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官邸災害ツイッター「霞が関文学の呪縛が解けた」下村健一さんに聞く
東日本大震災直後に作られ、一気に20万人が登録した官邸災害ツイッター。情報が早くて便利だが、権力のつぶやきを直接受ける時気をつけるべきことは。ツイッター誕生から10年。当時官邸で広報にたずさわったジャーナリストの下村健一さんに尋ねた。
――官邸は震災2日後、ツイッターを始めました。
「震災後、やれることはすぐにやろうという話になり、ツイッター社も本物認定マークを早くだしてくれました。政府と国民を直結するコミュニケーションを阻んでいた壁も、震度7で崩れたようでした」
「一つ大きかったのは通常の伝達ルートが断たれてしまったことです。県庁が機能停止、地方メディアが被災したなかで、直でやるしかないと。霞が関の文書は練るのに時間がかかりますが、広報のトップを務める内閣広報官が『私がつぶやくよ』と言ってくれた。最終決定者自らツイートすることで、即時発信が可能になったのです」
――それまで、なぜやっていなかったのですか。
「即時・簡潔という点で、政治や行政にとって苦手なツールですから。とりわけ、ツイッターで躊躇したのは返信でした。全部に平等に返事しないと、つまみぐいと言われてしまうかも、とか。震災後も少し迷ったけれど、ものすごい数の通報・要請・質問来るだろうから、情報発信専用と割り切るしかありませんでした」
――これで政府の発信は変わりましたか。
「明らかに変わったでしょう。あの140文字という字数制限はよかった。発信する側も一番大事な140文字はなんだろうって考えて書き始められる。受ける側も、この範囲で伝えられることだけを伝えているんだ、ということを了解の上で読んでくれている」
「『もっと漏れなく書け』『そっけない表現』と叱られない。字数が自由なSNSだったら、霞が関は今まで通り『平成23年東北地方太平洋沖地震において』と冗長なお役所言葉に戻ってしまう」
「それを全部吹っ飛ばせるのは140文字の魅力というか威力。受け入れられ、こういう発信でいいんだと、霞が関文学の呪縛が解けました」
――マスコミを通さずに、国民と直接つながれるのは違いましたか。
「情報を出すべき時にすぐに出せます。それにやってみて気づいたけど、政府からメディアを通じての発信は国民は受け取って終わりでしたが、官邸災害ツイッターは国民が猛烈にリツイートした。いわば”第二の政府広報部”になってくれたようで、これはびっくりした。お任せ民主主義でない、みんなでつくる政府が広報部門で部分的に実現しているなって感じすらしましたね」
――ただ権力がそうなるというのは、怖い面もあるかもしれないですが。
「両刃の剣ですよね。権力が、自分が伝えたいことを効果的に国民に伝えようと思うのは、古今東西当たり前の話です」
「今までは、間に入るメディアが、矜持(きょうじ)として踊らされないぞとチェックしてきたわけですが、ツイッターは直でつながるから、一人ひとりが本当にリツイートしていいかを考えないといけないのです」
「3・11当時は、単純リツイートしかできなかった。今は116字のコメントつきで、自分で保留条件などを加えて情報を共有できるようになりました。すごくいい。民主主義の道具として、更に進化したなって思います」
――官邸ツイッターは今も使われています。
「また政府と国民のコミュニケーションの間に壁がつくられてしまってはいけないと思い、災害用に加え、平時用のツイッターも作りました。瞬時にああいうデリケートな情報を正しく出すには、常に実践で訓練していないと無理です」
「だからこそ北朝鮮ミサイル発射、人工衛星の落下とか、台風とか、常時オンザジョブ・トレーニングをしていくことが大事です。災害用のツイッターはいまや165万人が登録しています。2012年の北朝鮮の発射情報は、テレビのニュース速報よりも早く知れたと、ツイッターのなかでは絶賛されていました」
――震災時、ツイッターをめぐって印象的だったことはどんなことですか。
「放射能の危険度の判断で、ツイッターの中も本当に百家争鳴状態でした。冷静にこの避難規模で大丈夫という人もいれば、もっと逃げろ、危ないっていう人もいて。ツイッターの世界も二つに分かれ、互いをののしり合うようになってしまった」
「自分の好きな方だけをフォローしちゃうと、そちら側の情報だけががんがん入ってきて、世界がまったく違って見えてしまう。どんどん自分の意見が固まっちゃう。それはすごく怖いなって思いました」
「最近、出した私の本『10代からの情報キャッチボール入門』でも、インターネットは思い込みを固める道具ではなく、思い込みを壊す道具として使ってほしいと書いたのですが、状況は今も変わっていません」
「5年たった今、この二分状態からどうやって対話を架橋していくのかは、ぼくもやらないといけないことだと思っています。だがそれはもう140文字の世界ではない。ツイッターに求めてはいけない機能なのかもしれません」
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