよ」
「女性って自分の存在を脅かすものには鉄壁の守りを見せるじゃないですか(笑)。そういうのがいらないのがいいのかもしれません」
――竜さんのご著書「オトコに恋するオトコたち 誰も教えてくれなかったセクシュアル・マイノリティの世界」(立東舎)に書かれていて驚いたのですが、ゲイバーで傍若無人な振る舞いをしてしまう女性がいるんですね。他の客(ゲイ)にお酒をかけても謝らずに笑っているとか。
「おっぱいを出す人もいますよ(笑)。ゲイバーはノーマルな世界じゃないから、何をやっても許されると思っているんでしょう。普通の場所よりも、羽目の外し方がひどいです。ゲイを自分と同じ世界の人間と思ってないんでしょうか。オリの外から眺めるような。これは男女問わずそうです」
「傍若無人系の『おこげ』は嫌われます。『私が主役。私はどこにいってもモテるのよ』という顔で大きな態度をとる人たち。昔のオヤジギャルもそんな感じでした。ゲイだっていろんなタイプがいて、静かに飲みたい人もいるし、こういう女性の『男は私を優遇しなさい』っていう勘違いした態度にカチンとくる人は多いです。ゲイバーは、あくまでゲイのための店なんですから」
――他にはどういうタイプの女性が来ますか?
「あとは、自分の居場所が無いっていう女性も来ますね。普段、男性からは女扱いされず、女性からも『扱いづらいおつぼね』と見られて、『私のこと分かってくれるのは同じ立場のオカマだけ』と、やってくる」
――「同じ立場」とは……?
「つまりは『モテレース』から外れてるということです。モテないし、子どもができる見込みもないし、将来に希望もないし。だから『この気持ちを分かってくれるのはオカマだけ』と。ゲイバーの店員とそういう女性が『お互い将来孤独だから一緒に暮らそうか』なんて笑い話をしてますよ」
「BL(ボーイズラブ)が好きで、『ホモが見たい!』って言ってやってくる腐女子もいますけど、それも落ち着いてきたというか。昔って、そもそもゲイが珍しかったから見に来たんでしょうけど、最近はそこまででもないので。もっとニュートラルな視点というか、サブカルチャーのひとつとしてのゲイバーを見に来る、という人が多いですよ」
――ゲイバーに来る女性たちに、ゲイに対する誤解や偏見はありますか?
「テレビの影響ですが、ゲイ=『あたしオカマよー』っていうタイプだと思っている。全然違う人たちも多いんですが。『笑わせてくれるんでしょ?』って来る人もいますね」
「あとは、ゲイの言葉をやたら有り難がる人たちもいます。ゲイの言葉はなんでも意味があって深いと思ってるんですよね。毒舌で、皮肉屋で、でも本質をズバッと突いているっていう思い込み。実際には、前の日に振られて機嫌が悪くて毒舌を吐いただけかもしれないのにね。テレビタレントの影響でしょう」
「以前、初対面の女性に『私のことけなして!』って言われたこともありますよ。初めて会ったのにどこを叱っていいかなんて、わかるわけないじゃないですか(笑)。」
「あと、『ゲイはつらい思いをしてきたから、優しい』っていう思い込みもありますね。武田鉄矢さんの影響でしょうか。『人は悲しみが多いほど 人には優しくできるのだから』っていう」
「いやあ、苦労って限界があるんですよ。一定以上の苦労をすると許容量を超えちゃって、人格がゆがむ人もいるんだから(笑)。苦労を受け入れて器を大きくする人ももちろんいるけど、苦労しすぎて根性ゆがむ人だっていますよ」
「それなのに、『私のことを考えて厳しく言ってくれてる』って受け取っちゃう女性はいる。なんか宗教っぽいなと思うこともあります。本当にどうでもいいことしか言わない人も多いのに。まるでお布施を払うようにゲイバーに来る女性もいますよ」
「あと逆に、『私はLGBT理解者です!』って言う人も来ますけど、本当にそうなのかは人によります。よくよく話をしてみたら、ハナから『かわいそうな人』と決めつけた扱いをしているとか」
「『ゲイだから不幸なんでしょう?』って、けっこう言われますよ。過剰に優しくしようとする。そういう時は『そうですね。あなたと同じくらい不幸ですよ』ってこたえます。こちら側とあちら側っていうふうに、人間を分けて考えているんですよね。同じ人間なのに」
――なんだか、申し訳ない気持ちになってきました……。
「そういう勝手な思い込みや押し付けって、別に女性だけじゃないですよ。例えば逆にレズビアンバーに男性が行くこともあるんですけど、男性がレズビアンの女性に『過去になんかトラウマがあってレズビアンになっただけだろ? 俺が治してやるよ』って言うことが今でもあるそうですよ。これも、自分の立場と相手のコミュニティーを分かってない言動ですね」
「そして『俺が主役』っていう根拠のない自信。男性で『AV女優は過去につらいことがあって、本当はやりたくないけどやっている可哀想な子なんだ』って思い込む人がいるのも、同じですね」
――ゲイバーとか、「おこげ」とかいうより、つまりは人として、ちゃんと振る舞いましょうっていうことですね。
「ですね。どういうタイプの女性でも、ゲイバーに行く時は、自分がビジターであることをちゃんとわきまえることだと思います」
「ゲイによるゲイ向けのお店なので、一般の場所とは価値観が違います。たとえば異文化交流と同じですよ。違う属性のコミュニティーに行く時は、相手との距離をはかるでしょう? 海外で日本のやり方を強引に押し通したら嫌われるのと同じです」
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竜超(りゅう・すすむ) 52歳。2011年7月からゲイ向け雑誌「薔薇族」の編集長。「オトコに恋するオトコたち」(立東舎)など性的少数者に関する著書多数。
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