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ニッチなバラエティー番組、相次ぐ「終了」 試される〝熱量と体力〟
バカリズムMCの番組から考える「鮮度を保つ見せ方」
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バカリズムMCの番組から考える「鮮度を保つ見せ方」
各局でニッチな番組が休止・終了する中、テレビ東京系列の『バカリズムのちょっとバカりハカってみた!』がレギュラー放送を開始した。狭いカテゴリーを追うバラエティーは、なぜ生まれては消えて……を繰り返すのか? 番組特有の面白さと問題点、鮮度を保つ見せ方について考える。(ライター・鈴木旭)
今月15日、『ちょっとバカりハカってみた!』のレギュラー放送がスタート。初回は3時間半スペシャルと盛りだくさんの内容だった。
同番組は、「計る・測る・量る・図る・謀る・諮る」という幅広いニュアンスを持つ言葉の特性を生かし、とにかくあらゆる事象を愚直に“ハカる”検証バラエティーだ。
「東京で一番ハイカロリーな料理」といったグルメ系から、「ゆで卵を最速で剥く最強の裏ワザ」などの日常の豆知識、「日本一駅から近い家 何秒で玄関から電車に乗れるか」のようなニッチなものまで、序盤は検証VTRが次から次へと立て続けに放出されていく。
そうかと思えば、番組中盤からテイストが一変。「Amazonで注文してから商品が届くまでの時間を測ってみた」では最新技術を駆使した商品の保管施設に密着し、「日本一厳格な学校」では厳しいルールのもとで生活を送る日本航空高校といった学校の実態をたっぷりと見せた。
これに加えて、「日本一ぼっち生活をしている人は隣人とどれだけ離れているか」を測る企画では岐阜県の山奥で暮らす住人の生活ぶりを追っており、『ポツンと一軒家』(朝日放送テレビ・テレビ朝日系)にも似たテイストを感じさせた。
『デカ盛りハンター』(テレビ東京系)、『伊東家の食卓』(日本テレビ系)、『トリビアの泉 〜素晴らしきムダ知識〜』(フジテレビ系)、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)など、あらゆるバラエティーの要素を“ハカる”という切り口で丸呑みしたようなバラエティーだ。
さらには、検証VTRを見届けるスタジオのバカリズムや伊集院光らが、企画にまつわる体験談を話したり、独自の裏ワザを試したりして番組を盛り上げていく。こうした一連の自由度の高さが新鮮だった。
唯一気になったのは、すでに過去の特番で放送済みの検証VTRが差し込まれていた点だ。狭いカテゴリーの「日本一」や「飲食店No.1」といったシリーズが持ち味なだけに、できる限り新作に期待したい。
検証バラエティーと言えば、『巷のウワサ大検証!それって実際どうなの会』(TBS系)が真っ先に思い浮かぶ。
『それって!?実際どうなの課』(中京テレビ/日本テレビ系。2019年4月~2024年3月終了)と同じ極東電視台の制作によるもので、2024年6月から局をまたいで何度か単発番組が放送され、同年10月からレギュラー化された人気番組だ。
「鶏むね肉vs鶏もも肉 どっちが痩せる?」や「食前にきゅうりを食べると太らない!?」などのダイエット系、「ソフトクリームは超儲かる!?」や「ワケあり物件を徹底調査!!」といったものまで幅広く紹介。検証VTRには、『実際どうなの課』でおなじみのザ・たっちやWエンジンのチャンカワイはもちろん、狩野英孝&大島てるといった定番の顔触れが出演し、番組を盛り上げている。
一方、ニッチな番組に目を向けると、「コロッケの間奏詰め込み史」「パラパラチャーハン裏技史」など“せまい歴史”を掘り下げる『私のバカせまい史』(フジテレビ系)は今年3月の放送以降休止状態に。
衝撃的な体験をしたゲストのエピソードを講義形式で紹介する『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系。2016年10月~2017年9月までのタイトルは『アップデート大学』)も今年9月で終了している。
『私のバカせまい史』についてはフジテレビ問題の影響も考えられ、その要因は単純に視聴率の低下だけではないだろう。ただ、少なくともコンスタントにインパクトの強いテーマやゲストを見つけ出し、膨大な情報量と向き合い、高いクオリティーで週1回の番組を制作し続けるのは決してコスパがいいものとは言えない。
加えて、回を重ねるごとに既視感のある企画が増えやすく、時間に追われて情報を誤ったり過剰な演出で出演者と揉めたりと、様々な理由から質が落ちてしまう懸念もある。
大半のバラエティーにおいて、これを回避するのが定番の人気企画だ。制作陣はヒット企画の別のラインを模索し、視聴者もそれを期待するようになる。同時に新たな企画を試して反応を見ながら、さらに番組の鮮度を高めていく。このサイクルに入れるかどうかが、レギュラー番組の命運を分けると言っていいだろう。
視聴率低迷を打開するため、企画の方向性を変更するなどの“テコ入れ”はよくあることだが、ニッチな番組ほど「狭いターゲットに深く刺さること」を想定していて軌道修正しにくいのかもしれない。だからこそ、より出演者・スタッフの熱量と体力が試されるのではないか。
こうしたニッチな番組は、「不定期特番」や「年に一度のレギュラー番組」の道を歩むこともある。
例えば、「何の役にも立たないが、つい教えたくなる雑学・知識」を紹介し人気を博した番組『トリビアの泉』は、2002年から2006年までレギュラー放送され、その後は2007年から2012年まで何度も特番が放送されていた。
また、モグラのぬいぐるみである、ねほりん(声・山里亮太)とぱほりん(声・YOU)が“ワケありゲスト”のブタのぬいぐるみと人形劇形式で赤裸々なトークを展開する『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)は、2016年から2クール(シーズン1のみ月3回、以降は月2回放送)のペースで毎年レギュラーを継続。今年でシーズン10を迎えている。
直近では、2017~2020年までBSテレ東で放送されていた『バカリズムの30分ワンカット紀行』が今月13、14日に地上波で復活し、話題となった。同番組は、長回しの一発撮りで街や施設の模様を紹介する実験的なスタイルが特徴だ。つまり、街の住人や関係者らと協力し合い、立ち回りやセリフを含めた入念な段取りによって制作されている。
レギュラー当時はステディカム(ブレや振動を抑えるためのカメラ用機材)による長回しだったが、今回の放送では東京・西荻窪の街の人たちがスマホをリレーしての撮影を敢行した。
スマホカメラの目覚ましい進化もさることながら、手から手へと渡される映像が実に生き生きしていたのが印象的だった。ぜひ定期的に新作を見たいものだ。
『ちょっとバカりハカってみた!』のプロデューサーで、フェイクドキュメンタリー『イシナガキクエを探しています』など一癖ある番組を多く手掛けてきたテレビ東京の大森時生氏は、2023年元日放送の『あたらしいテレビ』(NHK総合)の中でこう語っている。
「個人的にテレビが今一番ハードルが低いので、面白くやりやすいと思ってますね。基本ベース、YouTubeとかNetflixとかのほうが面白いと思われてるので、テレビでちょっと面白いことやると『すごい面白い』と思われやすい」
王道ではなく“スキマ”を狙うテレビ東京らしい土壌も、大森氏の個性とマッチしたのだろう。バラエティーに今求められているのは、「鮮度をキープするための見せ方」なのかもしれない。
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