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タトゥー禁止?〈2〉 彫り師、異例の法廷闘争決意「免許制」訴える

タトゥーの彫り師に対する、医師法違反容疑での摘発が拡大しています。取り締まりを受けた彫り師の側は、どのように受け止めているのでしょうか。無罪を主張し、法廷闘争の道を選んだ男性にインタビューしました。

医師法のタトゥー営業規制をめぐって法廷闘争に踏み切った、彫り師の増田太輝さん=2015年12月、大阪・吹田
医師法のタトゥー営業規制をめぐって法廷闘争に踏み切った、彫り師の増田太輝さん=2015年12月、大阪・吹田

目次

 タトゥーの彫り師に対する、医師法違反容疑での摘発が拡大しています。取り締まりを受けた彫り師の側は、どのように受け止めているのでしょうか。連載第2回となる今回は、無罪を主張し、法廷闘争の道を選んだ男性にインタビューしました。

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タトゥー禁止?〈1〉相次ぐ摘発 警察「無資格の医行為」
タトゥー禁止?〈2〉彫り師、「免許制」訴える
タトゥー禁止?〈3〉吉本ばななさん「臨機応変な判断を」
タトゥー禁止?番外編 横山健「とてもアンフェア」

罰金を拒否、異例の法廷闘争を決意

 大阪府吹田市の彫り師、増田太輝さん(27)は昨年4月、大阪府警に店を捜索され、警察官から「タトゥーを彫ってますね。許可を得ていないと医師法違反ですよ」と告げられました。逮捕はされなかったものの、複数回にわたって取り調べを受け、8月に医師法違反の罪で在宅のまま起訴されました。

 しかし、法律に対する疑問をぬぐえなかった増田さんは、異例の法廷闘争を決意。吹田簡易裁判所による罰金30万円の略式命令を拒否し、正式裁判を申し立てました。先月25日には、大阪地裁で公判前整理手続きが開始されました。

 主任弁護人の亀石倫子弁護士は「タトゥーは人類が古代から脈々と受け継いできた、身体装飾の表現。医師でなければタトゥーを入れてはいけないとなると、タトゥーを入れたい人の自己表現の権利まで侵害される。摘発は職業選択の自由や表現の自由など、憲法上の価値に対する配慮を欠いている」と主張。無罪を訴えています。

「タトゥーは芸術であり、作品です」と語る増田太輝さん=2015年12月、大阪・吹田
「タトゥーは芸術であり、作品です」と語る増田太輝さん=2015年12月、大阪・吹田

練習台買って出てくれた家族

 増田さんへの一問一答は次の通りです。

 ――彫り師を目指したきっかけは何だったのでしょうか。

 小さい頃から、絵を書いたりプラモデルをつくったりするのが好きでした。高校生の頃、音楽イベントでタトゥーを実演しているのを見て、彫り師の仕事に興味を抱きました。いくつかタトゥー・スタジオを見学して、「彫り師になりたいんです」と話したら、「自分自身も入れないといけない」と言われて。卒業後、左腕にウサギのタトゥーを入れたのが最初です。

増田太輝さんが手がけたタトゥー作品
増田太輝さんが手がけたタトゥー作品

 ――そのまま、すんなりと彫り師に?

 いえ、建設現場の監督見習いや作業員など昼間の仕事をしながら、夜にタトゥーの勉強を続けていました。朝方、仕事が始まる直前まで絵を描いていましたね。彫り師は自分の体を使って練習するので、僕の足なんかグチャグチャですよ。後で塗りつぶしたから真っ黒になっています。

 家族にも練習台になってもらいました。母親は内心、反対していたと思うのですが、「どうしても彫り師になりたい」と伝えると、「じゃあ入れてよ」って。手の指にクモの巣とクモを彫りました。そうやって練習を重ねて、自分の店を開業したのが2011年ごろのことです。

増田太輝さんが手がけたタトゥー作品
増田太輝さんが手がけたタトゥー作品

針は使い捨て、滅菌器も設置

 ――利用客はどのような人たちですか。

 世代は20代~30代後半、会社勤めの方が多いです。あとは、美容師さんとか、医療関係とか。亡くなったご家族やペットの命日を入れたこともあります。ただ、「恋人や夫婦の名前を入れてください」という依頼は基本的にお断りしています。やはりいつ別れることになってしまうかわかりませんし、勢いで入れて後悔してほしくないですから。実際、お断りした数カ月後に連絡を受けて、「入れなくてよかったです」と感謝されたこともあります。

衛生のため、ライトをテープで覆う様子を再現する増田さん=2015年12月、大阪・吹田
衛生のため、ライトをテープで覆う様子を再現する増田さん=2015年12月、大阪・吹田

 ――暴力団関係者も来るのでは。

 まったくないです。あらかじめ用意した「施術同意契約書」に、暴力団関係者や麻薬中毒者、感染症にかかっている人には施術できない旨を明記し、サインしてもらっています。こちらもトラブルは避けたいですから、身分確認などはきちんと行っています。

 ――衛生面は大丈夫ですか。
 
 針やインクを入れるキャップは使い捨てですし、ベッドやライトは、1回1回ラップやシートで覆っています。グリップやチューブなどの器具を消毒するための滅菌器も置いています。この滅菌器がないと、タトゥー・スタジオは開けないんです。

増田太輝さんが手がけたタトゥー作品
増田太輝さんが手がけたタトゥー作品

「ライセンス制の導入を」

 ――摘発についてはどう受け止めていますか。

 警察や検察の取り調べでは、「アートメイクと一緒でタトゥーも無免許なら医師法違反です」と言われました。でも、アートメイクとタトゥーでは目的が違う。タトゥーは芸術であり、作品です。それが医師法違反にあたるだなんて、思ってもみませんでした。僕はこの仕事に誇りを持っていますし、確定申告の職業欄にもはっきり「彫り師」と書いています。

 18歳未満にタトゥーを入れると、(自治体によっては)青少年健全育成条例違反になります。刑事さんに「であれば、成人には彫っていいはず。医師資格が要るという法律はおかしいのでは」と反論しましたが、流されてしまいました。彫り師になるために医師免許を取らなければいけないというのは、あまりにハードルが高過ぎる。医師免許がとれたとしたら、普通はそのまま医者になりますよ(笑)。

増田太輝さんが手がけたタトゥー作品
増田太輝さんが手がけたタトゥー作品

 ――だからと言って、まったく野放しにするのはマズイのでは。
 
 海外と同様、タトゥーのライセンス制を導入するべきではないでしょうか。昔から彫ってきた人たちが「今さらライセンスなんて」と思う気持ちはわかります。でも、逮捕者が出ている以上、このままグレーな状態ではいられないと思うんです。放置すれば、警察の目を逃れようとモグリが増えて、かえって地下化しかねない。ライセンス制にして、彫り師の仕事をきちんと認めてほしいです。

 次回は、刺青と規制の歴史を振り返りつつ、医師や作家の吉本ばななさんの見方を紹介します。

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