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『ダブルインパクト』 ニッポンの社長・ロングコートダディの秀逸さ

大会の演出には課題も残ります

上方漫才大賞新人賞を受賞した際のニッポンの社長の辻(左)とケツ=2022年、大阪市中央区、照井琢見撮影
上方漫才大賞新人賞を受賞した際のニッポンの社長の辻(左)とケツ=2022年、大阪市中央区、照井琢見撮影 出典: 朝日新聞社

目次

漫才とコントの〝二刀流〟で競う『ダブルインパクト~漫才&コント 二刀流No.1決定戦~』(日本テレビ・読売テレビ系)の決勝戦が21日に開催され、「ニッポンの社長」が見事初代王者の座を射止めた。上位2組のネタを中心に振り返りながら、初年度となる大会で見えた傾向と生放送ならではの醍醐味についても考える。(ライター・鈴木旭)

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期待が高まった大会システム

エントリー総数は2875組。4月から1回戦が開始、5月に2回戦と準々決勝、6月に準決勝と非常にタイトなスケジュールで進行し、瞬く間に7月の決勝を迎えた。

準々決勝以降のネタ尺は、「漫才4分」「コント4分」。決勝は、審査員ひとりが持ち点100点(審査員5人で500点満点)で採点し、ネタ2本の合計得点で優勝者を決定する。

これに併せてネタ順を決めるルールに期待も高まった。

出場者はあらかじめドラフト制(出場者が希望する1本目のネタ順を提示し、かぶらなければ決定、かぶれば抽選)で確定したネタ順を踏まえ、当日「漫才とコント、どちらを先に披露するか」が明かされる。

さらに、2本目は「1本目の得点が低いほうから順番に披露する」という規定によって、「漫才」「コント」のランダムな並びがさらにシャッフルされる算段だ。

『キングオブコント』初期(2009年~2013年)の「全組がネタ2本を披露する」構造を踏襲しつつ、『M-1グランプリ』における「笑御籤(えみくじ)」のように運の要素を含むシステムだ。詳しくは後述するが、この点は検討すべき余地があったように思う。

MCは、かまいたちのふたりと橋本環奈。審査員は、千原兄弟・千原ジュニア、中川家・剛、フットボールアワー・後藤輝基、ナイツ・塙宣之、アンガールズ・田中卓志の5人だ。とくに千原、剛、後藤の3人は、賞レースの審査員として新鮮だったうえ、腑に落ちる言葉も多かった。

ファイナリストは、かもめんたる、スタミナパン、コットン、セルライトスパ、ニッポンの社長、ロングコートダディ、ななまがりの7組。賞レースを沸かすメンバーが揃う中、ニッポンの社長、ロングコートダディの上位2組は何が勝っていたのか。審査員のコメントを含めて振り返る。

「繰り返し」「大喜利力」が勝因、ニッポンの社長

まずは、優勝したニッポンの社長のネタから見ていきたい。5番手で登場したニッポンの社長は、1本目にコントを披露した。

負傷してボロボロとなったケツと辻皓平が、脱出すべくやってくるもドアを開閉する電線が途中で切れている。これを見たケツが「人間の体の60%は水分でできてる。だから、電気が通る」と自身の体を犠牲に、辻ひとりを脱出させようと試みる。

切れた電線を手に取り、電気に痺れて「うあぁ~!!」と悲鳴を上げるケツ。ドアが開く。しかし、辻は「お前を置いては行けない」と脱出しない。その後も、ケツが辻に「お袋に渡してくれ」と頼み事をすると「お前の実家の住所知らんわ」、ケツがこれから生まれる辻の娘に「優美(ゆみ)」と名付け背中を押すと、「優美、いとこにひとりおんねん」などと戻ってきてしまい、結局はラストまで脱出しないというシュールなものだ。

これが475点の高得点をたたき出し、トップ通過。審査員の剛は「繰り返し繰り返し同じことで。途中なんか『笑わんといたろう』と思ったんですけど、もう無理でしたね」、千原は「『どうあの扉の向こうに行かないか大喜利』の答えが全部上回って最後までいった」と称賛した。

2本目は規定に則ってトリの7番目に登場し、漫才を披露。辻が、マクドナルドのドライブスルーで「歩き、チャリ、原付」で注文できる、カラオケボックスで「店員さんに頼んだら一緒に歌ってくれる」などと嘘の情報を仕込み、ケツがそれを演じて見せると警察に捕まったりひどい目に遭ったりする。何ともニッポンの社長らしい理不尽な漫才コントだ。

漫才で474点を獲得し、合計949点。とくに1本目のコントで「非日常的な世界観」と「あまりに日常的な辻のセリフ」とのコントラスト、「繰り返すことで増す、ケツのリアクションの面白さ」が爆発した。今回の優勝はそこに尽きるのではないか。

母親との思い出を語る「ニッポンの社長」のケツさん=2020年、大阪市中央区、滝沢美穂子撮影
母親との思い出を語る「ニッポンの社長」のケツさん=2020年、大阪市中央区、滝沢美穂子撮影 出典: 朝日新聞社

手法の多さが光ったロングコートダディ

6番手で登場し、準優勝を果たしたロングコートダディも1本目はコントだった。闇組織のアジトと思われる場所で、兎が新入りの堂前透に足がつかない“コードネーム”の重要性を説いている。

堂前が付けられたコードネームは「ネズミのトッピーの大冒険」。兎から2番目に大事なものを問われて答えた絵本のタイトルだ。堂前は憤るも、兎から「俺の名前は『久々に運動した時の気持ちよさ』だ」と明かされて引き下がる。

後日、コードネームを変えることになり、堂前は2番目に嫌いなものを「ジャック」と回答。しかし、今回は逆から読む方針に変わり、「クッャジ」に。兎は「じんかいなれねんぜんぜにるよ」だ。ラストは、アジトが襲われたタイミングで堂前は「マトリックス」、兎は「あの あれ 車で過去にいくやつ」になっていたことがわかる。兎が全く学習していない滑稽さにジワるオチだ。

470点で2位通過を果たすと、続く2本目も6番手で舞台に上がり、子どもの遊びにまつわる漫才を披露。堂前は「今度、甥っ子と遊ぶ」という兎に新しい遊びを紹介する体で、ことごとく兎をおもちゃにする。

鬼がリズムを口ずさみ、子がそれに乗って踊るはずの「だるまさんがころんだ2」では堂前が微動だにせず、膝やおでこなど指示した体の部位を地面につける「すぐつくゲーム」では兎が土下座状態にさせられる始末。飄々としていて悪知恵が働く堂前と、文句を言いつつ振り回される兎のキャラクターがよく出たネタだった。

この漫才で477点を獲得。審査員の後藤は「笑かし方の手法の手数の多さがやっぱすげぇなと」「(コントとは)全く違う方式」、剛は「堂前くんの飄々としたボケと兎くんのツッコミと。僕はもうさっきのコントより圧倒的に漫才のほうが面白かった」、塙は「こういうネタっていうのは憧れますね、漫才師としても」とふたりを絶賛した。

漫才だけならトップの得点だったが、合計は947点。ニッポンの社長と僅差で敗れただけに悔しいところだろう。次回に期待したい。

お笑いコンビ「ロングコートダディ」の堂前透(左)と兎=2023年、大阪市北区、滝沢美穂子撮影
お笑いコンビ「ロングコートダディ」の堂前透(左)と兎=2023年、大阪市北区、滝沢美穂子撮影 出典: 朝日新聞社

漫才コントの評価軸

3位のセルライトスパは、間違いなく大会のギアをひとつ上げた。4番手で登場し、低姿勢ながらとぼけたキャラの大須賀健剛と、バスジャック犯の肥後裕之が隣席になり巻き起こるコントを披露。

1本目でロングコートダディと同じ470点を獲得し、5番手で臨んだ漫才も肥後の歌唱と大須賀の相撲を対立させるユニークなネタで463点の高評価を受けている。

ニッポンの社長、ロングコートダディ、セルライトスパは2019年にコントユニット「関西コント保安協会」を結成。2021年には、関西では稀なコント特番『関西コント保安協会』(ABCテレビ)を立ち上げた盟友だ。そんな彼らが上位3組に選ばれたのは感慨深い。

4位のコットンも、ウケ量だけならトップクラスだったと思う。ただ、2本目の漫才コントで審査員の剛から「さっきのコントとちょっとかぶってたかな」「あとは完璧でした」、後藤から「やっぱ上手やから」「(だからこそ)コントとの差は漫才でもっと見せてほしかった」とコメントがあったように、大会意義を踏まえた採点によって合計926点に留まった。

かもめんたるは、トップバッターだった点に尽きるだろう。1本目に披露した生々しいコントは、ポップなコントに対するカウンターだからこそ生きる。2本目の演説を思わせる漫才も岩崎う大らしさ全開で、審査員の千原が「かもめんたるの漫才の系譜が見当たらない」「(それが)非常に僕はいいなと思いました」と95点の高得点をつけていたのが印象的だ。

ななまがりは、1本目のコントで何度もビキニ姿で登場するという「あえて繰り返す面白さ」を狙ったが、ライト層が多いであろう会場の観客にはいまいち刺さらなかった。彼らの特徴でもある“執拗なまでの繰り返し”が、ニッポンの社長と重なったこともウケ量に影響したのかもしれない。

1本目に唯一の漫才を披露したスタミナパンは、爆発力こそなかったが安定した笑いをとっていた。また、2本目の得点発表後、ツッコミのトシダタカヒデが「僕らだけちゃんと(1本目に)漫才を選んで、『ダブルインパクト』っていう大会のよさを示せたのかなって」「みんななんか、得意なコントからやってね。よくないでしょ、あんなの!」などと会場を沸かせており、平場の強さを感じた。

全体として、漫才は“しゃべくり”よりも“漫才コント”が多かった。厳密に言うと、かもめんたる以外の6組が体の動きや表情など「視覚的な面白さ」で笑わせていた。そんな中、「対立」「遊び」「場面転換の多い寸劇」と“立ち話の範囲に収まるもの”や“コントでは勢いが失速してしまうもの”が評価されたように思う。

“大会の熱量と混乱”が見たかった

どんな大会でも、ネタ順は勝敗を左右する。加えて、『ダブルインパクト』は“漫才&コントの二刀流No.1”がコンセプトの大会だ。だからこそ、「漫才とコント、どちらを先にやるか」を出場者の希望に委ねるのではなく、最低でも7組のうち3組が1本目に漫才を披露するルールで展開してほしかった。

“沖縄のお笑いNO.1”を決める大会として、すでに琉球朝日放送が漫才&コントの賞レース『お笑いバイアスロン』を開催している。この大会がジャンルごとに横並びで審査する方式なだけに、『ダブルインパクト』は完全にランダムな見せ方で差を出すべきだったのではないか。

結果として、今大会ではスタミナパン以外の6組が1本目にコントを選択している。大会終了後にTVerで配信された『ファイナリスト反省会』の中で、ニッポンの社長・辻が「コント師多いから、『ちょっとコントやらな離されるな』と思った」と語っている通り、最初に得意なコントで得点を稼ごうと考えたコンビが多かったのだろう。

ただ、手練れの芸人たちなら、どんなネタ順・ジャンルでも結果を残せるはずだ。制作側は、出場者の実力を信用し、そこに賭けてほしかった。

また、とくに前半の「ネタ1本披露するごとにCMが入る」という流れは、大会全体のリズムを壊していると感じた。「比較が難しい二刀流の大会」だからこそ、少なくとも2組は続けてネタを披露してほしかった。そうでなければ、比較の難しさも伝わらず、生放送の臨場感も出ない。視聴者は、“大会の熱量と混乱”が見たいのだ。

とはいえ、『M-1』以降のどの賞レースも、最初から期待の声が多かったものは記憶にない。『ダブルインパクト』においても、年を追うごとに整理され育っていくことを祈るばかりだ。

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