ネットの話題
〝ガムの包み紙〟をネット競売で買う理由「ただのゴミ」ではない価値

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ガムの包み紙やキャラメルの空き箱、使用済みのはがき。インターネットオークションでは、多くの人が「ただのゴミ」として捨ててしまうようなモノがたくさん出品されています。誰がこうしたモノに価値を見いだし、購入しているのでしょうか。購入者に話を聞いたところ、モノにかける情熱と熱量に圧倒されました。
「紙物コレクター」の鎌倉達敏さん=神奈川県=は、切手をメインとしつつガムの包み紙も集めています。現在、手元には600種類ほどの包み紙があるといいます。
今年7月に東京・錦糸町で開催された「第1回全日本切手まつり」で、昭和100年を記念して自身のガム包み紙コレクションを初めて大々的に展示しました。
モチーフは様々。漫画のキャラクターや野球選手、飛行機やファッションモデルが描かれた60年以上前のガムの包み紙は、何ともいえない味があります。大相撲の力士が描かれている包み紙もあり、当時の花形力士(柏戸、栃ノ海、佐田の山)の土俵入りが印刷されていました。
天才霊感少女として一世を風靡(ふうび)し、女性占い師の先駆けとしても人気を得た藤田小女姫(こととめ)さんの顔が印刷されたレモン味のチューインガムの包み紙もありました。「よく当る!!藤田小女姫さんの今日の運勢」(原文ママ)と印刷されていて、運勢占いを楽しめたようです。
鎌倉さんが「特に貴重なもの」といって指さしたのは、1964年発売の「森永トップスターガム」のパッケージ。包み紙を巻いたガムを束ねていた外装紙です。
「包み紙を取っておいた人はいるんです。でもパッケージはほとんど残っていない」。プロ野球選手が印刷されているガムで、外装紙には西鉄ライオンズの中西太と当時東映フライヤーズの監督だった水原茂が描かれていました。
包み紙は形が整っている上にきれいにはがすことも容易で、当時は集めている人もたくさんいたそうです。しかし、外装紙はやぶいて捨てられるのが普通で、今となっては大変な珍品だそう。「きれいにはがして取っていてくれた当時の少年に感謝です」
切手まつり実行委員長の水谷行秀さんによると、これまで、こうした催しで開催される「切手展」の多くは、自分の収集した切手や消印などをテーマに沿って展示していました。その希少性や入手難易度、知識や研究の深さなどを、切手に造詣(ぞうけい)が深い専門家が基準に沿って審査する「競争切手展」だったそうです。
しかし、競争切手展の厳格な基準は、ときに息苦しさを生み、切手収集のモチベーションを下げてしまうこともありました。
水谷さんは、「もっと自由で楽しい切手展ができないか」と、従来の枠にとらわれない「非競争切手展」を模索してきました。今回の切手まつりでは、切手をきっかけに広がった趣味の世界を自由に表現できるようにした上、審査員による審査をせず、会場とネットの投票で入賞者を決めることにしました。
切手収集は趣味の王様とも言われますが、切手を集めている人の中には、切手以外の印刷物にも守備範囲を広げた「紙物コレクター」が一定数存在しているといいます。割り箸袋や駅弁の包み紙、喫茶店のコースターなど、様々です。
鎌倉さんも切手集めの傍ら、ガムの包み紙を集め続けてきました。「同じ紙物コレクションでも、ガムの包み紙は切手とは違い、表舞台には登場しないものでした。従来の出品ルールにとらわれずに自由な発想で出品できるようになったので、ガムの包み紙と関連する切手をコラボさせた展示を思いついたのです」
包み紙の中には、「その道の大先輩」から受け継いだコレクションもありますが、ネットオークションも重要な入手ルートです。これまでは自分で集めるほかは、マニア間の相対取引か骨董(こっとう)市くらいしか入手経路はありませんでした。
「ネットオークションができて、コレクションの幅は相当広がりました。出品した人にとっては『売れればいいや』と軽く考えて出したモノでも、私たちから見たら『なんでこんな貴重なものが』ということが結構あるんです」
水谷さんも切手の大収集家ですが、「グリコのおまけ」をテーマにしたコレクションもしています。江崎グリコのキャラメル「グリコ」のおまけのおもちゃを集めている人はたくさんいそうですが、水谷さんの専門は、「グリコのおまけの切手」です。
グリコのおもちゃというと、立体的なおもちゃが思い浮かびますが、昭和30年代にグリコやアーモンドグリコに、世界各国の切手や、ピンセットやストックブック(切手収集に使う道具)と引き換えられる補助券がついていました。「切手とりかえ券」やサービス券が入っている時代もありました。
水谷さんはおまけの切手だけでなく、60年以上前のアーモンドグリコの空き箱、補助券やとりかえ券、切手が入っていたグラシン紙までもコレクションしています。
コレクションの中で意外な珍品は、カレールーの懸賞品です。グリコはお菓子だけではなく、カレールーも製造しています。今から20年ほど前、松田聖子さんとSAYAKAさん(当時、のち神田沙也加さん)の写真付き切手が当たるキャンペーンがありました。切手はもちろん、賞品が当たるお知らせが載ったカレールーの空き箱も手に入れました。
「これが意外と珍しいんです」と指摘したのは、写真付き切手を使った封筒。「普通、こういう切手が当たったら大事に取っておくもの。だけどそれを使った人がいたんですね」
東京都の犬飼英明さんは、画家が友人や知人に出した絵入りのはがきを集めています。著名人が出したはがきや手紙は、古書店などで取引されることがあります。
「有名な画家の絵は高すぎてとても買えません。でも、はがきなら私の小遣いでも買うことができたんです」
犬飼さんはサラリーマン時代から古書店にまめに足を運び、コツコツ1枚ずつ集めてきました。コレクションの中には、黒田清輝や平山郁夫などのビッグネームが並びます。版画家の棟方志功が描いた絵はがきもあります。
このほかにも、はがきに広告が印刷されていて、その分安い「エコーはがき」の中でも、ラーメンの広告が出ているエコーはがきのコレクションや、野球選手からもらったファンレターの返事なども展示されていました。
しかし、こうしたコレクションが家族の理解を得るのは難しいようです。
出品者の一人はしみじみと話しました。
「家族からしてみれば『ゴミ』と思われているのかもしれない。でも、こういうものは残っていること自体がすごいこと。私は文化財だと思っているんです。古いものを懐かしがった来場者が話しかけてくれて話が弾むときがたまにあり、それがとてもうれしいんです」
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