連載
#35 #令和の専業主婦
25年の正社員生活からパートを選択 出産をきっかけに変化したこと
「違う立場への想像力を働かせてほしい」

男女雇用均等法が施行してまもなく働き始めた50代の女性は、25年間、正社員として働いていました。しかし家庭環境の変化で、現在は「106万円」におさまるようにパートタイムで働きます。保険料の負担についての不満の矛先が、「専業主婦(主夫)」や扶養の範囲内で働く人に向けられることがありますが、女性は「違う立場への想像力を働かせてほしい」と訴えます。
関東に住む50代の女性は、1986年の男女雇用均等法施行からほどなくして会社に入りました。
新卒で勤めた先は金融系。結婚して退職する「寿退社」もまだ一般的な時代で、勤めて3年後の面談では、「今後1,2年で引っ越しの予定はありますか?」と、暗に結婚の可能性があるかどうかを聞かれたといいます。
「いまでも女性を蔑視した発言での謝罪などがありますが、そういうのが『普通』だった世代です。ただ、そういうことにはカチンと来る性分なので、面談のときは『引っ越しも結婚もしません』と答えました」
もともと「長く働きたい」と思っていた女性は、ここだと難しいと考え、4年目にさしかかるところで転職。ただ、この入社面接の時にも忘れられない出来事がありました。
女性が「ここで一番長い女性はどのくらい勤めていますか?」と質問したところ、「一番歳を取っている人で50代かな」と返ってきたのだそうです。
さらにその後、別の面接官が「本当は早く辞めてほしいんだけどね」と冗談めかして言っていたことも覚えています。
一方で「50歳くらいまで続けられるんだ」とも感じたそうで、入社後は複数の職種を経験しながら15年近く勤めましたが、会社の大きな動きの中で、早期退職しました。
在籍中から続けていた転職活動もうまくいき、15年勤めた会社を辞めた翌日から、都内の別の会社に、正社員として入社。休むことなく働き続けてきました。
そんななか、およそ1年後の40歳手前で第1子を授かりました。
「子どもはできないだろうなと思っていた」と驚き、「産休育休を取るのは申し訳ない」と思ったといいます。
いまでこそ育休の取得率は85%ほどとなりましたが、女性が出産した2000年代半ばは、1992年の育児休業制度開始から10年ほどしか経過していなかったこともあり、育休取得率は70%台でした。
女性の場合は、職場で産休・育休を取得する人たちも増えてきていたことや、男性の上司から「権利なんだから取った方がいい」と声をかけられたことから、育休をとってその後に復帰する働き方を選ぶことができました。
出産した子どもに長期的な通院が必要になったことから、復帰後は時短での勤務となった女性。
そんな中、2011年に東日本大震災がありました。
当時勤めていた会社は都内にあり、自宅から1時間以上かけて通勤していました。震災時は、帰宅困難者となり、保育園に到着したのが翌日の午前2時でした。
「今度同じようなことがあったら、通院が必要な子どもを迎えに行くのも難しい」と考え、女性は退社を決意したそうです。
転職活動中、正社員のポストも探しましたが、頻繁に通院する娘をサポートしながら、自宅近くで働ける仕事となると、見つかったのは事務職のパートの仕事でした。
「働かない期間が発生すると、子どもの保育園を一度退園させないといけなくなってしまう。子どもの生活は変えずに、自分を変えることを決めていた」といい、「見つかったところですぐに働こう」と、現在のパートタイム勤務に至ります。
パートでの勤め先は、女性によると「従業員にかかる諸経費はできるだけ削減したいという意向が強い会社」だといいます。
従業員が「年収106万円の壁」を超えて働いた場合、厚生年金は従業員と事業主の折半で負担する必要があります。事業主側の意向もあって、女性は106万円の年収におさまる範囲内で働いているといいます。
一方で、会社側は「家庭状況への理解がある」そうで、働き方のペースがつかめてからは、仕事と育児や家事などのバランスのとれた生活が成り立っているといいます。
社会保険料の負担についての不満の矛先が、大括りにした「専業主婦(主夫)」や「3号」(専業主婦も含まれる、国民年金の第3号被保険者)、扶養の範囲内で働く女性に向けられることが、ままあります。
正社員として25年働いていた経験がある女性は、年金を受け取る高齢者世代を「支える側」でした。しかし家庭環境が変化し、現在の扶養の範囲内で働くことを選択しています。
女性は「みんなが同じ条件で働けるわけではないし、働き方を変えないといけない人もいる。専業主婦や年収の壁の中で働く人への批判には、『どうなの?』と思うところがある」と話します。
「この問題に限らず、違う立場への想像力を働かせてほしいし、いま自分がうまくいっていても、それが必ずしもずっと続くわけではないということも知ってほしいです」
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